講演情報

[T2-O-13]両白山地,白山火山の角閃石から推定するマグマプロセス

*山内 大樹1、田村 明弘1、森下 知晃1 (1. 金沢大学)
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キーワード:

角閃石、マグマ混合、アダカイト、白山火山、微量元素

  はじめに
 中部日本の両白山地に属する白山火山は,東北日本の火山フロントから離れた場所に位置する.白山火山下には太平洋プレートの沈み込みに加えて,フィリピン海プレートの沈み込みが影響している可能性が考えられる(Nakamura et al., 2008 Nature Geosci).白山火山は,安山岩質からデイサイト質であり,複数のマグマ混合を記録している(茨木,2018 金沢大学修士論文).混合前のマグマの組成や形成条件を解明することは,白山火山が噴火に至るマグマプロセスの理解に必要である.本研究では白山火山に普遍的に産する角閃石に着目し,角閃石を結晶化したメルトの化学的特徴,形成時の温度圧力条件の推定から白山火山におけるマグマプロセスを検討する.
 地質概説と研究試料
 白山火山における噴火期は,加賀室火山(40~30万年前),古白山火山(14~10万年前),新白山火山I(4~3万年前),うぐいす平火山(2~1万年前),新白山火山II(1.1万年前以降)に分けられる(山崎ほか, 1968 火山;東野ほか, 1984 石川県白山自然保護センター研究報告書; 長岡ほか, 1985 石川県白山自然保護センター研究報告書; 酒寄ほか, 1999 石川県白山自然保護センター研究報告書; Hasebe et al, 2016 Island Arc).白山火山の噴出物は溶岩を主とし,火砕流堆積物として産する.白山火山の地下構造については,震源分布や地震波トモグラフィーの観点から,地下4~5km地点と10~14km地点にマグマの存在が推定されている(高橋ほか,2004 火山).本研究では,Hasebe et al.(2016 Island Arc)にて年代測定された新白山火山IIの3試料について詳細な検討を行った.角閃石は斑晶を呈するものや,かんらん石とともに集斑晶を呈するもの,完晶質組織中にかんらん石とともに産するものが確認された.
 角閃石の化学的特徴から推定されるメルト組成・温度圧力条件
  角閃石をHawthorne et al.(2012 Amer. Min.)の分類に従ったExcelの計算シート(Locock, 2014 Comput. Geosci)を用いて分類し,粗粒な角閃石は比較的高いSi含有量を持つMagnesio-hornblend[Mg-Hbl],カンラン石を伴う角閃石は低Si角閃石のPargasite[Prg]に分類される.それぞれの角閃石について,微量元素濃度をPrimitive mantle(McDonough and Sun, 1995 Chem. Geol)の値を使用して規格化したパターンは,Mg-Hblは,U,Th,Ta,Zr,Hf,TiなどのHigh-field strength elementsおよび,Pb,Sr,Euの負の異常が見られる.一方で,PrgはSr,Euにおける負の異常が見られない.角閃石の化学組成からZhang et al.(2017 Amer. Mineral.)の手法を用いて平衡メルトの主要元素組成を見積もり,Mg-Hbl平衡メルト(melt-Mg-Hbl)は流紋岩質,Prg平衡メルト(melt-Prg)は安山岩-デイサイト質であるとした.微量元素組成の推定については,角閃石-メルト間の分配係数をHumphreys et al.(2019 Contrib. Mineral. Petrol.)を用いて見積もった.melt-Prgについて組成を推定すると,Y,Sr量からPrg平衡メルトがアダカイト質メルトの組成の特徴を持つことが指摘される.アダカイトについては,両白山地の第四紀火山から報告がなされている(Ujike et al., 1999 Jour. Min. Petrol. Econ. Geol.; Nakamura et al., 2013 Contrib. Mineral. Petrol.).Ridolfi(2021 Minerals)による経験的な角閃石単相温度圧力計を適用すると,Mg-Hblコアの晶出時の温度圧力条件は,743~863℃,81~223MPa(深度3~8km),Prgコアは927~960℃,393~418MPa(深度13~16km)であった.この結果は,地球物理学的手法で推定された白山地下の高温物質の深度(高橋ほか,2004 火山)とおおむね一致している.新白山火山はより深部で結晶化が進行したアダカイト質メルトとより浅部の珪長質マグマが混合して噴火に至ったことが示される.