講演情報

[T1-P-17]大阪府岸和田地域・河合マイロナイトのラマン分光分析

*荒木 悠1、下岡 和也1、壷井 基裕1 (1. 関西学院大学)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

マイロナイト、断層、ラマン分光、三斜度

 西南日本内帯には世界有数の断層帯である中央構造線が存在し,これまで多様な断層活動を引き起こしてきた(例えば,岡田・寒川,1978)。マイロナイトなどの断層岩を用いた変形度の推定はこれまで様々な手法を用いて行われてきたが,未だ明らかでない点も多い。そこで本研究では,マイロナイト試料について波長分散型蛍光X線分析(XRF)およびラマン分光分析を行い,変形度による化学組成や組織およびアルカリ長石の三斜度との関係性を明らかにすることを目的とした。研究地域は中央構造線の北に位置する大阪府岸和田市河合町付近である。この地域では“河合マイロナイト”(市原ほか,1986)と呼ばれる花崗岩質マイロナイトが分布する。これらのマイロナイト試料について,XRFによる主成分・微量成分元素組成の測定(8試料),および顕微ラマン分光法によるアルカリ長石の結晶系の分類(6試料)を行った。当地域のマイロナイトは,主成分元素のハーカー図上でSiO2の増加にともない,K2Oが増加,TiO2,Al2O3,Fe2O3,MnO,MgO,CaO,Na2O,P2O5が減少するトレンド示した。微量成分元素はSiO2の増加にともない,Cu,Rb,Y,Ba,Thが増加,V,Cr,Co,Ni,Sr,Zr,Nb,Pbが減少するトレンドを示した。主成分元素の含有量から見積もったアルミナ飽和度は6試料がパーアルミナス,2試料がメタアルミナスに分類された。また,中央構造線からの距離が遠くなるにつれてSiO2とK2Oの含有量が高くなる傾向を示した。Bendel(2008)の分類に従うと,当地域のマイロナイト中のアルカリ長石は,単斜晶系のサニディンに分類され,中央構造線からの距離が近いほどアルカリ長石の変形具合が大きいことが分かった。一般的に,単斜晶系のサニディンは変形にともない結晶系が変化し三斜晶系のアノーソクレースに転移する(Willim et al., 1989)。しかし,当地域のアルカリ長石は単斜晶系のサニディンに分類された。500 ℃付近でPタイプ(塑性変形),350–400 ℃で変形が停止しSタイプ(結晶境界移動)となり結晶構造が変化するが(竹下,2019),当地域のアルカリ長石には結晶構造の転移が見られなかったことから,比較的低い温度でのせん断を記録しているものと考えられる。当地域のマイロナイトの示す,中央構造線との距離と化学組成やアルカリ長石の変形度の変化は,断層帯の近傍ほど変形時のエネルギーが大きかったことを示すとともに,この地域の断層活動が比較的低温から中温下で生じたことを示唆している。
【参考文献】Bendel et al. (2008),J. Mineral., 20, 1055–1065.市原ほか (1986), 岸和田地域の地質, 地質調査所.岡田ほか (1978), 地理学評論, 51-5, 385–405.竹下ほか (2019), 日本地質学会第126年学術大会講演要旨.William et al. (1989), Mineral. Mag., 53, 25-42.