講演情報
[T13-O-9]ポットホールの節理による構造規制とその生成機構:和歌山県古座川町「滝の拝」の例
*木村 克己1、金子 誠1、山本 俊哉2 (1. 深田地質研究所、2. 和歌山県立田辺高校)
キーワード:
ポットホール、直交節理、熊野層群、プラッキング、古座川町滝の拝
はじめに
和歌山県古座川町の「滝の拝」にて,古座川の左支流(小川)の岩盤河床に発達するポットホールを対象に実施したドローン撮影と現地調査に基づいて,ポットホールの特徴を記載し,その地質構造規制と発達過程を考察した.現地調査は2024年3月と10月に合計3日間実施した.木村・金子(2024)で記載を中心にした内容を発表している.
本論では,伊藤(1979)にならって,ポットホールを河流による侵食穴の総称とし,その分類名称も伊藤(1979)にしたがう.河流による岩盤河床 の侵食様式としては,一般に摩耗,プラッキング(剥ぎ取り),打撃,溶食があるが,これらのうち節理が発達した岩盤河床ではプラッキングによる侵食が極めて効果的であると指摘されている(Whipple et al., 2000).「滝の拝」のポットホールは,和歌山県の天然記念物に指定され,南紀熊野ジオパークのジオサイトにもあげられている.
地形・地質概要
小川は標高600-750mの開析の進んだ山地を流れる全長41㎞の穿入蛇行河川で,その中流部に「滝の拝」地区が位置する.「滝の拝」地区では,小川の河道は下流から上流に向けてN40E-S40WからN70E-S70Wへと湾曲し,右岸側に幅30-40mで500m以上にわたって平坦な岩盤河床が連続する(図1).左岸側には狭長な流路が延び,橋の上流40-70m区間には落差8mの滑滝がある.滑滝より下流側は河床から比高8m以上のテラスとなっている.
小川の基盤岩の大半は中期中新世の熊野層群からなる(久富,1981).「滝の拝」付近では熊野層群の成層砂岩・砂岩シルト岩互層から構成され,NNW-SSE走向,10-15°E傾斜をなす.岩石は熱水変質をうけて白色硬化し,層理面は新鮮な露頭では癒着し塊状を呈する.風化した露頭では層理面は開離し剥離面として機能している.岩盤河床・テラスには直交する2方向の垂直節理が発達し,その走向は河道方向とそれに直交する2方向であり,河道の湾曲に符合するように変化する(図2).
「滝の拝」のポットホール
河道にかかる橋の手前,右岸の凹み(図1)を境にポットホールの特徴が急変する.下流側の「長」区では岩盤は段丘化し,岩盤表層は風化し,表層部の数10㎝にはシーティング節理が形成され幾層もの剥離層が形成されている.岩盤テラスは河道方向とそれに直交する開口した節理で刻まれ,テラスの縁は矩形をなす.テラスには円ないし楕円形のポットホールが散在し,下流ほどテラス面の平坦さがくずれ,河道との比高が低下する傾向が認められる.
「滝の拝」区では岩盤は新鮮でテラス表面は灰色ないし白色を呈し,河道方向に延びる溝穴型のポットホールが一面に発達する(図1).溝穴の間隔は上流部では30-60㎝であるが,下流部では60-120㎝と約2倍になり,深さは80-150㎝と3倍ほどになる.溝穴は一般に1つあるいはいくつかの長楕円形の輪郭でスプーン状に下に凸な穴(スプーン穴と呼ぶ)の縦列配列で表現できる.溝穴の底や側面は滑らかな湾曲面をなすが,一部の溝穴の側壁は垂直の壁面をなし,その壁沿いや底部に延びに平行する節理が認められる.スプーン穴の上流端は河道に直交する節理に沿うことが多い.また,風化した岩盤では,開離した同節理に沿って,下流側壁が削剥されて連続したステップが形成され,層理面を境界面として岩盤剥離が生じている.
まとめ
「滝の拝」の岩盤・河床テラスに発達するポットホールの産状から,洪水流によるプラッキング(岩盤剥離)が節理沿いに発生し,溝穴型ポットホールとブロック状の岩盤剥離が発生したことが推定できる.その際,河道方向の節理によって帯状配列をなす溝穴の方向を,河道に直交する節理によってプラッキングの始点がそれぞれ支配されたと考えることができる.また,風化し節理や層理面が開離した河床・テラスでは,直交する節理と層理面に画された岩盤の剥離侵食が発生していると考えられる.なお,アブレーションの侵食機構は,河床とテラスの平滑化と溝穴型ポットホールの伸展・スムーズ化において寄与したものと考えられる.
参考文献
・久富邦彦 (1981) 地質学雑誌,87,157-174.
・伊藤隆吉 (1979) 日本のポットホール,古今書院.
