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[T12-O-13]シブマス地塊のペルム紀フズリナ群集とその古生物地理的解釈

*上野 勝美1、Thasinee Charoentitirat2 (1. 福岡大学理学部地球圏科学科、2. チュラロンコン大学理学部地質学科(タイ王国))
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キーワード:

ペルム紀、フズリナ群集、シブマス地塊、古生物地理、東南アジア

 タイ王国およびその周辺の東南アジア主要部は,地体構造的にはデボン紀以降古赤道域にあったインドチャイナ地塊と,ペルム紀前期にゴンドワナ大陸北縁から分裂・北上し三畳紀末までにインドチャイナ地塊に衝突・合体したシブマス地塊から成る.両地塊の間にはデボン紀から三畳紀にかけてパレオテチス海が存在し,その遠洋域には海洋島が発達していた.シブマス地塊,インドチャイナ地塊,パレオテチス海洋島頂部にはそれぞれ,Ratburi石灰岩,Saraburi石灰岩,Doi Chiang Dao石灰岩とよばれる,フズリナ類を産するペルム系が形成された.この報告では,シブマス地塊Ratburi石灰岩のペルム系フズリナ類について現在までに知られている群集変遷の特徴をまとめ,さらにSaraburi石灰岩とDoi Chiang Dao石灰岩のペルム紀フズリナ群集との比較から,シブマス地塊のペルム紀における古地理変遷の解読を試みる.
シブマス地塊のペルム系は,砕屑岩を主体とする下位のKaeng Krachan層群と,それを整合的に覆うRatburi石灰岩から成る.前者はシブマス地塊がゴンドワナ大陸から分裂する以前の堆積物であり,そこにはLate Paleozoic Ice Age (LPIA)におけるゴンドワナ氷床の影響を強く受けた氷海成堆積物が見られる.腕足類を主体とする冷水型の海生動物群集やアンモノイド類が報告されており,それらの化石からKaeng Krachan層群の年代はアッセリアン-前期クングリアンとされている.一方Ratburi石灰岩は典型的なプラットフォーム炭酸塩岩で,産出するフズリナ類によりクングリアンからウーチャーピンジアンの年代が考えられる.これまでの報告(例えば,Ueno, 2003; Ueno and Charoentitirat, 2011)をまとめると,シブマス地塊のペルム系からは年代の異なる7つのフズリナ群集が,主にRatburi石灰岩を中心に報告されている.Ratburi石灰岩はシブマス地塊全体に広く発達する厚層厚(数百~1000m)のペルム系炭酸塩サクセションであるが,その分布に比してフズリナの産出は極めて少ない.また群集の多様性も低く,そこにはMonodiexodinaEopolydiexodina等の非テチス的要素が含まれる.さらに,各フズリナ群集から産する種間には明瞭な系統関係を示す分類群がほとんど見られない.これらの特徴は,インドチャイナ地塊のSaraburi石灰岩やパレオテチス海洋島起源のDoi Chiang Dao石灰岩に見られる,産出頻度ならびに多様性が非常に高いペルム紀熱帯テチス型フズリナ群集とは著しく対照的である.
ゴンドワナ大陸から分裂する前のシブマス地塊の古地理的位置としては,層序の類似性や古地磁気等のデータから,オーストラリア北西縁の,当時の南半球中緯度(南緯45°付近)が推定されている(Metcalfe, 2013).シブマス地塊はペルム紀前期のアーティンスキアン(285Ma頃)にゴンドワナ大陸から分離し,三畳紀末(約200Ma)までに当時赤道域にあったインドチャイナ地塊に衝突したと考えられている(Metcalfe, 2013).ここで単純な推論を試みる.シブマス地塊の推定されるこのような古地理変遷から,この大陸地塊は約8000万年かけ4500km程度(緯度差で40°–45°),テチス海を北上したことになる.このときの平均的な移動速度はおよそ5-6cm/年となる.この値を適用すると,シブマス地塊はペルム紀後半でもゴンドワナ大陸北縁から緯度で10°–15°程度しか北上しておらず,未だ南半球の中緯度付近にあった可能性が高い.このような古地理的位置を鑑みると,ペルム紀のシブマス地塊は基本的に温帯~亜熱帯環境にあったと考えるのがよいだろう.そこに見られるフズリナ群集は土着のものが少なく,むしろ比較的温暖な時期に熱帯テチス地域から一時的に移住してきた生物群集の可能性がある.シブマス地塊では特にペルム紀中期を通じて炭酸塩岩が良く発達することから,一見するとフズリナ類の生息に適した環境が続いていたように思える.それに反してフズリナ群集の多様性と産出頻度が低く,さらに群集変遷の中で分類群間に系統関係が認められるものが少ないのは,このような理由によるところが大きいと思われる.
文献:Metcalfe, I., 2013, J. Asian Earth Sci., 76, 195–213; Ueno, K., 2003, Palaeo3, 193, 1–24; Ueno, K. & Charoentitirat, T., 2011, Carboniferous and Permian. In Ridd, M.F. et al., eds., Geology of Thailand. Geol. Soc., London, 71–136.