講演情報
[T1-P-11]九州東部佐賀関半島三波川コンプレックス二重類帯構造ざくろ石と前弧から三波川沈み込みへの移流の可能性
*宮崎 一博1、中村 佳博1、長田 充弘2 (1. 産総研地質調査総合センター、2. 日本大学文理学部)
キーワード:
高圧型変成岩、三波川コンプレックス、ざくろ石、佐賀関、温度圧力履歴
佐賀関三波川コンプレックス泥質片岩中の二重累帯構造ざくろ石は,核部から縁部へMnの減少が2回繰り返す1.このざくろ石は,1985年当時,三波川コンプレックス黒雲母帯の変成作用を受けた後,ざくろ石帯低温部の変成作用を受けて形成されたと解釈された.しかし,ざくろ石核部はCaO濃度が低く,三波川変成作用で形成されたものか明確でない.以下では,佐賀関二重累帯構造ざくろ石の産状,組成,及び成長履歴を再検討した結果を報告する.
文献1には二重累帯構造ざくろ石を含む泥質片岩の詳細が記載されていない.今回,志生木の標高40 mの小高い丘の上部にアルバイト斑状変晶が発達する泥質片岩及び苦鉄質片岩(以下,高変成度岩と略す)が確認された.高変成度岩は,蛇紋岩中のブロックではなく,蛇紋岩の上位に位置している.下位の蛇紋岩は東側で緑泥石帯相当の北部ユニット2の低変成度泥質片岩と接しており,境界は主片理に平行である.高変成度岩は佐賀関半島北部において,北部ユニットの構造的上位に北部ユニットの構造とやや斜交して累重するものと予想され,これを志生木ユニットと呼ぶことにする.
志生木に加え,転石としてのみ存在する福水海岸,及び地すべり移動体として分布する中ノ原南方の志生木ユニットから泥質片岩3試料を採取し分析を行った.3試料中のざくろ石はいずれも二重累帯構造を示した.ざくろ石元素マップで,低Ca高Mg核部と高Ca低Mgの縁部が明瞭に識別できる.核部はほぼ均一な組成を示すが,Mnが縁部に向けてわずかに減少する.縁部と核部の境界は不連続に組成が変化し,核部の組成累帯構造を切って縁部のざくろ石が被覆している.ざくろ石の核部と縁部の成長は連続的ではなく,間に溶解及び休止期を挟んで行われたと考えられる.以下では,ざくろ石核部を形成した変成作用を初期変成作用,縁部を形成した変成作用を後期変成作用と呼ぶことにする.
三波川コンプレックス泥質片岩の平均化学組成3を用いて,二重累帯構造ざくろ石の変成条件を,Preplex4シュードセクションで求めたざくろ石組成から推定した.EPMA分析で得られたざくろ石核部組成との比較から,初期変成作用の変成条件は590-650℃,6-9 kbarと推定される.この条件は,大陸地殻の平均的な地温勾配から領家コンプレックスと大陸地殻の平均的地温勾配の中間の温度/圧力になる.ざくろ石縁部の組成との比較から,後期変成作用の変成条件は,490-550℃前後,8.5-11 kbarとなり,ざくろ石縁部と主片理を構成するフェンジャイトの温度計5による見積と調和的であった.後期変成作用の温度圧力条件は三波川主変成の温度圧力条件6の範囲に入る.
二重累帯構造ざくろ石の組成をMn-Fe+Mg-Caの三角図にプロットすると,核部の組成は領家コンプレックス高変成度部のざくろ石7もしくは高温型変成岩を原岩とする唐崎マイロナイト中の泥質片麻岩マイロナイトのざくろ石8,9の組成領域にプロットされる.佐賀関二重累帯構造ざくろ石核部が唐崎マイロナイトや領家コンプレックスの形成場で形成されたとすると,火山弧ないし前弧域下部地殻から三波川沈み込みへの移流によって二重累帯構造ざくろ石が形成された可能性が指摘できる.同様な火山弧側から沈み込み帯への移流は,中部地方のMTL沿いの領家コンプレックス10,九州西部天草地方の三波川コンプレックスに対比される長崎変成岩下部ユニットの上位に接する上部ユニット11,12でも提案されている.これらについて議論する予定である.
