講演情報

[T7-O-6]小笠原沖産シロサンゴおよびモモイロサンゴ骨格の地球化学的解析による成長史の復元

*奥村 知世1、平川 史也1、ペピノ マリア マリヴィック1、松崎 琢也1、池原 実1、川合 達也2、石川 剛志3,1 (1. 高知大学、2. マリンワークジャパン、3. 海洋研究開発機構)
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キーワード:

宝石サンゴ、シロサンゴ、モモイロサンゴ、炭素酸素安定同位体比、地球化学分析

 生物の炭酸塩骨格には、生息域の環境変化や生理・生態的特性が記録されることが知られている。花虫綱八放サンゴ亜綱サンゴ科に属する日本近海の宝石サンゴは(Tu et al., 2015)、多くが水深70〜80 m以深に分布し(岩崎・鈴木, 2008)、メソフォティックゾーンにおける固着生物の生息場所となり、海洋生態系を支える重要な役割を担っていると考えられている。本研究では、宝石サンゴ骨格の地球化学的分析を通じて、骨格に刻まれた生理・生態および環境変化に関する情報の解読を試みた。対象とした試料は、2018年に小笠原諸島母島沖で採取されたシロサンゴ(Pleurocorallium konojoi)およびモモイロサンゴ(P. elatius)の各1群体の骨格断片である。これらの試料は、NPO法人宝石珊瑚保護育成協議会の支援のもと、漁業規則に則って漁獲されたものから、漁業者のご厚意により研究用として提供された。各試料はまず薄片化し、骨格に発達する年輪組織を顕微鏡観察およびEPMAによる元素マッピングにより確認した。その後、年輪組織に沿って、高精度マイクロミルシステムGeomill326(Izumo-web)を用いて平均0.55年の分解能で削り出し、Zhang et al.(2020)の過酸化水素水による前処理法を改良した手法で有機物を除去した。炭素・酸素の安定同位体比は、JCp-1を標準試料としてIsoprime PrecisION(Elementar社)により分析した。さらに、切片に対して、NIST612を標準試料とし、レーザーアブレーション質量分析法(LA-ICPMS:iCAP-Q(Thermo Fisher Scientific)、LSX-213 G2+レーザーアブレーションシステム(Teledyne CETAC))を用いた線分析を実施し、年輪組織に応じた元素組成を解析した。年輪組織の観察から、シロサンゴでは21本、モモイロサンゴでは22本の年輪が確認され、2018年以前の21〜22年間の成長記録が骨格に残されていると考えられた。本発表では、化学組成および同位体組成の変化を紹介し、それらから読み取れる生理・生態および生息環境に関する情報の解読の試みについて報告する。
<引用文献>Tu et al. (2015) Molecular Phylogenetics and Evolution 84, 173–184; 岩崎・鈴木(2008)珊瑚の文化誌-宝石サンゴをめぐる科学・文化・歴史, 東海大学出版; Zhang et al. (2020) Chemical Geology, 532(20) ,119352