講演情報
[T7-O-9]鹿児島県喜界島における上部更新統サンゴ礁複合体堆積物の堆積過程
*松田 博貴1、佐々木 圭一2、得重 和希3、熊谷 優香4、林田 将英4 (1. 深田地質研究所、2. 金沢学院大学基礎教育機構、3. 熊本大学大学院自然科学教育部、4. 熊本大学理学部)
【ハイライト講演】 琉球列島には,約160万年前以降にサンゴ礁などによって形成された琉球層群が広く分布する.本研究は,喜界島に見られる琉球層群の垂直的・水平的な変化を詳細に調査することで,徐々に浅海化が起きたことや,同じ時代でも地形や海流の影響で異なる堆積物が形成されたことなどを明らかにしている. ※ハイライト講演とは...
キーワード:
喜界島、琉球層群、サンゴ礁複合体堆積物、堆積シーケンス、海水準変動
鹿児島県喜界島は,鮮新統〜下部更新統島尻層群早町層を基盤として,下部更新統知念層,中・上部更新統琉球層群,上部更新統~完新統石灰質砂層,完新統隆起サンゴ礁(中川,1969;松田ほか,2023)からなる.本島は隆起速度が大きいため,他の島々と比較し,後期更新世のサンゴ礁性堆積物が広く分布する(大村ほか,2000).そこで筆者らは,この上部更新統サンゴ礁複合体堆積物(琉球層群湾層)について,その分布,構成生物粒子,岩相,堆積構造に基づき堆積環境を推定(辻ほか,1993;Nakamori et al., 1995)し,各堆積相の鉛直・側方変化,ならびに年代値が既知の造礁サンゴ化石の分布(大村ほか,2000など)との対比により,最終間氷期(約125ka;MIS 5e)以降の汎世界的海水準変化と隆起運動による相対的海水準変動に伴って形成されたサンゴ礁複合体の発達過程を検討した.その結果,以下のことが明らかになった.
模式的な堆積シーケンス(図)は,①石灰藻球石灰岩(島棚域;水深50~150m)に始まり,②コケムシ質石灰岩(島棚外側〜斜面上部;水深130~170m)→③石灰藻球石灰岩(島棚域;水深50~150m)→④石灰藻球を伴う淘汰の悪い生砕性石灰岩→⑤サンゴ礫を含む淘汰の悪い生砕性石灰岩→⑥サンゴ石灰岩(礁斜面〜礁域;水深50m以浅)→⑦淘汰の良い生砕性石灰岩(浅礁湖;水深5m以浅),そして最上部は陸化し,⑧淘汰の良い細粒石灰砂層(風成砂丘;陸域)からなり,最終間氷期から最終氷期までの相対的海水準低下に伴う浅海化の過程で形成されたと推定される.また同時間面で見ると,上部更新統の基盤である中部更新統百之台層上面の地形と標高に応じて,岩相は側方に変化する.約80ka(MIS 5a)に注目すると,高位の中西台(現在の標高160m)には浅海域で堆積したサンゴ石灰岩と淘汰のよい生砕性石灰岩が,上嘉鉄北方(標高60~70m)には島棚域の石灰藻球を伴う淘汰の悪い生砕性石灰岩が,そして島西部や中部北西岸周辺(現在の標高10~35m)には,島棚上部〜斜面上部域で堆積したコケムシ質石灰岩が分布している.さらにその後の相対的海面低下に伴って,サンゴ石灰岩の分布域は,次第に標高の低い地域へと前進し,約50〜40kaには現在の標高20m前後の地域へとオフラッピングしている.
また同時期の同一水深であっても,基盤地形の形態(百之台層上面の形態)により堆積相は異なる.島南西部の比較的島棚が広い地域では石灰藻球石灰岩の発達がよいのに対し,島棚の広がりが乏しく,急な島棚からなる中部北西岸や北東岸では石灰藻球に乏しい.島棚斜面上部相であるコケムシ質石灰岩でも,北西岸や北東岸では斜交層理が顕著に発達するのに対し,南西部ではこのような堆積構造は認められず塊状の見かけを呈する.このような堆積相の違いはおそらく島の伸長方向に流れる潮汐流の影響によるものと考えられる.
松田ほか,2023,地質学雑誌,129,153-164.
中川,1969,東北大学地質学古生物学教室研究邦文報告,no.68,1-17.
Nakamori et al., 1995, Sediment. Geol, 99, 215-231.
大村ほか,2000,第四紀研究,39,55-68.
辻ほか,1993,石油公団石油開発センター研究報告,24,55-77.

