講演情報
[T1-P-20]有限変形のMohr-cyclideの構築―実用的な3次元有限変形解析に向けて―
*副島 祥吾1 (1. 公益財団法人 深田地質研究所)
キーワード:
有限変形、モール円、モールサイクライド、変形鉱物脈、領家帯
地質体における変形プロセスは本質的に3次元であり、テクトニクスの理解には岩石の3次元有限変形を定量的に評価することが不可欠である。ほとんどの変形解析手法は適切な2次元の観察面(VPP: Vorticity profile plane)について行われ、その面に垂直な方向での伸縮が無い「平面歪み」を仮定することが多い。しかし、斜め沈み込みに関連する変形場などでは、平面歪みの仮定は妥当でない可能性がある。そのような変形場ではVPPに垂直な方向(渦度ベクトル方向)への伸縮を伴う複雑な3次元変形を正確に評価する必要がある。本研究では、3次元有限変形を完全に表す新しい幾何学的表現『Mohr-cyclide』を導入し、野外データを用いた3次元有限変形解析を可能にする方法論を提案する。
Mohr-cyclideの導入: 2次元2階テンソルを幾何学的に表現するMohr円は変形を理解するうえで強力なツールである。有限変形のMohr円は、変形勾配テンソルFを図形化したもので、極座標で読むことで任意の物質線の「伸び」と「回転」を把握できる。野外データからは、変形鉱物脈が保持する伸縮履歴と方位の情報を利用することで、Mohr円を構築し変形パラメータを定量化できる。しかし、Mohr円は2次元解析を前提としており、平面歪みから逸脱する3次元変形を記述できない。この限界を克服するため、本研究ではDupin's cyclideという4次多項式曲面を応用し、3次元2階テンソルを完全に表現する「Mohr-cyclide」を有限変形解析に導入する。Coelho & Passchier (2008) は応力と流れのテンソルに対してMohr-cyclideを構築したが、本研究はこれを有限変形のテンソルへ拡張する。有限変形のMohr-cyclideは、VPPにおけるMohr円のパラメータと、渦度ベクトル方向の伸びによって一意に決定される。つまり、野外データからこれらのパラメータを決定できれば、完全な3次元有限変形を幾何学的に視覚化できる。
野外データへの適用と解析: 本手法を検証するため、愛知県新城市に分布する領家帯の変成堆積岩中の変形石英脈群を対象に解析を行った。この地域では、多様な方位を持つ脈が、短縮(S)、伸長(E)、短縮後伸長(S+E)、非伸縮(N)など異なる伸縮履歴を示している。解析は以下の手順で行った。1. 露頭での脈の形状と方位の測定, 2. 脈の方位をステレオネットにプロットしVPPを決定, 3. VPPでの2次元解析(Soejima & Wallis, 2022の解析プログラムを使用)による変形パラメータの制約, 4. 渦度方向の伸びの決定, 5. 制約したパラメータからMohr-cyclideを構築・解釈。
結果と考察: 解析の結果、新城地域の変形は、伸長率(Rf)が1.8-2.1、非共軸度(Wm)が-0.8 to -0.4であり、上盤NWずれの剪断センスを持つことが示された。また、約30 vol.%の体積減少(ΔA = -0.35 to -0.22)を伴うことが明らかになった。構築されたMohr-cyclideは、1つの収束点を持つtorus状の形態を示し、これは渦度ベクトルが中間主伸長軸に平行な変形場であることを視覚化する特徴である。このcyclideの表面上の点は、その点が示す方向の物質線の伸びと回転を表しており、当該地域における完全な3次元有限変形を幾何学的に表現している。さらに、得られた変形パラメータに基づく数値シミュレーションによって再現された脈の分布パターンは、実際の野外データと非常に高い整合性を示した。これは、本解析手法の妥当性を強く支持するものである。また、渦度方向にわずか5%の伸縮を与えたシミュレーションでは、脈の分布パターンが大きく変化することが確認された。この結果は、変形脈の方位パターンが渦度方向の伸縮に鋭敏に応答することを示唆しており、将来的にはこのパターンから渦度方向の伸びを直接推定できる可能性がある。
まとめ: 本研究では、野外で測定した変形鉱物脈群の3次元的な方位と伸縮履歴の情報から、有限変形のMohr-cyclideを構築する実用的な解析手法を提案した。このアプローチは、これまで解析が困難であった平面歪みでない変形を含む、複雑な地質プロセスの解明に大きく貢献することが期待される。
[文献]Coelho, S., & Passchier, C. (2008). Journal of Structural Geology, 30(5), 580-601; Soejima, S., & Wallis, S. R. (2022). JGR: Solid Earth, 127(6), e2022JB024197.
