講演情報
[T11-O-4]1923年関東地震時に臨海部で発生した地裂近傍の地質状況:館山市長須賀での地質調査から
*風岡 修1、小島 隆宏2 (1. 千葉県環境研究センター地質環境研究室、2. 北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所)
キーワード:
液状化-流動化、沖積層、1923年関東地震、館山市、地裂
はじめに:
1923年関東地震の際,房総半島の南端に近い,当時の館山町・北条町(現在の館山市)では,家屋の全壊率が67%と93%と非常に高く,現在の気象庁震度階7に匹敵する非常に強い揺れであったことが推定される.この場所の海岸部では,砂丘上を海岸線に平行な北北東~北東方向に約3km延びる複数の「地裂」が見られ,この中の砂丘の海側の麓付近のものは海側に急崖を伴う「陥落地裂」となっており,これら地裂に沿って「砂泥土及び水の噴出」が見られた(地質調査所,1925).これらのことから,この地裂は砂丘下の自然地層の液状化-流動化に伴って発生した可能性が高い.
そこで,自然地層の液状化-流動化と地裂といった地表変形の状況を調べるため,館山市長須賀の公共用地において,北東方向に延びる地裂に直行する方向に動的コーン簡易貫入試験を2~8m間隔に深度7.5~11mまで行い,地裂の位置を確認し,地裂の近傍において,その北西側と南東側の2か所で深度10mと11.55mのオールコアボーリングを行った.以下に調査結果を述べる.なお,この場所は関東地震によって約1m隆起していた.
調査の概要:
オールコアボーリングはB-1地点(北緯34度59分24.2秒,東経139度51分23.1秒,標高4.1m)では深度10mまで,B-2地点(北緯34度39分24.5秒,東経139度51分22.4秒,標高3.9m)では深度11.55mまで行った.
動的コーン貫入試験は,北西方向の測線上で斜面調査用簡易貫入試験機にて行った.
地層構成:
調査地周辺の既存の標準貫入試験データから,沖積層の厚さは約30mあり,今回得られたオールコアボーリング試料は,この内の上部にあたる.ここでの詳細な地層構成は以下のとおりである.
下位より,厚さ0.55m以上のフレーザー層理やウェービー層理が見られる薄い極細粒砂を挟むオリーブ灰色の軟らかいシルト層,厚さ約3mでオリーブ灰色の生物擾乱が著しい中位の硬さの極細粒砂~細粒砂層,厚さ約1.5mの泥勝ち砂泥互層(砂層はオリーブ黒色の中位の硬さで塊状の中粒砂主体,泥層はオリーブ黒色の生物擾乱が著しい中位の硬さの細粒砂質シルト層),厚さ約0.95m又は約1.45mのオリーブ黒色で中位の硬さの塊状の中粒砂を主体とする砂層,厚さ約1.7mのオリーブ黒色で斜交層理が明瞭なゆるい貝殻片混じりの砂礫層,厚さ約1.0m又は約0.9mのオリーブ黒色で斜交層理が明瞭で貝殻片を含むゆるい~中位の硬さの粗粒砂を主体とする砂層から構成される.また,この上位には厚さ約2.9m又は約2.3mの灰オリーブ~オリーブ黒色で礫混じり粗粒砂からなる盛土層が重なる.
動的コーン簡易貫入試験結果も合わせると,各地層は極ゆるく海側の北西方向へ傾き,ほぼ平行に連続するものの,下から第4層目の塊状の中粒砂層の途中より上位で,地裂を境に層境界に段差が見られた.地震後の旧地表面と思われる盛土層下面は,0.4mの段差となり,内陸側の南東側が低くなっている.下から第4層面の塊状の中粒砂層は,地裂を境に南東側の方が北西側に比べて約0.5m薄く,この層の基底面は地裂の北西側と南東側で連続し,段差はほとんど見られない.
液状化-流動化に関して:
液状化-流動化の判定は,風岡ほか(1994)・風岡(2003)に基づき,初生的な堆積構造の状態より判断した.沖積層の,下から3層目の泥勝ち砂泥互層中の砂層と,下から4層目の砂層は,層相から本来は葉理が明瞭な浅海性の砂層であるにもかかわらず塊状であり,地層形成時の葉理が完全に消失したものと思われることから,この部分が地震時に液状化-流動化したものと考えられる.また,下から4層目の砂層は地裂の南東側の方が薄くなっており,これが南東側の地表の低下をもたらした主因と考えられる.
地震前に作成された陸地測量部による迅速測図を見ると,調査地は砂丘上に位置する可能性が高い.当初,この亀裂は従来の砂丘の海岸縁の陥落地裂と思われていた.しかし,調査の結果,内陸側の方が液状化により地表面が低下していることから,今回調べた地裂は,陥落地裂よりも内陸側の砂丘上に見られた地裂と推定される.また,この地裂は,下から4層目の砂層の液状化-流動化がその形成に大きく影響したものと考えられる.
一方,房総半島の南部では,関東地震よりも大きな元禄地震も発生しており,これら地層中に見られた液状化は二度の地震又はどちらかの地震による可能性もある.
引用文献:
地質調査所, 1925, 関東地震調査報告第二.地質調査所特別報告 第2号, 185p.
