講演情報
[T2-O-14]嶺岡帯の高Mg安山岩
*市山 祐司1、加藤 紬1 (1. 千葉大学)
キーワード:
嶺岡帯、高Mg安山岩、地殻同化作用
関東地方から中部地方にかけて伊豆弧を取り囲んで分布する古第三紀付加体の嶺岡‒瀬戸川帯には、苦鉄質火山岩、苦鉄質~珪長質深成岩、超苦鉄質岩類などのオフィオライトを構成するような岩塊が断続的に分布する(例えば、荒井・石田,1987)。ハルツバージャイトを主とする超苦鉄質岩は、四国海盆下の上部マントル物質と考えられるが(Arai, 1991; 荒井,1994)、苦鉄質~珪長質深成岩は島弧的な特徴を示しており、古伊豆弧の断片である可能性が考えられている(Ichiyama et al., 2017, 2020)。また、瀬戸川帯からは、オフィオライト質岩類に伴ってCrディオプサイド斑晶を含む高Mg安山岩の産出が報告されている(大橋・白木,1981)。加藤ほか(2024)は,瀬戸川帯の超苦鉄質岩片を含む斑れい岩質角礫岩中から高Mg安山岩片を確認した。そして、高Mg安山岩を形成したマグマがMgに富む未分化な島弧玄武岩質マグマと珪長質マグマの混合によって形成されるモデルを提案し、海洋性島弧の地殻形成を理解する上で重要なメカニズムであることを指摘している。
嶺岡帯からは、Ogawa et al. (2009)が千葉県南房総市古畑付近から安山岩角礫岩中の礫として高Mg安山岩を報告し、同地域からは高橋ほか(2012)が斑れい岩質角礫岩中の礫としてCrディオプサイド斑晶を含む玄武岩を報告している。本研究では、南房総市古畑付近の斑れい岩質角礫岩露頭、段丘堆積物中の礫、沢の転石からCrディオプサイド斑晶を含む火山岩試料を採取した結果、複数の高Mg安山岩を見出した。採取した試料はいずれも完晶質の石基と変質したかんらん石と単斜輝石斑晶から構成される。石基には自形の斜長石、単斜輝石、不透明鉱物としばしば角閃石が含まれ、粒間に石英が形成される。かんらん石仮像にはクロムスピネルが含まれ、クロムスピネルはCr#で0.7‒0.8、TiO2で<0.3 wt%を示す。これらの岩石学的特徴は、瀬戸川帯の高Mg安山岩に類似することから、嶺岡帯の高Mg安山岩が瀬戸川帯のものと同等物であることが示唆される。また、嶺岡帯の高Mg安山岩中にトーナル岩の捕獲岩片を確認した。トーナル岩質捕獲岩片中の高Mg安山岩と接する斜長石は篩状組織を示し、斜長石の最外部で最もAn値に富むことから、高温のマグマによって捕獲されたことが示唆される。
嶺岡‒瀬戸川帯の高Mg安山岩を含む斑れい岩質角礫岩には超苦鉄質岩も含まれ、この角礫岩の供給源は高Mg安山岩を含むオフィオライト層序をもった岩体であったことが示唆される。高Mg安山岩に含まれるトーナル岩質捕獲岩片の存在は、嶺岡‒瀬戸川帯の高Mg安山岩を形成したマグマがMgに富む未分化な島弧玄武岩質マグマによるトーナル岩質島弧地殻の同化作用によって形成された可能性を示唆する。嶺岡帯に産するトーナル岩の分別溶融作用で形成されるメルトと高Mg安山岩中のCrディオプサイド斑晶と平衡な未分化なメルトを混合させて形成されるメルトの化学組成は、嶺岡‒瀬戸川帯の高Mg安山岩の全岩化学組成と矛盾しない。Ichiyama et al. (2017, 2020)が示したように、嶺岡‒瀬戸川帯のオフィオライト質岩類の一部が古伊豆弧の断片であるならば、高Mg安山岩も古伊豆弧で形成された可能性が考えられる。現在の伊豆弧には、安山岩質中部地殻が存在すると考えられており(例えば、Suyehiro et al., 1996)、そのような海洋性島弧の安山岩質中部地殻の形成に未分化な島弧玄武岩と地殻の同化作用が重要な役割を果たしている可能性が考えられる。
