講演情報
[T12-O-16]美濃帯及び北部北上帯の層状チャートにおける中期三畳紀ラディニアン期湿潤化イベントの検討
*塩原 拓真1,2、武藤 俊2、尾上 哲治3 (1. 九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2. 産業技術総合研究所地質調査総合センター、3. 九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)
キーワード:
三畳紀、放散虫、コノドント、ラディニアン、アニシアン
中期三畳紀は安定した乾燥気候が低~中緯度の大陸内陸部に広がっていたと考えられてきたが,テチス海沿岸の一部地域からは,後期ラディニアン(ロンゴバルディアン)に,湿潤化を示す地質記録が残されていることが明らかになってきた[1].そして,これらの時代には,放散虫やコノドントといった海洋生物が多様化したことも報告されている.中期三畳紀の湿潤化と海洋生物の多様化は関連したイベントであった可能性があるが,これらの報告はテチス海の限られた陸棚堆積物を対象としており,当時の超海洋であるパンサラッサ海が同時期にどのような環境であったかは知られておらず,湿潤化イベントと生物の多様化の時空間的規模や関連性については明らかにされていない.
そこで本研究では,ロンゴバルディアンの湿潤化イベントにおける環境変動の広域性を検証するために,パンサラッサ海遠洋域の深海底堆積物における放散虫及びコノドント化石層序と化学層序を検討した.検討セクションは,岐阜県坂祝町に分布する美濃帯の中部三畳系層状チャート(セクションO)[2]及び,岩手県岩泉町に分布する北部北上帯の中部三畳系層状チャート(折壁川セクション)である.
美濃帯のセクションOは厚さ14 mの赤色層状チャートで構成されている.本研究の結果,先行研究[2][3][4]により認識されたTR 2B帯からTR 4A帯までの5つの放散虫化石帯を認識した.これらの放散虫化石帯は,暫定的に後期アニシアンから前期カーニアンに比較されていた.本研究では,先行研究[5]を基にM. cochleataの最終産出をカーニアンの基底に対比した.得られたコノドント化石とあわせて,セクション全体の年代は後期アニシアンから前期カーニアンとなる.一方, 近接する犬山市における同時代を対象とした先行研究[2]と対比すると,化石帯TR 4Bの定義であるSpongoserrulra dehliの初産出が年代境界に対して斜交することが明らかになった.したがって,TR 4Bの地質年代との対比については再検討が必要である.
さらに,ファッサニアン–ロンゴバルディアン境界を含む1 mの区間で,ファッサニアンから産出する放散虫10種のうち3種が消え,新たに6種の放散虫が産出し,放散虫化石群集の変化が確認された.また,この1 m区間内において,放散虫であるMuelleritortis属とTritortis属で,spineが捻じれるという形態変化が見られた.強く捻じれた棘は中期から後期三畳紀に特徴的な形質であることが知られているが[6],本研究で詳細な時期と形質の変化経過を確認することができた.
北部北上帯の折壁川セクションは,厚さ21 mの灰色層状チャートで構成されている.このセクションからは,前期アニシアンからラディニアンを示すコノドント化石が得られた.なお, このセクションでは,放散虫化石は得られなかった.
セクションOにおいて蛍光X線分析により化学層序を検討した結果,調査区間では顕著な酸化還元状態の変化は見られなかった.CIA [7]やRW[8]などの大陸風化指標も,ラディニアンにおいて大きな変化を示さない.一方で,ファッサニアン-ロンゴバルディアン境界付近で,リンとカルシウムが顕著に増加している.この層準でコノドントやその他のリン酸塩で構成された化石の有意な増加は見られないため,これらの元素の増加は生物源アパタイトではなく自生アパタイトに由来すると考えられる.すなわち,パンサラッサ海遠洋域でリンとカルシウムの埋没の顕著な増加と,放散虫群集の変化と棘の形態変化が発生していることが明らかになった.これらは,ロンゴバルディアンの湿潤化イベントと関連した現象の可能性がある.
