講演情報
[T7-O-2]諏訪湖の表層コア試料から見た諏訪湖の堆積作用
*公文 富士夫1、葉田野 希2 (1. 高知大学海洋コア国際研究所、2. 新潟大学)
キーワード:
諏訪湖、洪水堆積物、堆積速度、マケラス型柱状採泥器
諏訪湖には「御神渡り」と呼ばれる結氷の記録が室町時代から断続的に残されており,それは世界的にもまれな長期間にわたる気候記録の一つとなっている.「御神渡り」に反映した気候変動を堆積物のプロキシーから検証することを目的に,諏訪湖湖心部で表層の柱状試料を採取し,時間分解能の高い,かつ季節性まで踏み込んだ古気候解明を目指す研究を進めている.その基礎資料として2024年10月に採取したコア試料について,洪水堆積物(層)の認定に基づいて,堆積物の年代と堆積速度を検討した結果を報告する.併せて,既存の資料と統合して諏訪湖の堆積作用を論じる.
諏訪湖は岡谷市・下諏訪町・諏訪市にまたがり,湖面面積13.3 km2,平均水深4.7mの浅い皿のような湖である.流域面積は531.8 km2で,おもな流入河川は上川,宮川,横河川,砥川などであり,釜口水門を経て流れ出す天竜川が唯一の流出河川である.
2024年10月23日に諏訪湖の湖深部でマケラス型柱状採泥器をつかって292cmの長さのコア試料を採取した.同採泥器では最表層部が乱されるため,押し込み式の採泥器で99cm長の表層コア試料も採取した.これらのコア試料について深度0.5cm毎に分割して,含水率の測定を行った.古気候指標として用いる炭素・窒素量の測定も進めている.
諏訪湖の湖心部では,1974年に採取されたコア試料の含水率の記録がある.筆者は1999年には同じメケレス型採泥器をつかって296cmのコア試料を採取している.また,2003年にはダイバーによる潜水作業によって89cm長のコア試料が採取されている.これらのコア試料は,含水率や見かけ密度の層序的変動を指標として確実な対比ができる.2003年のコア試料については137Csのγ線強度が測定されており,核実験が始まった1954年と放射性降下物のピークに当たる1961年の年代制約を入れることができる.また,2024年コア試料のXCT画像からは,規模の大きな洪水時に形成された堆積層をX線の難透過層として確認できた.これらの堆積物の情報と,諏訪気象台(観測点)の豪雨記録,釜口水門の水位変動記録などの資料を比較して,堆積物中に確認された洪水層と気象記録との対応を検討した.
その結果,2025年のコア試料におけるコアトップからの深度で,深度24cm付近に2006年7月19日の洪水(岡谷災害),深度32cm付近に1997年7月10日の洪水,深度47cm付近に1983年9月28日の洪水,深度68cm付近に1961年6月28日の洪水(三六災害),深度86cm付近に1950年6月11日の洪水に対応する堆積物を確認できた.深度120~130cm付近には複数の洪水層が連続的に重なっており,1900年前後の洪水の多発期に対応するものと推定している.深度150cmまでは洪水堆積物の比率が高い.一方,深度150cm以深の堆積物は密度的にほぼ均質で,明瞭な洪水層を示唆する層準は認められない.明治以降の殖産興業政策による諏訪湖周辺の開発が,洪水の多発をもたらした可能性が高い.
謝辞:本研究の経費には科学研究費補助金(代表者:長谷川直子,課題番号24H00118)を用いた.コア試料の採取に当たっては産総研地質調査総合センター主任研究員納谷友則博士,信州大学諏訪臨湖実験所宮原裕一教授の協力を得た.
諏訪湖は岡谷市・下諏訪町・諏訪市にまたがり,湖面面積13.3 km2,平均水深4.7mの浅い皿のような湖である.流域面積は531.8 km2で,おもな流入河川は上川,宮川,横河川,砥川などであり,釜口水門を経て流れ出す天竜川が唯一の流出河川である.
2024年10月23日に諏訪湖の湖深部でマケラス型柱状採泥器をつかって292cmの長さのコア試料を採取した.同採泥器では最表層部が乱されるため,押し込み式の採泥器で99cm長の表層コア試料も採取した.これらのコア試料について深度0.5cm毎に分割して,含水率の測定を行った.古気候指標として用いる炭素・窒素量の測定も進めている.
諏訪湖の湖心部では,1974年に採取されたコア試料の含水率の記録がある.筆者は1999年には同じメケレス型採泥器をつかって296cmのコア試料を採取している.また,2003年にはダイバーによる潜水作業によって89cm長のコア試料が採取されている.これらのコア試料は,含水率や見かけ密度の層序的変動を指標として確実な対比ができる.2003年のコア試料については137Csのγ線強度が測定されており,核実験が始まった1954年と放射性降下物のピークに当たる1961年の年代制約を入れることができる.また,2024年コア試料のXCT画像からは,規模の大きな洪水時に形成された堆積層をX線の難透過層として確認できた.これらの堆積物の情報と,諏訪気象台(観測点)の豪雨記録,釜口水門の水位変動記録などの資料を比較して,堆積物中に確認された洪水層と気象記録との対応を検討した.
その結果,2025年のコア試料におけるコアトップからの深度で,深度24cm付近に2006年7月19日の洪水(岡谷災害),深度32cm付近に1997年7月10日の洪水,深度47cm付近に1983年9月28日の洪水,深度68cm付近に1961年6月28日の洪水(三六災害),深度86cm付近に1950年6月11日の洪水に対応する堆積物を確認できた.深度120~130cm付近には複数の洪水層が連続的に重なっており,1900年前後の洪水の多発期に対応するものと推定している.深度150cmまでは洪水堆積物の比率が高い.一方,深度150cm以深の堆積物は密度的にほぼ均質で,明瞭な洪水層を示唆する層準は認められない.明治以降の殖産興業政策による諏訪湖周辺の開発が,洪水の多発をもたらした可能性が高い.
謝辞:本研究の経費には科学研究費補助金(代表者:長谷川直子,課題番号24H00118)を用いた.コア試料の採取に当たっては産総研地質調査総合センター主任研究員納谷友則博士,信州大学諏訪臨湖実験所宮原裕一教授の協力を得た.
