講演情報
[T13-O-8]古田沢湖層の年代と大型植物化石から見たMIS3期の環境変化
*矢部 淳1、植村 和彦1、植田 弥生2、五井 昭一3、百原 新4 (1. 国立科学博物館生命史研究部、2. 滋賀県立琵琶湖博物館、3. 秋田まるごと地球博物館ネットワーク事務局、4. 千葉大学大学院園芸学研究院)
キーワード:
古田沢湖層、第四紀、MIS 3、D–O イベント、北東北地方
「古田沢湖層」は秋田県仙北市の田沢湖北東岸に分布する第四系で,植田房雄氏らによって1964年に非公式に提唱された.同層は大型植物化石や昆虫化石などを含み,植物では北東北に自生する寒冷要素と本州以西の温暖要素が混在する群集だと報告されていた.本研究では,植田氏らが収集した標本を含んで,同層から収集され国立科学博物館に収蔵されていた標本を分類学的に再検討するとともに,5地点の標本のAMS年代を測定した.その結果,AMS年代は補正年代で43,508~38,323 cal yBP(±1σ)の範囲で4つに分けられ,いずれも最終氷期の亜間氷期MIS3に含まれることが明らかとなった.植物化石群集の組成は時代ごとに異なり,現在の北東北を含む広域に分布するブナFagus crenataなどの冷温帯要素を中心に,関東以西に分布する要素を僅かに含む群集と,後者を含まず,冷温帯要素と亜寒帯要素(チョウセンゴヨウPinus koraiensis,ハリモミPicea torano,コメツガTsuga diversifolia)を含む群集に分けられることがわかった.各群集の年代は,それらの組成変化が,MIS3期に観測されているダンスカード・オシュガーイベント(D–O event)のIS-11と10の温暖化とその後の寒冷化に対応されることを示唆する.カルデラ湖である田沢湖は外輪山よりも外からの河川の流入がなかったため,湖面(海抜250m)から背後の山地(海抜約400m)という限られた範囲の植生が短期の環境変化に応じて動的に変化したことを示すと考えられる.
