講演情報

[T11-O-3]横浜市中心街の低地の地質構成と地盤震動特性:極めて軟弱な沖積層とその基盤をなす固い上総層群

*中澤 努1、長 郁夫1、野々垣 進1、尾崎 正紀1、坂田 健太郎1 (1. 産業技術総合研究所地質調査総合センター)
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キーワード:

沖積層、地盤震動特性、横浜

 沖積層は一般に軟弱な地層として扱われるが,特に台地を開析する小河川沿いの低地の沖積層は極めて軟弱な泥層からなることが多い(中澤ほか,2024;小松原・内田,2025).また沖積層とその基盤をなす地層の関係を考えた場合,両者間の物性コントラストが大きいほど,揺れが大きく増幅されやすくなる(Konno and Ohmachi,1998;中澤ほか,2023).以上の考えに基づけば,固結した地層を基盤とする小河川沿いの低地で,かつ沖積層が厚い地域は,地震動の災害リスクが極めて高いことになる.そこでこの条件にあてはまると思われる横浜市の大岡川低地においてボーリング調査と常時微動観測を実施し,低地地下浅部の地質構成と地盤震動特性を検討した.
今回,大岡川低地の上流側(横浜市南区蒔田)と下流側(横浜市中区尾上町)の計2箇所でボーリング調査を実施した.いずれも埋没谷の軸部に相当する.調査地域の沖積層の基盤は,固結した泥岩(Vs > 400 m/s)を主体とする上総層群からなる.沖積層の層厚は上流側ボーリング地点で層厚30 m,下流側ボーリング地点で層厚45 mである.沖積層の堆積相は下位より河川相,干潟相,内湾相,干潟相からなるが,このうち沖積層の主体をなす内湾相は含泥率ほぼ100%の泥層からなり,極めて軟弱な特性を示す.ボーリング孔で実施したPS検層の結果に基づけば,内湾相の平均S波速度は約100 m/sで,特に上半部は80 m/sを下回ることもある.また内湾相の上下の干潟相もS波速度は多くは200 m/s以下である.沖積層基底部の河川相の砂礫層は400 m/sを上回ることもあるが層厚が小さいため,工学的基盤(Vs > 400 m/s)の上面深度はほぼ上総層群の上面深度となることが多い.ボーリング地点を含む低地を横断する測線上で微動アレイ観測を実施した結果,沖積層に相当する低速度層が低地の地下に谷埋め状に分布するプロファイルを描き出すことができた.また揺れの共振周波数を示すとされるH/Vスペクトルには,上流側ボーリング地点で1.1 Hz付近,下流側ボーリング地点では0.8 Hz付近にいずれも極めて明瞭なピークが認められた.例えば東京低地では,今回の横浜地域と同様に1 Hz付近にピークが認められることがよくあるが,沖積層下部の七号地層がN値20〜30程度のあまり固くない砂泥互層からなる地域ではH/Vスペクトルの1 Hz付近が台状の低いピークとなる(中澤ほか,2023).一方で,横浜地域では.低地の縁辺部を除けば,ボーリング地点以外の観測点でもH/Vスペクトルのピークが一様に明瞭であった.これは,この地域の沖積層が極めて軟弱なことと,基盤が固結した上総層群からなることが影響しているものと考えられる.大岡川低地に限らず,このようなセッティングの低地では,一般的な沖積低地よりも揺れが大きく増幅されやすいことが示唆される.
文献:
小松原・内田(2025)地質学雑誌,131,45-58.
Konno and Ohmachi (1998) Bull. Seismol. Soc. Am., 88, 228-241.
中澤ほか(2023)地質学雑誌,129,263-270.
中澤ほか(2024)地質学雑誌,130,17-33.