講演情報
[T11-O-1]都市域の3次元地質地盤図:「千葉県北部延長」地域における更新統下総層群の層序
*米岡 佳弥1、中澤 努1、野々垣 進1、中里 裕臣1 (1. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)
【ハイライト講演】 演者らは3次元地質地盤図「千葉県北部延長」地域の調査において,更新統下総層群のテフラ層序を詳細化し,関東平野中央部の継続的な沈降運動とMIS 7c最大海進期の海陸境界付近の層相変化を明らかにした.地下浅部の地層の連続性や層相変化を正確に把握できたことにより,持続可能な地下水利用や地盤リスク評価への貢献が期待される. ※ハイライト講演とは...
キーワード:
都市域の地質地盤図、下総層群、千葉県、更新統
産総研地質調査総合センターでは,自治体などが公開している大量のボーリングデータを用いて地層の広域的な対比を行い,コンピュータ解析により地層の3次元的な分布を表現した「都市域の地質地盤図(3次元地質地盤図)」を作成・公開している.この地質地盤図はweb上で公開されており,3次元的に表現されることで非専門家でも直観的に地下地質を理解できる利点がある.経済産業省の知的基盤整備計画に基づき,2018年に「千葉県北部地域」,2021年に「東京都区部」,2025年に「埼玉県南東部」を公開した[1].今年度は「千葉県北部延長」及び「千葉県中央部」の公開に向け準備を進めている.
本発表では「千葉県北部延長」地域の調査において,関東平野中央部の継続的な沈降運動を示唆する構造とMIS 7c最大海進期の古地理を明らかにしたので紹介する.本地域は野田市を中心とする地域で,利根川と江戸川に挟まれた下総台地が広く分布する.下総台地の下総層群は下位から地蔵堂層,薮層,上泉層,清川層,木下層,常総層に区分される.我々はこの地域の北から南へ,関宿GS-ND-3,東小金井GS-ND-1[2],山崎GS-ND-2[3]の3地点でボーリング調査を実施した.これらのコアからはKy3(TB-8)テフラやKm2(TCu-1)テフラなどの特徴的なテフラが認められ,層序は明確に区分できる.
関宿GS-ND-3コアは,下総層群最下部の地蔵堂層(MIS 11)から最上部の常総層(MIS 5c)まで連続的に観察できる.関宿コアでは地蔵堂層にJ4(TE-5a)テフラ,上泉層下部にAta-Thテフラが認められた.また,薮層にBT72,上泉層下部にSgP.1及びSgP.2に類似のテフラが認められた.今後,化学分析を実施する予定であるが,SgP.2テフラは関東平野中央部で報告がなく,上泉層の新たな指標テフラとなる可能性がある.
本地域の下総層群は,広域的に見ると内陸側(北西側)に傾斜しており,この傾斜は下位の地層ほど大きくなる傾向を示す.つまり関東平野中央部(調査地域の北西側)の沈降は少なくともMIS 11(約40万年前)以降MIS 5c(約10万年前)まで継続的であったと言える.また,清川層(MIS 7c)は柏市より南~南東の地域では海成砂層主体で,その北の山崎GS-ND-2では一部海成層を含む泥層からなり,さらに北の東小金井GS-ND-1では泥層主体の陸成層のみからなる.これらのことからMIS 7cの最大海進期において,海域は調査地域の南~南東側から山崎GS-ND-2付近まで及んだと解釈された[3].今回,地質地盤図の作成過程で大量のボーリングデータを確認したところ,山崎よりさらに北の野田市光葉町付近までMIS 7cの海成層が連続していることが明らかとなったものの,MIS 7cの海進はMIS 5eやMIS 7eに遥か及ばないことが明らかになった.なお,「千葉県北部地域」では成田から柏にかけて,台地の地下に谷埋め状に分布するMIS 5eの軟弱泥層(木下層下部)が確認され,地盤リスクとして注目されたが,本地域には同様の地層は認められなかった.
本研究では,「千葉県北部延長」地域に分布する下総層群の層序とテフラ対比が詳細化され,関東平野中央部の継続的な沈降運動とMIS 7c最大海進期の古地理が明らかになった.地質地盤図の整備により,地下浅部の地層の連続性や層相変化を正確に理解することが可能となり,持続可能な地下水利用や地盤リスク評価への貢献が期待される.
[1] 都市域の地質地盤図,URL: https://gbank.gsj.jp/urbangeol/
[2] 中澤・田辺(2011)5万分の1地質図幅「野田」.
[3] 米岡ほか(2024)地質学雑誌,130,223–238.