・木村克己・金子誠 (2024) 深田研年報,no.25, 137-149.
・Whipple et al. (2000) GSABull, 112(3), 490-503.
和歌山県古座川町の「滝の拝」にて,古座川の左支流(小川)の岩盤河床に発達するポットホールを対象に実施したドローン撮影と現地調査に基づいて,ポットホールの特徴を記載し,その地質構造規制と発達過程を考察した.現地調査は2024年3月と10月に合計3日間実施した.木村・金子(2024)で記載を中心にした内容を発表している.
本論では,伊藤(1979)にならって,ポットホールを河流による侵食穴の総称とし,その分類名称も伊藤(1979)にしたがう.河流による岩盤河床 の侵食様式としては,一般に摩耗,プラッキング(剥ぎ取り),打撃,溶食があるが,これらのうち節理が発達した岩盤河床ではプラッキングによる侵食が極めて効果的であると指摘されている(Whipple et al., 2000).「滝の拝」のポットホールは,和歌山県の天然記念物に指定され,南紀熊野ジオパークのジオサイトにもあげられている.
地形・地質概要
小川は標高600-750mの開析の進んだ山地を流れる全長41㎞の穿入蛇行河川で,その中流部に「滝の拝」地区が位置する.「滝の拝」地区では,小川の河道は下流から上流に向けてN40E-S40WからN70E-S70Wへと湾曲し,右岸側に幅30-40mで500m以上にわたって平坦な岩盤河床が連続する(図1).左岸側には狭長な流路が延び,橋の上流40-70m区間には落差8mの滑滝がある.滑滝より下流側は河床から比高8m以上のテラスとなっている.
小川の基盤岩の大半は中期中新世の熊野層群からなる(久富,1981).「滝の拝」付近では熊野層群の成層砂岩・砂岩シルト岩互層から構成され,NNW-SSE走向,10-15°E傾斜をなす.岩石は熱水変質をうけて白色硬化し,層理面は新鮮な露頭では癒着し塊状を呈する.風化した露頭では層理面は開離し剥離面として機能している.岩盤河床・テラスには直交する2方向の垂直節理が発達し,その走向は河道方向とそれに直交する2方向であり,河道の湾曲に符合するように変化する(図2).
「滝の拝」のポットホール
河道にかかる橋の手前,右岸の凹み(図1)を境にポットホールの特徴が急変する.下流側の「長」区では岩盤は段丘化し,岩盤表層は風化し,表層部の数10㎝にはシーティング節理が形成され幾層もの剥離層が形成されている.岩盤テラスは河道方向とそれに直交する開口した節理で刻まれ,テラスの縁は矩形をなす.テラスには円ないし楕円形のポットホールが散在し,下流ほどテラス面の平坦さがくずれ,河道との比高が低下する傾向が認められる.
「滝の拝」区では岩盤は新鮮でテラス表面は灰色ないし白色を呈し,河道方向に延びる溝穴型のポットホールが一面に発達する(図1).溝穴の間隔は上流部では30-60㎝であるが,下流部では60-120㎝と約2倍になり,深さは80-150㎝と3倍ほどになる.溝穴は一般に1つあるいはいくつかの長楕円形の輪郭でスプーン状に下に凸な穴(スプーン穴と呼ぶ)の縦列配列で表現できる.溝穴の底や側面は滑らかな湾曲面をなすが,一部の溝穴の側壁は垂直の壁面をなし,その壁沿いや底部に延びに平行する節理が認められる.スプーン穴の上流端は河道に直交する節理に沿うことが多い.また,風化した岩盤では,開離した同節理に沿って,下流側壁が削剥されて連続したステップが形成され,層理面を境界面として岩盤剥離が生じている.
まとめ
「滝の拝」の岩盤・河床テラスに発達するポットホールの産状から,洪水流によるプラッキング(岩盤剥離)が節理沿いに発生し,溝穴型ポットホールとブロック状の岩盤剥離が発生したことが推定できる.その際,河道方向の節理によって帯状配列をなす溝穴の方向を,河道に直交する節理によってプラッキングの始点がそれぞれ支配されたと考えることができる.また,風化し節理や層理面が開離した河床・テラスでは,直交する節理と層理面に画された岩盤の剥離侵食が発生していると考えられる.なお,アブレーションの侵食機構は,河床とテラスの平滑化と溝穴型ポットホールの伸展・スムーズ化において寄与したものと考えられる.
参考文献
・久富邦彦 (1981) 地質学雑誌,87,157-174.
・伊藤隆吉 (1979) 日本のポットホール,古今書院.
・木村克己・金子誠 (2024) 深田研年報,no.25, 137-149.
・Whipple et al. (2000) GSABull, 112(3), 490-503.

