講演情報
[T2-O-10]西南日本中新世花崗岩中のジルコンのLu-Hf isotope data:マグマ起源とテクトニクスの手がかりを探る
*礼満 ハフィーズ1、中林 真梨萌1,3、山下 大輔2、CHUNG Sun-Lin4、LEE Hao-Yang4、山本 啓司1 (1. 鹿児島大学、2. 薩摩川内市甑ミュージアム、3. 三菱重工、4. Academia Sinica, Taiwan)
キーワード:
花崗岩、ジルコン、Lu-Hf 同位体、マグマ起源
西南日本では、琉球海溝から南海トラフへ連なる北東–南西方向の地質構造に沿って、フィリピン海プレート(PSP)がユーラシアプレートの下に年間4〜5 cmの速度で沈み込んでいる(Zhao et al., 2021, Tectonophysics v. 802)。また、九州北部の別府–島原地溝帯および南部の鹿児島地溝帯に活発な地溝帯が存在し、この地域では沈み込みに伴うマグマ活動や地殻成長が顕著に観察できるため地質学的に重要な地質体である。さらに、九州東部の南海トラフ下に沈み込む北西–南東方向に斜交するKyushu-Palau Ridge (KPR)の存在は、九州が西南日本弧のテクトニクス、沈み込みダイナミクス、および地殻成長を理解する上で極めて重要な地域である。それらの一部を理解するため、南海トラフ沿いや西南日本での活発なテクトニクスおよびそれに伴う火山・地震活動に関する数多くの研究が行われてきた。特に鹿児島県に広く分布する第3期中新世代の花崗岩類(大隅花崗岩、高隈山岩、紫尾山花崗岩、金峰山花崗岩、甑島列島花崗岩、及び屋久島花崗岩など)は、中新世に活動した地殻内部分溶融による花崗岩生成過程と、それを引き起こした当時のテクトニクスを理解するうえで有用な情報を提供する。先行研究(Shinjoe et al. 2021, Island Arc 2021, 30e12383 とそれに引用される文献など)の解釈では甑島の花崗岩類は約10 Maの沖縄トラフ拡張に関連するマグマ活動から形成されたと述べている。一方で、大隅・高隈・紫尾山及び屋久島の花崗岩類については、約13〜15 Maのトラフ近傍マグマ活動に起因するとしている。後者の解釈は比較的妥当とされているが、前者については、沖縄トラフのリフティングがより若い時期に始まったことを踏まえると、未だ議論の余地が残っている。これらの解釈は相関的であり、間接的証拠は今まで報告されていない。本研究では、鹿児島県に産する花崗岩類の起源マグマやその発生時期、沈み込んだ物質の影響をより明確に把握するため、複数の花崗岩から採取した岩石試料から産出したジルコンのU-Pb年代測定および微量元素分析を実施した。さらに、科学的根拠を強化するため、U-Pb年代測定済みのジルコン粒上Lu-Hf同位体分析も実施した。その結果、大隅花崗岩(13〜18 Ma、平均15.16 Ma)、高隈山花崗岩(12〜19 Ma、平均15.06 Ma)、紫尾山花崗岩(11〜19 Ma、平均14.59 Ma)の年代値を示しており、いずれも外帯に位置し、堆積岩起源や砕屑性コアを持つジルコン(古い年代)を含む比較的felsic質な地殻物質から形成されたマグマに由来することが明らかとなった。これらのマグマ活動は、沈み込むPSPの上盤側で発生したトラフ近傍マグマ活動と関連すると考えられる。また、分析したzircon粒から得られたHf同位体比(εHf(t))は、大隅花崗岩で-5.69〜+2.41、高隈山花崗岩で-4.53〜+0.63、紫尾山花崗岩で-1.99〜+0.92といずれも比較的ゼロの値に近い値を記録しており、マントル起源物質と大陸地殻物質の混合によるマグマ生成が示唆される。一方、やや若い(約10.82 Ma)、内帯に位置する甑島花崗岩類は、より苦鉄質(マフィック)成分に富むマグマに由来し、εHf(t)値はやや高い値(+6.18〜+12.26)を示し、主に枯渇マントルに由来するjuvenile crust起源であることが強く示唆される。すなわち、甑島花崗岩類の起源はKPRやその上に存在していた(?)マフィック性質の海山の沈み込みによって引き起こされた部分溶融により生成されたマグマである可能性が高い。
