講演情報

[T13-O-6]栗原市荒砥沢地滑り岩体を構成する凝灰岩の給源カルデラ

*髙嶋 礼詩1、水戸 悠河2、岡本 正則2、原田 拓也3 (1. 東北大学、2. 出光興産株式会社、3. 栗駒山麓ジオパーク推進協議会)
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キーワード:

荒砥沢、地滑り、溶結凝灰岩、カルデラ、アパタイト

 宮城県栗原市東部には,2008年6月の岩手・宮城内陸地震(マグニチュード7.2,最大震度6強)によって発生した日本最大級の地滑り岩体が分布する.この地滑り岩体の大きさは,長さ1,400m,幅810m,滑落崖の高さは148mに達し,4500万立方メートルの岩塊が300m以上移動したとされる.本地滑り岩体の層序は,基底部,下部~中部,上部に区分することができ,基底部は凝灰岩をしばしば挟むシルト岩から構成され,下部~中部は厚さ90mに達する軽石凝灰岩,上部は厚さ約30mの溶結凝灰岩で構成される.この地滑り岩体の発生メカニズムについてはこれまで応用地質学的な視点から盛んに研究がなされてきたが,地滑り岩体を構成する上述の凝灰岩の年代や給源についてはあまり明らかにされていなかった.近年,水戸ほか(2024)は荒砥沢地域の地層の層序学的研究により,中新世後期のカルデラに関連する堆積物と考えられてきた基底部のシルト岩やそれを覆う下~中部の軽石凝灰岩が1~1.3 Maの年代を示すことを明らかにし,これらは上部の溶結凝灰岩とほぼ同時期の堆積物であることを明らかにした.しかし,その一方,近隣に同年代のカルデラが報告されていないことから,これらの凝灰岩の給源となった火山については不明であった. 栗駒山南山麓には重力異常により,カルデラの存在が指摘されており,栗駒南麓カルデラと名づけられている(布原ほか,2008).このカルデラは小野松沢層の湖成層に含まれる植物化石に基づいて,後期中新世のカルデラと考えられていた(吉田ほか,2020など).近年、栗駒南麓カルデラ地域において地熱資源調査を目的としたボーリング調査が実施されており、この掘削コア・カッティングスの解析によると,深度410 m~2,770 mの区間は全てデイサイト質の凝灰岩から構成され,深度711 m~2,700 mの区間から得られたジルコンのU-Pb年代は1~1.5 Maを示すことが明らかとなった.このことは,従来,中新世後期と考えられてきた栗駒南麓カルデラの形成年代が第四紀カラブリアン期であり,荒砥沢の地滑り岩体を形成する凝灰岩とほぼ同時期であることを示唆する. 本研究ではデイサイト質凝灰岩の掘削コア・カッティングスからアパタイトを抽出し,その微量元素組成を測定して,荒砥沢の地滑り岩体を構成する凝灰岩類との対比を実施した.掘削コア・カッティングスの岩石を顕微鏡下で観察した結果,火山ガラスのほとんどは変質しているが,アパタイトは複数の層準で豊富に含まれていた.アパタイトの抽出方法および測定条件はTakashima et al. (2017)に準拠し,微量元素の測定は,東北大学金属材料研究所設置の波長分散型EPMA (JXA-8530F)を用いた.1試料あたり20粒子のアパタイトを分析した. アパタイト微量元素組成はマグマの化学組成,酸素,ハロゲン分圧,温度によって大きく変化するため,近年,テフラの識別対比に広く用いられる(Sell and Samson, 2011; Takashima et al., 2017).とりわけ,アパタイトに含まれるMg,Cl, Fe,Mn の含有量は各テフラの識別に極めて有効であることが示されていることから,ここではアパタイト中のCl, Mg, Mn, Feの含有量を基に,凝灰岩の比較を行った.その結果,掘削コアのデイサイト凝灰岩のアパタイトの微量元素組成は,Cl-Mg図およびMn-Fe図において,深度ごとに異なるクラスターにプロットされることが明らかになった.このうち,深度840mと深度480mのアパタイトは,荒砥沢の地滑り岩体の基底部のシルト岩に挟まる凝灰岩と,下部~中部の軽石凝灰岩のものとそれぞれ一致することが明らかになった.以上のことから,荒砥沢の地滑り岩体を構成する凝灰岩の給源は栗駒南麓カルデラである可能性が高く,その噴火は第四紀カラブリアン期に起きたと考えられる. 引用文献水戸悠河ほか,2024,地質学会第131年学術大会要旨.布原ほか,2008,月刊地球32356-366.吉田ほか, 2020, 地学雑誌, 129, 529–563.Takashima et al., 2017, Quat. Geochronology, 41, 151–162.Sell and Samson, 2011. Geology, 39, 303-306.