講演情報
[T2-O-18]白亜紀西南日本フレアアップの素過程解析:領家帯と山陽帯の花崗岩類
*中島 隆1 (1. 神奈川県立生命の星・地球博物館)
キーワード:
白亜紀西南日本、領家帯、山陽帯、花崗岩類、フレアアップ
領家帯・山陽帯の珪長質火成岩類の活動は近年、白亜紀西南日本のフレアアップという言葉で表現されることが多い。しかしフレアアップは火成活動全体を指す言葉であり、その全体像はそれらを構成するいろいろな部分の詳細なケーススタディによって明らかになるものである。したがってこれらはいわばフレアアップの素過程とも言える。白亜紀西南日本は世界中のフレアアップの中でもこれまでの基礎的な調査研究の蓄積が豊富であり、かつ近年これまで遅れていたU-Pb年代の研究が精力的に行われていることにより、これら素過程についての研究が非常に進んだ地域となっている。
深成変成帯 (plutono-metamorphic belt)である領家帯と火山深成複合体 (volcano-plutonic complex) の集合体である山陽帯は地表では並列して帯状分布するが、両帯における火成活動が 70-110Ma と大まかには同時性であること、及び密接に伴う変成岩類の変成度から、大局的にはそれらを地殻深部と浅部をあらわす同時間断面とみなす概念図が描かれてきた (Nakajima, 1994; Nakajima et al., 2016)。しかしこの仮想地殻断面図は各地域での花崗岩類・変成岩類・火山岩類について得られた U-Pb年代によって近年大幅に詳細化され、それぞれの地域で変成岩から推定される地殻内の熱的状況とそれに伴う火成活動史がダイナミックに語られるようになってきた (Okudaira et al., 2024など)。それらによって描かれた地殻柱状図では花崗岩類は定置深度と年代のみで記述されるので、領家花崗岩や山陽帯花崗岩という記述はなく、この区分はもはや役目を終えたかのようにも見える。しかし実際は、最近特に詳しく研究されたのは領家帯の花崗岩類が主で、山陽帯の花崗岩類のU-Pb年代測定はそれに比べるとまだ限定的である。
そのような中でも、詳細な研究が広域的に行われた三河地域や柳井地域においては山陽帯花崗岩とされてきた塊状花崗岩のU-Pb年代はその地域の領家花崗岩のうち塊状でかつ最も若いU-Pb年代のものとほぼ同程度になる (Takatsuka et al., 2018; Skrzypek et al., 2016) ことは領家花崗岩/山陽帯花崗岩の区分に再考を促す意味を持つし、また火山深成複合体の産状が野外地質で確認されている山陽帯においては、花崗岩に伴う濃飛・高田流紋岩といった大規模珪長質火山岩類の活動が 1 - 3 m.y.というきわめて短期間に集中的に起こったことが近年発表されたU-Pb年代から明らかになり(星ほか, 2016; 早坂・田島, 2016)、かつそれが隣接する山陽帯花崗岩の年代と一致することから、大規模な火山深成複合体の形成は局所スケールではきわめて短時間のうちに起こったことが証明された。この火成活動が中部地方では約70Ma、中国地方では約90Maに起こっており、両地方の間には20Maの時間差があることも注目される。
これらの火成活動は巨視的には長期継続的に見えていたが高精度の年代データが集積してくるにつれて微視的にはパルス的であったことや、中部地方では75 - 90 Maの間活動停止期があったが近畿地方や柳井地域ではそのような休止期が見られない (Takatsuka et al., 2018; Higashino et al., 2025; 竹内ほか, 2024; Skrzypek et al., 2016) などの地域的な特性も明らかになってきている。こういった観察事実の全てが領家帯と山陽帯に展開した白亜紀西南日本フレアアップの具体的な実相である。
文献:早坂康隆・田島詩織 (2016) 地質学会講演要旨, 61 Higashino, F. et al. (2025) Island Arc 34, e70022. 星博幸ほか (2016) 地質学会講演要旨, 81 Nakajima, T. (1994) Lithos 33, 51-66. Nakajima, T. et al. (2016) “Geology of Japan” 251-257. Okudaira,, T. et al. (2024) Elements 20, 96-102. Skrzypek, E.T. et al. (2016) Lithos 260, 9-27. Takatsuka, K. et al. (2018) Lithos 308-309, 428-445. 竹内誠ほか (2024) 5万分の1地質図幅「高見山」説明書.