引用文献
[1]Preto, N. et al., 2010, PPP, 290, 1-10
[2]Sugiyama, K., 1997, Mizunami Fossil Mus., 24, 79-193
[3]Nozaki, T. et al., 2019, J. Asian Earth Sci.: X, 1 , 1-9
[4]Tomimatsu, Y. et al., 2021, Glob. Planet. Change, 197, 1-18
[5]Kozur, H., Mostler, H., 1994, Geol. Paläont Mitt. Inns., 3, 39-255.
[6]Guex, J. et al., 2012, Geobios, 45, 541-554.
[7]Nesbitt, H.W., Young, G.M., 1982, Nature, 299, 715-717
[8]Cho, T., Ohta, T., 2022, PPP, 608 , 1-8
そこで本研究では,ロンゴバルディアンの湿潤化イベントにおける環境変動の広域性を検証するために,パンサラッサ海遠洋域の深海底堆積物における放散虫及びコノドント化石層序と化学層序を検討した.検討セクションは,岐阜県坂祝町に分布する美濃帯の中部三畳系層状チャート(セクションO)[2]及び,岩手県岩泉町に分布する北部北上帯の中部三畳系層状チャート(折壁川セクション)である.
美濃帯のセクションOは厚さ14 mの赤色層状チャートで構成されている.本研究の結果,先行研究[2][3][4]により認識されたTR 2B帯からTR 4A帯までの5つの放散虫化石帯を認識した.これらの放散虫化石帯は,暫定的に後期アニシアンから前期カーニアンに比較されていた.本研究では,先行研究[5]を基にM. cochleataの最終産出をカーニアンの基底に対比した.得られたコノドント化石とあわせて,セクション全体の年代は後期アニシアンから前期カーニアンとなる.一方, 近接する犬山市における同時代を対象とした先行研究[2]と対比すると,化石帯TR 4Bの定義であるSpongoserrulra dehliの初産出が年代境界に対して斜交することが明らかになった.したがって,TR 4Bの地質年代との対比については再検討が必要である.
さらに,ファッサニアン–ロンゴバルディアン境界を含む1 mの区間で,ファッサニアンから産出する放散虫10種のうち3種が消え,新たに6種の放散虫が産出し,放散虫化石群集の変化が確認された.また,この1 m区間内において,放散虫であるMuelleritortis属とTritortis属で,spineが捻じれるという形態変化が見られた.強く捻じれた棘は中期から後期三畳紀に特徴的な形質であることが知られているが[6],本研究で詳細な時期と形質の変化経過を確認することができた.
北部北上帯の折壁川セクションは,厚さ21 mの灰色層状チャートで構成されている.このセクションからは,前期アニシアンからラディニアンを示すコノドント化石が得られた.なお, このセクションでは,放散虫化石は得られなかった.
セクションOにおいて蛍光X線分析により化学層序を検討した結果,調査区間では顕著な酸化還元状態の変化は見られなかった.CIA [7]やRW[8]などの大陸風化指標も,ラディニアンにおいて大きな変化を示さない.一方で,ファッサニアン-ロンゴバルディアン境界付近で,リンとカルシウムが顕著に増加している.この層準でコノドントやその他のリン酸塩で構成された化石の有意な増加は見られないため,これらの元素の増加は生物源アパタイトではなく自生アパタイトに由来すると考えられる.すなわち,パンサラッサ海遠洋域でリンとカルシウムの埋没の顕著な増加と,放散虫群集の変化と棘の形態変化が発生していることが明らかになった.これらは,ロンゴバルディアンの湿潤化イベントと関連した現象の可能性がある.
引用文献
[1]Preto, N. et al., 2010, PPP, 290, 1-10
[2]Sugiyama, K., 1997, Mizunami Fossil Mus., 24, 79-193
[3]Nozaki, T. et al., 2019, J. Asian Earth Sci.: X, 1 , 1-9
[4]Tomimatsu, Y. et al., 2021, Glob. Planet. Change, 197, 1-18
[5]Kozur, H., Mostler, H., 1994, Geol. Paläont Mitt. Inns., 3, 39-255.
[6]Guex, J. et al., 2012, Geobios, 45, 541-554.
[7]Nesbitt, H.W., Young, G.M., 1982, Nature, 299, 715-717
[8]Cho, T., Ohta, T., 2022, PPP, 608 , 1-8