引用文献:1 園田(1985)吉田博直先生退官記念論文集; 2 宮崎・吉岡(1993) 5万分の1地質図幅「佐賀関」; 3 Goto et al (1996) Mem. Fac. Sci., Kyoto Univ., Ser. geol. Mineral.; 4 Connolly (2009) Geochem. Geophy. Geosys.; 5 Green and Hellaman (1982) Lithos; 6 Endo et al. (2024) Elements; 7 Ikeda(2004) Contrib. Mineral. Petrol.; 8 武田ほか(2000) 地質学論集; 9 吉村・高木(1999) 地雑; 10 Nakamura et al. (2019) Jour. Meta. Geol.; 11 Miyazaki et al. (2013) Lithos; 12 Mori et al (2021) Int. Geol. Rev.
文献1には二重累帯構造ざくろ石を含む泥質片岩の詳細が記載されていない.今回,志生木の標高40 mの小高い丘の上部にアルバイト斑状変晶が発達する泥質片岩及び苦鉄質片岩(以下,高変成度岩と略す)が確認された.高変成度岩は,蛇紋岩中のブロックではなく,蛇紋岩の上位に位置している.下位の蛇紋岩は東側で緑泥石帯相当の北部ユニット2の低変成度泥質片岩と接しており,境界は主片理に平行である.高変成度岩は佐賀関半島北部において,北部ユニットの構造的上位に北部ユニットの構造とやや斜交して累重するものと予想され,これを志生木ユニットと呼ぶことにする.
志生木に加え,転石としてのみ存在する福水海岸,及び地すべり移動体として分布する中ノ原南方の志生木ユニットから泥質片岩3試料を採取し分析を行った.3試料中のざくろ石はいずれも二重累帯構造を示した.ざくろ石元素マップで,低Ca高Mg核部と高Ca低Mgの縁部が明瞭に識別できる.核部はほぼ均一な組成を示すが,Mnが縁部に向けてわずかに減少する.縁部と核部の境界は不連続に組成が変化し,核部の組成累帯構造を切って縁部のざくろ石が被覆している.ざくろ石の核部と縁部の成長は連続的ではなく,間に溶解及び休止期を挟んで行われたと考えられる.以下では,ざくろ石核部を形成した変成作用を初期変成作用,縁部を形成した変成作用を後期変成作用と呼ぶことにする.
三波川コンプレックス泥質片岩の平均化学組成3を用いて,二重累帯構造ざくろ石の変成条件を,Preplex4シュードセクションで求めたざくろ石組成から推定した.EPMA分析で得られたざくろ石核部組成との比較から,初期変成作用の変成条件は590-650℃,6-9 kbarと推定される.この条件は,大陸地殻の平均的な地温勾配から領家コンプレックスと大陸地殻の平均的地温勾配の中間の温度/圧力になる.ざくろ石縁部の組成との比較から,後期変成作用の変成条件は,490-550℃前後,8.5-11 kbarとなり,ざくろ石縁部と主片理を構成するフェンジャイトの温度計5による見積と調和的であった.後期変成作用の温度圧力条件は三波川主変成の温度圧力条件6の範囲に入る.
二重累帯構造ざくろ石の組成をMn-Fe+Mg-Caの三角図にプロットすると,核部の組成は領家コンプレックス高変成度部のざくろ石7もしくは高温型変成岩を原岩とする唐崎マイロナイト中の泥質片麻岩マイロナイトのざくろ石8,9の組成領域にプロットされる.佐賀関二重累帯構造ざくろ石核部が唐崎マイロナイトや領家コンプレックスの形成場で形成されたとすると,火山弧ないし前弧域下部地殻から三波川沈み込みへの移流によって二重累帯構造ざくろ石が形成された可能性が指摘できる.同様な火山弧側から沈み込み帯への移流は,中部地方のMTL沿いの領家コンプレックス10,九州西部天草地方の三波川コンプレックスに対比される長崎変成岩下部ユニットの上位に接する上部ユニット11,12でも提案されている.これらについて議論する予定である.
引用文献:1 園田(1985)吉田博直先生退官記念論文集; 2 宮崎・吉岡(1993) 5万分の1地質図幅「佐賀関」; 3 Goto et al (1996) Mem. Fac. Sci., Kyoto Univ., Ser. geol. Mineral.; 4 Connolly (2009) Geochem. Geophy. Geosys.; 5 Green and Hellaman (1982) Lithos; 6 Endo et al. (2024) Elements; 7 Ikeda(2004) Contrib. Mineral. Petrol.; 8 武田ほか(2000) 地質学論集; 9 吉村・高木(1999) 地雑; 10 Nakamura et al. (2019) Jour. Meta. Geol.; 11 Miyazaki et al. (2013) Lithos; 12 Mori et al (2021) Int. Geol. Rev.
