講演情報

[T13-O-4]三浦半島南部に分布する上総層群林層(下部更新統)から見いだされた大峰-SK110テフラ

*野崎 篤1、塩井 宏幸2、笠間 友博3、西澤 文勝4、柴田 健一郎5 (1. 平塚市博物館、2. (有)国土プランニングデザイン、3. 箱根ジオパーク推進室、4. 神奈川県立生命の星・地球博物館、5. 横須賀市自然・人文博物館)
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キーワード:

前期更新世、上総層群、広域テフラ、大峰-SK110テフラ

 三浦半島南部の横須賀市林地区とその周辺には、主に凝灰質砂岩層および礫岩層からなる海成層とされる林層が分布する。中新統葉山層群を不整合に覆い、中部更新統宮田層に不整合に覆われるとされる林層の堆積年代は多摩丘陵南部の下部更新統上総層群野島層に相当するとされているが、一露頭から産出した軟体動物化石の種構成から推定されたもの(江藤ほか, 1998)であり、直接的に年代が明らかにされた例はない。本研究では、林地区で2021年に実施された神奈川県道路公社三浦縦貫道路の延伸工事現場とその周辺に露出する林層について岩相層序を明らかにするとともに、挟在するテフラ層について広域テフラとの対比を検討した。
調査地域の林層は、南北に1 km、東西に0.5 kmの範囲に分布し、層厚は連続露頭として確認された限りでは12 m以上である。主に凝灰質細粒~粗粒砂岩層からなるが、調査地域北部では円礫層がみられる。軽石やスコリアを主体とし、しばしばトラフ型斜交層理や平行葉理が発達する、層厚60 cm以下の砂質テフラ層が多く挟まれるが、調査地域北部では見られない。走向傾斜は場所によって変化し、調査地域南部では北東-南西走向かつ南東に8~16°傾斜だが、北部ではほぼ水平もしくは東西走向かつ南に4°程度になる。調査地域南部では林層の上位に宮田層のD層(笠間・塩井, 2019)が分布するが、林層と宮田層D層の間には層厚7 m以上の、テフラ層に乏しく斜交層理が発達した軽石質粗粒砂岩層(X層)が浸食面を境に重なる。X層は北東-南西走向かつ南東に10°程度の傾斜と、林層もしくは宮田層D層の下位にみられる宮田層B層(笠間・塩井, 2019)に似る。また、X層の凝灰質砂礫層という岩相や大規模な平板状のフォアセット層理が発達する堆積構造もB層(笠間・塩井, 2019)に類似するが、B層はX層よりスコリア質である点でやや異なる。ここではX層の帰属は不明とする。
林層に挟在するテフラ層のうち7枚が、露頭間で肉眼観察および層序関係に基づき対比された。そのうちHGT-1は、レンズ状で最大層厚7 cmであり、細粒砂サイズのバブルウォール型ガラス(n=1.497-1.500)が主体で、多孔質型や低発泡~無発泡のその他型のガラスを含む。また重鉱物として黒雲母が全重鉱物の64~83%を占めるほか、緑色角閃石、直方輝石、単斜輝石、ジルコンを含む。また、2か所の露頭で採取したHGT-1のジルコンのU-Pb年代測定の結果、1.59±0.01 Ma、1.62±0.01 Maの年代が得られた。これらの鉱物組成、年代に類似する広域テフラとして、飛騨山脈を給源とする前期更新世の広域テフラである大峰-SK110(Om-SK110: 長橋ほか, 2000)、白沢天狗-SK100(Srt-SK100: Satoguchi and Nagahashi, 2012)が挙げられる。このためHGT-1と、多摩丘陵南部の横浜市栄区に露出する上総層群小柴層中に挟在しOm-SK110とSrt-SK100にそれぞれ対比されているテフラ層SKT-11とSKT-12(Nozaki et al., 2014)の火山ガラスについて、屈折率、主要元素および微量元素を測定した結果、HGT-1とSKT-11(Om-SK110)はいずれの値もよく一致したことから、両者は対比される可能性が高い。SKT-11の堆積した時期について、Nozaki et al. (2014) は海洋同位体ステージ 54(157.3 ka)と推定しており、林層の堆積年代が前期更新世であることが明らかとなった。
引用文献 江藤ほか, 1998, 横須賀地域の地質. 地域地質研究報告(5 万分の1 地質図幅), 地質調査所, 128pp.; 長橋ほか, 2000, 地質学雑誌, 106, 51–69.; Nozaki et al., 2014, Island Arc, 23, 157–179.; 笠間・塩井, 2019, 神奈川県立博物館研報(自然科学), 48, 1–12.; Satoguchi and Nagahashi, 2012, Island Arc, 21: 149–169.