深成変成帯 (plutono-metamorphic belt)である領家帯と火山深成複合体 (volcano-plutonic complex) の集合体である山陽帯は地表では並列して帯状分布するが、両帯における火成活動が 70-110Ma と大まかには同時性であること、及び密接に伴う変成岩類の変成度から、大局的にはそれらを地殻深部と浅部をあらわす同時間断面とみなす概念図が描かれてきた (Nakajima, 1994; Nakajima et al., 2016)。しかしこの仮想地殻断面図は各地域での花崗岩類・変成岩類・火山岩類について得られた U-Pb年代によって近年大幅に詳細化され、それぞれの地域で変成岩から推定される地殻内の熱的状況とそれに伴う火成活動史がダイナミックに語られるようになってきた (Okudaira et al., 2024など)。それらによって描かれた地殻柱状図では花崗岩類は定置深度と年代のみで記述されるので、領家花崗岩や山陽帯花崗岩という記述はなく、この区分はもはや役目を終えたかのようにも見える。しかし実際は、最近特に詳しく研究されたのは領家帯の花崗岩類が主で、山陽帯の花崗岩類のU-Pb年代測定はそれに比べるとまだ限定的である。
そのような中でも、詳細な研究が広域的に行われた三河地域や柳井地域においては山陽帯花崗岩とされてきた塊状花崗岩のU-Pb年代はその地域の領家花崗岩のうち塊状でかつ最も若いU-Pb年代のものとほぼ同程度になる (Takatsuka et al., 2018; Skrzypek et al., 2016) ことは領家花崗岩/山陽帯花崗岩の区分に再考を促す意味を持つし、また火山深成複合体の産状が野外地質で確認されている山陽帯においては、花崗岩に伴う濃飛・高田流紋岩といった大規模珪長質火山岩類の活動が 1 - 3 m.y.というきわめて短期間に集中的に起こったことが近年発表されたU-Pb年代から明らかになり(星ほか, 2016; 早坂・田島, 2016)、かつそれが隣接する山陽帯花崗岩の年代と一致することから、大規模な火山深成複合体の形成は局所スケールではきわめて短時間のうちに起こったことが証明された。この火成活動が中部地方では約70Ma、中国地方では約90Maに起こっており、両地方の間には20Maの時間差があることも注目される。
これらの火成活動は巨視的には長期継続的に見えていたが高精度の年代データが集積してくるにつれて微視的にはパルス的であったことや、中部地方では75 - 90 Maの間活動停止期があったが近畿地方や柳井地域ではそのような休止期が見られない (Takatsuka et al., 2018; Higashino et al., 2025; 竹内ほか, 2024; Skrzypek et al., 2016) などの地域的な特性も明らかになってきている。こういった観察事実の全てが領家帯と山陽帯に展開した白亜紀西南日本フレアアップの具体的な実相である。
文献:早坂康隆・田島詩織 (2016) 地質学会講演要旨, 61 Higashino, F. et al. (2025) Island Arc 34, e70022. 星博幸ほか (2016) 地質学会講演要旨, 81 Nakajima, T. (1994) Lithos 33, 51-66. Nakajima, T. et al. (2016) “Geology of Japan” 251-257. Okudaira,, T. et al. (2024) Elements 20, 96-102. Skrzypek, E.T. et al. (2016) Lithos 260, 9-27. Takatsuka, K. et al. (2018) Lithos 308-309, 428-445. 竹内誠ほか (2024) 5万分の1地質図幅「高見山」説明書.
