講演情報
[T7-O-3]瀬戸内海沿岸域における津波堆積物の探索:香川県東かがわ市引田地区大池の湖底堆積物調査
*寺林 優1、卜部 厚志2、酒井 英男3、金田 義行4、松居 俊典5 (1. 香川大学創造工学部、2. 新潟大学災害・復興科学研究所、3. 富山大学理学部、4. 香川大学四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構、5. 香川大学大学院創発科学研究科)
キーワード:
津波堆積物、瀬戸内海沿岸域
播磨灘以西の瀬戸内海沿岸域においては,これまで津波堆積物は報告されていない.しかし,1707年宝永地震では,現在の香川県高松市および東かがわ市,愛媛県西条市で,高さ2メートル弱の津波による被害があったという古文書記録がある.また,香川県丸亀市の田潮八幡神社には,南北朝時代(1336〜1392年)に水田一面に潮が満ちたという伝承があり1361年正平地震による津波の可能性がある.30年以内に80%の確率での発生が予測されている南海トラフ巨大地震では,香川県内での最高津波水位は,5メートルに達すると想定されている.これらから,播磨灘以西の瀬戸内海沿岸域は,過去にもこれからも,津波災害の空白地帯であるとは言えない.播磨灘以西の瀬戸内海沿岸域の沿岸湖沼の湖底堆積物および海岸低地の湿原堆積物から津波痕跡を発見し,瀬戸内海沿岸域の津波履歴を明らかにすることを目的に調査研究を進めている.
播磨灘に面する香川県東かがわ市引田地区を調査地域に選定し,沿岸湖沼および海岸低地で調査を行ってきた.沿岸湖沼の大池において,2016年1月にグラビティコアラー(離合社製・湖沼型簡易コアサンプラー)を用いて,水深約3.5mの4地点(OS-3,4,5,6)で湖底堆積物を採取した.採泥管長30cmに対し,採取された底泥コアは長さ9〜25cmであった.層相観察と篩で200メッシュ以上の粗粒分の割合を求めた結果,シルト層中に最大4層の砂混じりシルト層の挟在が認められた.
2022年11月に大池の湖上からボーリングマシンによる打ち込み式コアリングによって,湖底堆積物を掘削した(口径66mm,一部86mm).最深部の水深約4mのS-1地点,浜堤から陸域に向かう測線で水深約3.7mから3.5mのS-2〜4の3地点,計4地点である.各地点では湖底からの掘削に加え,コアの繋ぎ目を補うため別孔で深度約50cmから掘削し,最長6mのコアを計9本採取した.掘削したコアを半裁して写真撮影し,層相変化,粒度,色調,堆積構造,含有物などに注目した肉眼観察によって柱状図を作成した.さらに,高知大学海洋コア総合研究センターでX線CT画像撮影した.コアからポリカーボネート製キューブに試料を封入し,磁化率計(富山大学,MS2)で帯磁率を測定した.別途各コアから採取した試料に対し,新潟大学災害・復興科学研究所でレーザー回折式粒度分布測定装置(Malvern Panalytical社製・マスターサイザー3000)で粒度分析,新潟大学のイオウ濃度分析装置(堀場製作所製・EMIA-120)でTS分析を進めている.珪藻分析で珪藻の環境指標種群を同定し,湖水環境変化の解明を進めている.
S-1-Aコアのセクション1(深度0〜1m,深度0.65〜1mは欠損)では4層準でイベント堆積物が確認できた.最下位のイベント堆積物4(深度0.46〜0.52m)から採取した有機質泥(深度0.50m)の放射性炭素年代は,494−426 cal BP(西暦1456〜1524年)で,1498年明応地震に対応する.1498年明応地震は,東海・東南海地震とされているが,高知県四万十市のアゾノ遺跡で15世紀末と推定されている噴砂痕が見つかっており,四国の太平洋側でも大きな揺れがあった可能性がある.イベント堆積物3(深度0.33〜0.4m),イベント堆積物2(深度0.14〜0.19m),イベント堆積物1(深度0.01〜0.04m)は,それぞれ1707年宝永地震,1854年安政地震,1946年昭和南海地震による津波堆積物の可能性がある.S-1-Aコアのセクション2(深度1〜2m,深度1.81〜2mは欠損)では,粗粒砂からなるイベント堆積物5(深度1.09〜1.1m),イベント堆積物6(深度1.22〜1.24m)貝殻濃集層からなるイベント堆積物7(深度1.36〜1.4m)が認められた.イベント堆積物5の直上(深度1.09m)から採取した植物片の放射性炭素年代は,1298−1247 cal BP(西暦652〜703年)で,648年天武地震に対応する.イベント堆積物7の直下(深度1.4m)から採取した植物片の放射性炭素年代は,3162−2993 cal BPで,岡村・松岡(2012)の約3000年前の津波に対応する.S-1-Aコアのセクション3(深度2〜3m,深度2.7〜3mは欠損)の深度2.13〜2.66mは年縞,S-1-Aコアのセクション4(深度3〜4m,深度3.79〜4mは欠損)では,イベント堆積物や年縞は認められない.S-1地点の他コア,S-2〜4地点の各コアに対しても分析を進め,イベント堆積物の対比を行っている.