風岡 修ほか,1994,日本地質学会第101年総会・討論会 講演要旨,125-126.
風岡 修,2003,液状化・流動化の地層断面.アーバンクボタ40号,5-13.
1923年関東地震の際,房総半島の南端に近い,当時の館山町・北条町(現在の館山市)では,家屋の全壊率が67%と93%と非常に高く,現在の気象庁震度階7に匹敵する非常に強い揺れであったことが推定される.この場所の海岸部では,砂丘上を海岸線に平行な北北東~北東方向に約3km延びる複数の「地裂」が見られ,この中の砂丘の海側の麓付近のものは海側に急崖を伴う「陥落地裂」となっており,これら地裂に沿って「砂泥土及び水の噴出」が見られた(地質調査所,1925).これらのことから,この地裂は砂丘下の自然地層の液状化-流動化に伴って発生した可能性が高い.
そこで,自然地層の液状化-流動化と地裂といった地表変形の状況を調べるため,館山市長須賀の公共用地において,北東方向に延びる地裂に直行する方向に動的コーン簡易貫入試験を2~8m間隔に深度7.5~11mまで行い,地裂の位置を確認し,地裂の近傍において,その北西側と南東側の2か所で深度10mと11.55mのオールコアボーリングを行った.以下に調査結果を述べる.なお,この場所は関東地震によって約1m隆起していた.
調査の概要:
オールコアボーリングはB-1地点(北緯34度59分24.2秒,東経139度51分23.1秒,標高4.1m)では深度10mまで,B-2地点(北緯34度39分24.5秒,東経139度51分22.4秒,標高3.9m)では深度11.55mまで行った.
動的コーン貫入試験は,北西方向の測線上で斜面調査用簡易貫入試験機にて行った.
地層構成:
調査地周辺の既存の標準貫入試験データから,沖積層の厚さは約30mあり,今回得られたオールコアボーリング試料は,この内の上部にあたる.ここでの詳細な地層構成は以下のとおりである.
下位より,厚さ0.55m以上のフレーザー層理やウェービー層理が見られる薄い極細粒砂を挟むオリーブ灰色の軟らかいシルト層,厚さ約3mでオリーブ灰色の生物擾乱が著しい中位の硬さの極細粒砂~細粒砂層,厚さ約1.5mの泥勝ち砂泥互層(砂層はオリーブ黒色の中位の硬さで塊状の中粒砂主体,泥層はオリーブ黒色の生物擾乱が著しい中位の硬さの細粒砂質シルト層),厚さ約0.95m又は約1.45mのオリーブ黒色で中位の硬さの塊状の中粒砂を主体とする砂層,厚さ約1.7mのオリーブ黒色で斜交層理が明瞭なゆるい貝殻片混じりの砂礫層,厚さ約1.0m又は約0.9mのオリーブ黒色で斜交層理が明瞭で貝殻片を含むゆるい~中位の硬さの粗粒砂を主体とする砂層から構成される.また,この上位には厚さ約2.9m又は約2.3mの灰オリーブ~オリーブ黒色で礫混じり粗粒砂からなる盛土層が重なる.
動的コーン簡易貫入試験結果も合わせると,各地層は極ゆるく海側の北西方向へ傾き,ほぼ平行に連続するものの,下から第4層目の塊状の中粒砂層の途中より上位で,地裂を境に層境界に段差が見られた.地震後の旧地表面と思われる盛土層下面は,0.4mの段差となり,内陸側の南東側が低くなっている.下から第4層面の塊状の中粒砂層は,地裂を境に南東側の方が北西側に比べて約0.5m薄く,この層の基底面は地裂の北西側と南東側で連続し,段差はほとんど見られない.
液状化-流動化に関して:
液状化-流動化の判定は,風岡ほか(1994)・風岡(2003)に基づき,初生的な堆積構造の状態より判断した.沖積層の,下から3層目の泥勝ち砂泥互層中の砂層と,下から4層目の砂層は,層相から本来は葉理が明瞭な浅海性の砂層であるにもかかわらず塊状であり,地層形成時の葉理が完全に消失したものと思われることから,この部分が地震時に液状化-流動化したものと考えられる.また,下から4層目の砂層は地裂の南東側の方が薄くなっており,これが南東側の地表の低下をもたらした主因と考えられる.
地震前に作成された陸地測量部による迅速測図を見ると,調査地は砂丘上に位置する可能性が高い.当初,この亀裂は従来の砂丘の海岸縁の陥落地裂と思われていた.しかし,調査の結果,内陸側の方が液状化により地表面が低下していることから,今回調べた地裂は,陥落地裂よりも内陸側の砂丘上に見られた地裂と推定される.また,この地裂は,下から4層目の砂層の液状化-流動化がその形成に大きく影響したものと考えられる.
一方,房総半島の南部では,関東地震よりも大きな元禄地震も発生しており,これら地層中に見られた液状化は二度の地震又はどちらかの地震による可能性もある.
引用文献:
地質調査所, 1925, 関東地震調査報告第二.地質調査所特別報告 第2号, 185p.
風岡 修ほか,1994,日本地質学会第101年総会・討論会 講演要旨,125-126.
風岡 修,2003,液状化・流動化の地層断面.アーバンクボタ40号,5-13.
