講演情報

[T2-O-17]山口県東部岩国-柳井地域に産する深成岩類の岩相変化

*大和田 正明1、宮下 由香里2、亀井 淳志3、小山内 康人4、北野 一平5 (1. 山口大学大学院創成科学研究科、2. 産総研地質調査総合センター、3. 島根大学、4. 九州大学、5. 北海道大学)
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キーワード:

地殻―マントル相互作用、マグマフレアアップ、岩国―柳井地域、屋代島、花崗岩類

 沈み込み帯では,マントルウェッジの対流,海洋プレートの年齢,沈み込み様式の変化によって,パルス的(magmatic flare-ups and lulls)な火成活動が起こり,マントル起源のマグマによる大陸地殻への物質的な付加や組成改変を促す(Chapman et al., 2021, Lithos 398–399, doi.org/10.1016/j.lithos.2021.106307).こうした地殻-マントル相互作用が進行することで,多様な岩相の深成岩類を形成する.山口県南東部岩国-柳井地域の最南部の屋代島には,105-95 Maのmagmatic flare-up時に活動した深成岩類が分布する(宮下ほか,2018,日本地質学会第125年学術大会講演要旨,R5-P-26).屋代島は東西30 km,南北10 km程度の広がりを持ち,その範囲内に多様な岩相が分布するため,岩相変化の要因を検討するのに適している.本発表では,屋代島での岩相変化を検討した後,岩国-柳井地域に産する深成岩類の岩石化学的特徴と比較する.ここでの検討結果は,屋代島に分布する深成岩類のマグマ過程を明らかにするだけでなく,火山弧深部で起こる地殻-マントル相互作用とテクトニクスの関連を示唆する.
 屋代島に産する深成岩類は有色鉱物の鉱物組み合わせ,面構造やアルカリ長石斑晶の有無によって多様な岩相を示す.現在作成中の5万分の1地質図幅「久賀」では,鉱物組み合わせに基づき,花崗岩類を1) 角閃石-黒雲母花崗岩,2) 黒雲母花崗岩,3) 優白質黒雲母花崗岩に区分した(宮下ほか,2018前出).本発表でもこの区分に従う.角閃石-黒雲母花崗岩は粗粒で,最大1 cmに達する自形の角閃石を含む.また,しばしば最大3 cmに達する斑晶状のアルカリ長石を含む.斜長石は,一般に汚濁帯を伴う累帯構造を示す.本岩相には,細粒の苦鉄質包有物(MME)が多産する.こうしたMMEや規模の大きな苦鉄質岩のストック状岩体には,未分化に近い組成を示す深成岩が含まれる.黒雲母花崗岩は特に岩相変化が著しい.一般に中〜粗粒であるが,細粒な岩相もある.また,黒雲母の量比も場所によって異なり,優黒な岩相から優白な岩相まで多様である.しばしば最大5 cmに達する斑晶状アルカリ長石を含む.変成岩ブロックを伴う場合,変成岩の片理面と平行に貫入し,ザクロ石や白雲母を含む.また,ピナイト化した菫青石を含むこともある.ザクロ石は,しばしば中心部に珪線石や黒雲母を包有することがあり,変成岩由来の捕獲結晶と考えられる.優白質黒雲母花崗岩は,細粒〜中粒で,しばしばザクロ石や白雲母を含む.変成岩を包有することは稀であるが,記載的特徴は,ザクロ石や白雲母を含む黒雲母花崗岩に類似する.以上から,角閃石-黒雲母花崗岩は,MMEを含むなど苦鉄質岩とマグマ同士で共存したほか,斑晶状のアルカリ長石を含むなど黒雲母花崗岩と共通の記載的特徴をもつ.優白質黒雲母花崗岩は,上述した通り黒雲母花崗岩と共通の記載的特徴を示すことから,黒雲母花崗岩マグマが変成岩類を同化することで生じた可能性が高い.
 池田ほか(2019,地質学雑誌,125,167–182)は,屋代島に分布する深成岩類の産状と記載的・岩石化学的特徴から,黒雲母花崗岩マグマが苦鉄質マグマや変成岩と混合あるいは同化することで角閃石-黒雲母花崗岩や優白質黒雲母花崗岩を形成すると述べた.また,同じ岩相内での組成変化は,主に結晶分化作用が卓越する(児玉ほか,2021,岩石鉱物科学,49,133–147).屋代島での結果を検証するため,岩国-柳井地域に分布する多様な岩相の深成岩類も合わせて検討した.苦鉄質岩(主に閃緑岩)と花崗岩のトレンドは,ハーカー図上で連続しない.一方で,苦鉄質岩と花崗岩のSr同位体初生値とSiO2 wt%の間には正の相関があり,両マグマは影響し合っていたと考えられる.このことは,屋代島での岩相変化が地殻とマントル起源の2系統のマグマによる相互作用の結果とした池田ほか(2019,前出)の結論を支持する.また,未分化に近い組成を示す苦鉄質岩のepsilon Nd初生値はマイナスを示す.すなわち,この時期(105-95 Ma)のマントルウェッジは地殻物質によって汚染されていた可能性がある.こうした汚染は,沈み込む海洋プレートと大陸プレート同士の結合が変化したことで構造侵食が進行し,地殻物質がマントルウェッジと反応したことよると推察される.