【引用文献】Arai (1991) In: Peters, T. et al. (eds): Ophiolite Genesis and Evolution of the Oceanic Lithosphere, 807-822; 荒井(1994)静岡大学地球科学研究報告,20,175‒185; 荒井・石田(1987)岩石鉱物鉱床学会誌,82,336‒344; Ichiyama et al. (2017) Lithos, 82–283, 420–430; Ichiyama et al. (2020) Int. Geol. Rev., 62, 503–521; 加藤ほか(2024)日本岩鉱物科学会年会2024年会; Ogawa et al. (2009) Earth Evolution Siences,3,3‒25; 大橋・白木(1981)岩石鉱物鉱床学会誌,76,69‒79; Suyehiro et al. (1996) Science, 272, 390-392; 高橋ほか(2012)神奈川県博調査研報,14,25–56
嶺岡帯からは、Ogawa et al. (2009)が千葉県南房総市古畑付近から安山岩角礫岩中の礫として高Mg安山岩を報告し、同地域からは高橋ほか(2012)が斑れい岩質角礫岩中の礫としてCrディオプサイド斑晶を含む玄武岩を報告している。本研究では、南房総市古畑付近の斑れい岩質角礫岩露頭、段丘堆積物中の礫、沢の転石からCrディオプサイド斑晶を含む火山岩試料を採取した結果、複数の高Mg安山岩を見出した。採取した試料はいずれも完晶質の石基と変質したかんらん石と単斜輝石斑晶から構成される。石基には自形の斜長石、単斜輝石、不透明鉱物としばしば角閃石が含まれ、粒間に石英が形成される。かんらん石仮像にはクロムスピネルが含まれ、クロムスピネルはCr#で0.7‒0.8、TiO2で<0.3 wt%を示す。これらの岩石学的特徴は、瀬戸川帯の高Mg安山岩に類似することから、嶺岡帯の高Mg安山岩が瀬戸川帯のものと同等物であることが示唆される。また、嶺岡帯の高Mg安山岩中にトーナル岩の捕獲岩片を確認した。トーナル岩質捕獲岩片中の高Mg安山岩と接する斜長石は篩状組織を示し、斜長石の最外部で最もAn値に富むことから、高温のマグマによって捕獲されたことが示唆される。
嶺岡‒瀬戸川帯の高Mg安山岩を含む斑れい岩質角礫岩には超苦鉄質岩も含まれ、この角礫岩の供給源は高Mg安山岩を含むオフィオライト層序をもった岩体であったことが示唆される。高Mg安山岩に含まれるトーナル岩質捕獲岩片の存在は、嶺岡‒瀬戸川帯の高Mg安山岩を形成したマグマがMgに富む未分化な島弧玄武岩質マグマによるトーナル岩質島弧地殻の同化作用によって形成された可能性を示唆する。嶺岡帯に産するトーナル岩の分別溶融作用で形成されるメルトと高Mg安山岩中のCrディオプサイド斑晶と平衡な未分化なメルトを混合させて形成されるメルトの化学組成は、嶺岡‒瀬戸川帯の高Mg安山岩の全岩化学組成と矛盾しない。Ichiyama et al. (2017, 2020)が示したように、嶺岡‒瀬戸川帯のオフィオライト質岩類の一部が古伊豆弧の断片であるならば、高Mg安山岩も古伊豆弧で形成された可能性が考えられる。現在の伊豆弧には、安山岩質中部地殻が存在すると考えられており(例えば、Suyehiro et al., 1996)、そのような海洋性島弧の安山岩質中部地殻の形成に未分化な島弧玄武岩と地殻の同化作用が重要な役割を果たしている可能性が考えられる。
【引用文献】Arai (1991) In: Peters, T. et al. (eds): Ophiolite Genesis and Evolution of the Oceanic Lithosphere, 807-822; 荒井(1994)静岡大学地球科学研究報告,20,175‒185; 荒井・石田(1987)岩石鉱物鉱床学会誌,82,336‒344; Ichiyama et al. (2017) Lithos, 82–283, 420–430; Ichiyama et al. (2020) Int. Geol. Rev., 62, 503–521; 加藤ほか(2024)日本岩鉱物科学会年会2024年会; Ogawa et al. (2009) Earth Evolution Siences,3,3‒25; 大橋・白木(1981)岩石鉱物鉱床学会誌,76,69‒79; Suyehiro et al. (1996) Science, 272, 390-392; 高橋ほか(2012)神奈川県博調査研報,14,25–56