Mohr-cyclideの導入: 2次元2階テンソルを幾何学的に表現するMohr円は変形を理解するうえで強力なツールである。有限変形のMohr円は、変形勾配テンソルFを図形化したもので、極座標で読むことで任意の物質線の「伸び」と「回転」を把握できる。野外データからは、変形鉱物脈が保持する伸縮履歴と方位の情報を利用することで、Mohr円を構築し変形パラメータを定量化できる。しかし、Mohr円は2次元解析を前提としており、平面歪みから逸脱する3次元変形を記述できない。この限界を克服するため、本研究ではDupin's cyclideという4次多項式曲面を応用し、3次元2階テンソルを完全に表現する「Mohr-cyclide」を有限変形解析に導入する。Coelho & Passchier (2008) は応力と流れのテンソルに対してMohr-cyclideを構築したが、本研究はこれを有限変形のテンソルへ拡張する。有限変形のMohr-cyclideは、VPPにおけるMohr円のパラメータと、渦度ベクトル方向の伸びによって一意に決定される。つまり、野外データからこれらのパラメータを決定できれば、完全な3次元有限変形を幾何学的に視覚化できる。
野外データへの適用と解析: 本手法を検証するため、愛知県新城市に分布する領家帯の変成堆積岩中の変形石英脈群を対象に解析を行った。この地域では、多様な方位を持つ脈が、短縮(S)、伸長(E)、短縮後伸長(S+E)、非伸縮(N)など異なる伸縮履歴を示している。解析は以下の手順で行った。1. 露頭での脈の形状と方位の測定, 2. 脈の方位をステレオネットにプロットしVPPを決定, 3. VPPでの2次元解析(Soejima & Wallis, 2022の解析プログラムを使用)による変形パラメータの制約, 4. 渦度方向の伸びの決定, 5. 制約したパラメータからMohr-cyclideを構築・解釈。
結果と考察: 解析の結果、新城地域の変形は、伸長率(Rf)が1.8-2.1、非共軸度(Wm)が-0.8 to -0.4であり、上盤NWずれの剪断センスを持つことが示された。また、約30 vol.%の体積減少(ΔA = -0.35 to -0.22)を伴うことが明らかになった。構築されたMohr-cyclideは、1つの収束点を持つtorus状の形態を示し、これは渦度ベクトルが中間主伸長軸に平行な変形場であることを視覚化する特徴である。このcyclideの表面上の点は、その点が示す方向の物質線の伸びと回転を表しており、当該地域における完全な3次元有限変形を幾何学的に表現している。さらに、得られた変形パラメータに基づく数値シミュレーションによって再現された脈の分布パターンは、実際の野外データと非常に高い整合性を示した。これは、本解析手法の妥当性を強く支持するものである。また、渦度方向にわずか5%の伸縮を与えたシミュレーションでは、脈の分布パターンが大きく変化することが確認された。この結果は、変形脈の方位パターンが渦度方向の伸縮に鋭敏に応答することを示唆しており、将来的にはこのパターンから渦度方向の伸びを直接推定できる可能性がある。
まとめ: 本研究では、野外で測定した変形鉱物脈群の3次元的な方位と伸縮履歴の情報から、有限変形のMohr-cyclideを構築する実用的な解析手法を提案した。このアプローチは、これまで解析が困難であった平面歪みでない変形を含む、複雑な地質プロセスの解明に大きく貢献することが期待される。
[文献]Coelho, S., & Passchier, C. (2008). Journal of Structural Geology, 30(5), 580-601; Soejima, S., & Wallis, S. R. (2022). JGR: Solid Earth, 127(6), e2022JB024197.