引用文献:岡村 眞・松岡裕美, 津波堆積物からわかる南海地震の繰り返し.科学, Vol.82, No.2, pp.182-191, 2012
播磨灘に面する香川県東かがわ市引田地区を調査地域に選定し,沿岸湖沼および海岸低地で調査を行ってきた.沿岸湖沼の大池において,2016年1月にグラビティコアラー(離合社製・湖沼型簡易コアサンプラー)を用いて,水深約3.5mの4地点(OS-3,4,5,6)で湖底堆積物を採取した.採泥管長30cmに対し,採取された底泥コアは長さ9〜25cmであった.層相観察と篩で200メッシュ以上の粗粒分の割合を求めた結果,シルト層中に最大4層の砂混じりシルト層の挟在が認められた.
2022年11月に大池の湖上からボーリングマシンによる打ち込み式コアリングによって,湖底堆積物を掘削した(口径66mm,一部86mm).最深部の水深約4mのS-1地点,浜堤から陸域に向かう測線で水深約3.7mから3.5mのS-2〜4の3地点,計4地点である.各地点では湖底からの掘削に加え,コアの繋ぎ目を補うため別孔で深度約50cmから掘削し,最長6mのコアを計9本採取した.掘削したコアを半裁して写真撮影し,層相変化,粒度,色調,堆積構造,含有物などに注目した肉眼観察によって柱状図を作成した.さらに,高知大学海洋コア総合研究センターでX線CT画像撮影した.コアからポリカーボネート製キューブに試料を封入し,磁化率計(富山大学,MS2)で帯磁率を測定した.別途各コアから採取した試料に対し,新潟大学災害・復興科学研究所でレーザー回折式粒度分布測定装置(Malvern Panalytical社製・マスターサイザー3000)で粒度分析,新潟大学のイオウ濃度分析装置(堀場製作所製・EMIA-120)でTS分析を進めている.珪藻分析で珪藻の環境指標種群を同定し,湖水環境変化の解明を進めている.
S-1-Aコアのセクション1(深度0〜1m,深度0.65〜1mは欠損)では4層準でイベント堆積物が確認できた.最下位のイベント堆積物4(深度0.46〜0.52m)から採取した有機質泥(深度0.50m)の放射性炭素年代は,494−426 cal BP(西暦1456〜1524年)で,1498年明応地震に対応する.1498年明応地震は,東海・東南海地震とされているが,高知県四万十市のアゾノ遺跡で15世紀末と推定されている噴砂痕が見つかっており,四国の太平洋側でも大きな揺れがあった可能性がある.イベント堆積物3(深度0.33〜0.4m),イベント堆積物2(深度0.14〜0.19m),イベント堆積物1(深度0.01〜0.04m)は,それぞれ1707年宝永地震,1854年安政地震,1946年昭和南海地震による津波堆積物の可能性がある.S-1-Aコアのセクション2(深度1〜2m,深度1.81〜2mは欠損)では,粗粒砂からなるイベント堆積物5(深度1.09〜1.1m),イベント堆積物6(深度1.22〜1.24m)貝殻濃集層からなるイベント堆積物7(深度1.36〜1.4m)が認められた.イベント堆積物5の直上(深度1.09m)から採取した植物片の放射性炭素年代は,1298−1247 cal BP(西暦652〜703年)で,648年天武地震に対応する.イベント堆積物7の直下(深度1.4m)から採取した植物片の放射性炭素年代は,3162−2993 cal BPで,岡村・松岡(2012)の約3000年前の津波に対応する.S-1-Aコアのセクション3(深度2〜3m,深度2.7〜3mは欠損)の深度2.13〜2.66mは年縞,S-1-Aコアのセクション4(深度3〜4m,深度3.79〜4mは欠損)では,イベント堆積物や年縞は認められない.S-1地点の他コア,S-2〜4地点の各コアに対しても分析を進め,イベント堆積物の対比を行っている.
引用文献:岡村 眞・松岡裕美, 津波堆積物からわかる南海地震の繰り返し.科学, Vol.82, No.2, pp.182-191, 2012
