講演情報
[T12-O-14]独立成分解析による海洋組成の経年変化
*小宮 剛1 (1. 東京大学)
キーワード:
生命と表層環境の共進化、独立成分分析、太古代、原生代、縞状鉄鉱層、炭酸塩岩
クロロフィルのMg,ニトロゲナーゼのMo,ヘモグロビンのFe, メタン生成補酵素 F430のNiやコバラミンのCo など,生命は代謝に金属元素を含むさまざまな酵素などの有機分子を用いている.一方で,ニトロゲナーゼの金属元素にはFeMo, FeFeおよびFeVの組み合わせ,SODの金属元素にはNi, FeMnおよびCuZn,そしてSを含むシステインとSeを含むセレノシステインのように同様の機能をもつ生体分子が生物種によって使い分けられていたりする.そのような,多様化の原因として,海洋組成など生命の生息環境の経年変化が挙げられている.しかし,地球史を通じてどのように海洋組成が変化してきたのかについては,いまだ議論も多い.一般に,過去の海洋組成を推定する方法としてモデル計算と地質試料を用いた研究が挙げられる.しかし,モデル計算で用いられる海洋の酸化還元状態,硫化物イオン濃度および大気酸素濃度については議論があるため,それに立脚した計算の妥当性は大いに問題がある.そこで,地質記録に基づく実証的な研究が必要である.
地質試料を用いた研究では化学沈殿岩が用いられるが,特に海洋組成を反映していると考えられている鉄酸化物を主体とする縞状鉄鉱層(BIF)がしばしば使われる.先行研究では38から27 億年前のBIFが高いNi/Fe比を持つことから,当時の海洋が現在に比べてNiに富んでいたことが示唆された(Konhauser et al., 2009).しかし,BIFは鉄酸化物だけでなくNiに富む陸源や火砕性の砕屑物を多く含むが,その研究ではそれらの影響が十分に考慮されていない.Aoki et al.(2018)はZr濃度を砕屑物量の指標として,鉄酸化物端成分のNi/Fe比を推定する手法を提案した.しかし,混入成分が陸源や火山性砕屑物など複数であった場合,鉄酸化物端成分と混入成分の混合線が一意にならないため,この方法では鉄酸化物端成分の組成を定量的に決めることはできない.
本研究では太古代から新原生代のBIF,炭酸塩岩および砕屑性堆積岩を対象に独立成分分析(ICA)を適用し,鉄水酸化物と炭酸塩鉱物の端成分の化学組成の推定を試みた.また,先カンブリア時代では,海洋はSi鉱物に飽和し,化学沈殿岩中に普遍的にシリカ鉱物が存在していることから,本研究では,SiO2量100%かつ他の元素を含まない仮想成分を追加することでベクトルの始点を補正した.その結果,各時代のデータセットからFeO,MgO+CaOおよびTiO2+Al2O3に富む成分を抽出し,それぞれが鉄水酸化物,炭酸塩鉱物および砕屑物に対応すると解釈した.さらに砕屑物成分は化学的特徴によって5~7種の起源に分けられた.
鉄水酸化物成分のNiやCo量は,39から30億年前に高く,25億年前に一時的な増加が見られるが,30から22億年前の間に徐々に減少し,スターチアン全球凍結後に再び急激に増加した.また,Cu量は初期地球では少なく,新太古代から古原生代に高くなった.Znは新原生代に高い値を持った.地球史を通じてそれらの元素の鉄水酸化物に対する吸着率が大きく変化しなかったと仮定すると,鉄水酸化物成分のこれらの元素濃度の変動は海洋のこれらの元素濃度の経年変化であると解釈しうる.そのため,海水のNiやCo量は39~30億年前に高く,25億年前に一時的に増加したが,30から22億年前の間に徐々に減少し,スターチアン全球凍結時に再上昇したと考えられる.海水のCu量は初期地球では低く,新太古代以降に高くなり,Znは新原生代以降に高くなったと考えられる.本研究で得られた海洋組成の進化は,生物の微量元素の利用と調和的であることから,生物進化は海洋組成などの外的要因によって促進されたことが示唆される.
地質試料を用いた研究では化学沈殿岩が用いられるが,特に海洋組成を反映していると考えられている鉄酸化物を主体とする縞状鉄鉱層(BIF)がしばしば使われる.先行研究では38から27 億年前のBIFが高いNi/Fe比を持つことから,当時の海洋が現在に比べてNiに富んでいたことが示唆された(Konhauser et al., 2009).しかし,BIFは鉄酸化物だけでなくNiに富む陸源や火砕性の砕屑物を多く含むが,その研究ではそれらの影響が十分に考慮されていない.Aoki et al.(2018)はZr濃度を砕屑物量の指標として,鉄酸化物端成分のNi/Fe比を推定する手法を提案した.しかし,混入成分が陸源や火山性砕屑物など複数であった場合,鉄酸化物端成分と混入成分の混合線が一意にならないため,この方法では鉄酸化物端成分の組成を定量的に決めることはできない.
本研究では太古代から新原生代のBIF,炭酸塩岩および砕屑性堆積岩を対象に独立成分分析(ICA)を適用し,鉄水酸化物と炭酸塩鉱物の端成分の化学組成の推定を試みた.また,先カンブリア時代では,海洋はSi鉱物に飽和し,化学沈殿岩中に普遍的にシリカ鉱物が存在していることから,本研究では,SiO2量100%かつ他の元素を含まない仮想成分を追加することでベクトルの始点を補正した.その結果,各時代のデータセットからFeO,MgO+CaOおよびTiO2+Al2O3に富む成分を抽出し,それぞれが鉄水酸化物,炭酸塩鉱物および砕屑物に対応すると解釈した.さらに砕屑物成分は化学的特徴によって5~7種の起源に分けられた.
鉄水酸化物成分のNiやCo量は,39から30億年前に高く,25億年前に一時的な増加が見られるが,30から22億年前の間に徐々に減少し,スターチアン全球凍結後に再び急激に増加した.また,Cu量は初期地球では少なく,新太古代から古原生代に高くなった.Znは新原生代に高い値を持った.地球史を通じてそれらの元素の鉄水酸化物に対する吸着率が大きく変化しなかったと仮定すると,鉄水酸化物成分のこれらの元素濃度の変動は海洋のこれらの元素濃度の経年変化であると解釈しうる.そのため,海水のNiやCo量は39~30億年前に高く,25億年前に一時的に増加したが,30から22億年前の間に徐々に減少し,スターチアン全球凍結時に再上昇したと考えられる.海水のCu量は初期地球では低く,新太古代以降に高くなり,Znは新原生代以降に高くなったと考えられる.本研究で得られた海洋組成の進化は,生物の微量元素の利用と調和的であることから,生物進化は海洋組成などの外的要因によって促進されたことが示唆される.
