講演情報

[T11-O-12]関東地下水盆のモニタリングと地盤沈下現況

*香川 淳1、古野 邦雄2 (1. 千葉県環境研究センター 地質環境研究室、2. 元地質環境研究室)
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キーワード:

関東地下水盆、地盤沈下、水準測量、観測井、地下水揚水量

 はじめに
 関東平野は厚い堆積層によって形成され豊富な地下水資源を含むことから「関東地下水盆」と呼ばれる一方で,過剰な地下水採取による深刻な地盤沈下も発生してきた.このため関東地方の各自治体では地盤沈下の監視や地下水の有効利用を目的とした精密水準測量,観測井による地下水位・地層収縮量の観測,地下水揚水量調査等が行われてきた.こうした関東地下水盆における地盤沈下とその監視の現況について紹介する.

水準測量
 関東地区における精密水準測量は1893(明治25)年に開始されて以降徐々に拡充され,2023年現在,1都6県4政令市および国土地理院により水準点数3039点,測量距離4641km,調査面積7569.3km2の規模で実施されている(図-1).この成果によると大正期にはすでに東京都で地盤沈下が観測されており,昭和初期には神奈川県(川崎市)でも地盤沈下が進行していたことがわかる.その後1940年代後半から1950年頃までの戦中戦後期には地盤沈下は減少したが,1950年代後半の高度成長期以降,関東平野南部の広範囲で地盤沈下が急激に進行した.1970年代には関東平野南部の地盤沈下域は縮小した一方,1980年代以降,関東平野北部で地盤沈下が進行した.近年では多くの地域で地盤沈下は沈静化しつつあるが,沖積層が厚く分布する地域や水溶性天然ガスを採取している地域では地盤沈下が継続している.

観測井
 関東地下水盆における地下水位の観測は1950年代に東京都で始まって以降,関東地区の各自治体で徐々に観測体制が整備され,2023年現在,総数485本の観測井によって地下水位が観測されている.これによると1960年代に東京都区部や神奈川県京浜地区で地下水位が大きく低下し,そのピーク時には江東区で標高-58m,川崎市で-27mに達した(図-2).一方,この周縁部にあたる埼玉県南部や千葉県ではやや遅れて1970年代初めに地下水位低下がピークとなり,埼玉県川口市では標高-62mまで低下した.こうした関東地下水盆南部の地下水位低下も1970年代中盤以降は上昇に転じ,現在も回復が続いている(関東地方知事会,2010).一方,関東地下水盆北部では1980年代以降も地下水位の低下が続き1990年代にピークとなったが,その低下量は南部と比べると小さく,その後は季節変動を伴いながら緩やかに水位上昇している.

地下水揚水量
 関東地区の各自治体により調査対象となる用途や揚水機の吐出口径,時期による調査範囲等が異なるが総計15,000本を超える稼働井の地下水揚水量が調査されている(2023年現在).地下水揚水量は工業用,建築物用,水道用,農業用等の用途について調査され(南関東地方地盤沈下調査会,1974),南関東4都県において揚水量のピークとなる1973年には総量400万m3/日に達していたが,2023年には146万m3/日(約37%)まで減少している(図-3).このうち工業用揚水量は1972年に約120万m3/日だったものが,2023年には約24万m3/日と約20%まで大きく減少している.水道用揚水量は1972年の約156万m3/日から2023年の約75万m3/日までおよそ半減している.

地盤沈下の現況
 関東地下水盆南部(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)では1950~1970年代に多量の地下水が揚水された結果,地下水位が大きく低下,地層収縮が進行し深刻な地盤沈下が発生した.この地盤沈下の進行は工業地域や都市の拡大と調和的であり,典型7公害の一つとして大きな社会的問題となった.その後,法令や条例による地下水採取の規制や工業用水道の普及,水利用の多様化,節水技術の向上や環境に対する意識の向上等により地下水揚水量の大幅な減少とそれに伴う地下水位の回復により地盤沈下は一部地域を除きおおむね沈静化しつつある.現在,関東地下水盆(更新統)において最も地下水位が低下しているのは千葉県松戸市付近および埼玉-茨城県境周辺で標高-10m台の地域が残っているが,これも徐々に縮小している(図-4).一方,水循環基本法等による地下水利用の促進や地中熱利用等の新たな地下水資源の利用が始まっていることから,地下水盆のモニタリングはいっそう重要となっている.

文献
関東地方知事会環境対策推進本部地盤沈下部会,2010,関東地下水盆の地下水位分布調査報告書.
南関東地方地盤沈下調査会,1974,南関東地域地盤沈下調査対策誌.
※この他,各都県で公表している地盤沈下報告書,測量成果等を参考にした.