講演情報

[T12-O-18]川砂ジルコンの微量元素組成に着目した後背地推定法の検討:三河地域の領家花崗岩類を例に

*平井 悠河1、浅沼 尚1、澤木 佑介2、小木曽 哲1 (1. 京都大学 人間・環境学研究科、2. 東京大学 総合文化研究科)
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キーワード:

領家花崗岩類、川砂ジルコン、微量元素組成、後背地推定

 花崗岩質地殻は岩石惑星中でも地球にのみ発見されており,地球史を通じた大陸(花崗岩)量の変遷は固体地球の進化過程を理解する上で重要な研究課題の一つといえる。ジルコン(ZrSiO4)は,花崗岩質マグマに広く産出することから,U–Pb放射年代や同位体トレーサーと組み合わせて大陸地殻研究に活用されてきた(e.g. Condie, 1998; Valley, 2003)。2000年初頭は大陸地殻研究の転換点ともいえ,河川堆積物中に含まれる砕屑性ジルコン(以下,川砂ジルコン)を対象とした研究例が報告されている(Rino et al., 2004)。Rino et al. (2004)は主要河川で採取された川砂ジルコンのU–Pb年代値が後背地の年代頻度分布と相関し,川砂ジルコンが流域面積を網羅した地殻情報を一次近似的に反映することを示唆した。現在では,川砂ジルコンのO・Hf同位体比を組み合わせた花崗岩質地殻の起源物質の同定及び分化過程の制約が進められている。一方で,花崗岩質地殻は鉱物及び化学組成の違いに基づき,マントル・海洋地殻起源のI型花崗岩と,砕屑性堆積岩起源のS型花崗岩に大別される(Chappell & White, 1974)。しかし,従来の研究において,川砂ジルコンが後背地の地殻組成をどの程度反映しているかは十分に検討されておらず,古典的な花崗岩分類(I・S型)の形成過程との関係性は不明瞭なままといえる。
 Burnham & Berry (2017)はジルコンの微量元素組成に着目し,起源となる花崗岩組成の違いがジルコンにも反映されることを示唆している。近年では,ジルコンの微量元素データの蓄積に伴い,P, Nb, Ce, Ta, Th, U濃度を用いて,起源となる花崗岩をI・S型に区別する組成判別図が提案されている(Sawaki et al., 2024; Roberts et al., 2024)。そこで,本研究は愛知県三河地域の領家花崗岩類を起源とする川砂ジルコンを対象に,微量元素に基づく組成判別図を適用し,後背地の花崗岩質地殻量及び花崗岩組成比の推定を行った。
 研究対象地域は,後期白亜紀の領家花崗岩類が広く分布する愛知県三河である。この地域に露出する花崗岩類は,伊奈川花崗岩(約75–68Ma)・武節花崗岩(約71–69Ma)・神原トーナル岩(約99Ma)であり,ASI(アルミナ飽和指数)に基づき,伊奈川花崗岩・神原トーナル岩はI型,武節花崗岩はS型に分類される(Ishihara & Chappell, 2007)。これらの花崗岩類を起源とする川砂は矢作川(流路延長117km,流域面積1,830km2)により下流へ運搬される。矢作川は上流域で伊奈川花崗岩体を貫流し,下流域では青木川支流を介して武節花崗岩由来の砕屑物を供給する。このような流路特性を踏まえ,本研究では,伊奈川花崗岩由来の鉱物供給が期待される矢作川上流,武節花崗岩(及び神原トーナル岩)由来の供給が期待される青木川支流,さらに両岩体の供給が期待される矢作川下流(合流地点)の計3ヶ所で川砂を採取した。また,川砂の供給源となる各花崗岩類の全岩試料も併せて採取した。各花崗岩類の全岩試料について化学組成分析,帯磁率測定,鉱物組成観察を行い,分離したジルコンについてU–Pb放射年代及び微量元素測定を行った。
 花崗岩類の全岩試料のASIは伊奈川で1.08,武節が1.18–1.25,神原が0.98–0.99であった。また,帯磁率は0.06–0.38 × 10–3 SIの範囲で,すべてがチタン鉄鉱系列に分類された。特に,伊奈川花崗岩ではFe2O3含有量が低く,鉱物組成観察では白雲母が含まれ,角閃石は認められなかった。先行研究では高いSr同位体比初生値や高いO同位体比が報告されることから(Ishihara & Matsuhisa, 2002; Tsuboi, 2005),伊奈川花崗岩はS型花崗岩に類似した特徴を有することが示唆された。また,川砂中の重鉱物比率は,矢作川上流地点ではジルコンが85.3%,合流地点で70.0%を占めるのに対し,青木側支流では19.5%であった。この差異から,武節花崗岩由来の供給地点ではモナズ石など他の重鉱物の割合が高く,S型花崗岩からのジルコン供給量が相対的に少ないことが示唆された。これらの結果に加え,ジルコンのU–Pb放射年代及び微量元素組成の分析結果を基に,川砂ジルコンが後背地の岩石学的・地球化学的特徴をどの程度保持しているかについて検討した。本講演では,母岩中のジルコンにより作成した組成判別図に基づき,川砂ジルコンのデータを帰属させた結果について紹介する。