講演情報
[T1-P-24]関東山地・吉見丘陵に産する異なる変成履歴を示す変成岩類.
*足立 達朗1、岩崎 一郎2 (1. 九州大学、2. 早稲田大学)
キーワード:
吉見変成岩、グラニュライト、ルチル離溶組織、ジルコンU–Pb年代、中央構造線
関東山地北東縁部に位置する吉見丘陵には,角閃岩類を主要な構成岩相とし,近接する関東山地に分布する変成岩(例えば三波川結晶片岩など)と比較して明らかに高変成度の変成岩類が分布することで知られている(例えば,高木ほか1989,岩鉱).これらの変成岩は吉見変成岩と呼ばれており,ピーク変成条件の見積もりやK―Ar法を用いた年代測定は実施されている(高木ほか1989,同上)ものの,詳細な変成履歴の解析や,高度変成岩の年代測定法としてより適したU―Pb法による分析はなされていなかった.そこで本研究では変成履歴の解析とジルコンU―Pb SHRIMP年代を組み合わせて吉見変成岩の形成史を議論する.
吉見変成岩は,ザクロ石角閃岩を主要な岩相とし,その中にレンズ状,ブロック状のザクロ石単斜輝石岩,両輝石グラニュライトなどを含む.これら塩基性変成岩類には,ザクロ石や直方輝石中に多量の離溶ルチルが含まれている.このほかに塩基性変成岩類と断層で接する泥質片麻岩(ザクロ石-黒雲母-白雲母片麻岩)が存在する.このうち,塩基性変成岩類には(1)グラニュライト相の変成作用とそれに重複する(2)角閃岩相,(3)緑色片岩相の後退変成作用の痕跡が共通して認められる.これら塩基性変成岩類について各種地質温度圧力計を用いると (1)約800℃のピーク変成作用,(2) 約600 ℃,0.6―0.8 GPaの角閃岩相での加水後退変成作用の条件が見積もられる.一方,泥質片麻岩には複数の変成条件を示す組織は認められず,約600―700 ℃,0.7―1.5 GPaのピーク変成作用のみが検出される.
次にザクロ石角閃岩と泥質片麻岩から分離したジルコンのU―Pb SHRIMP年代を測定した.ザクロ石角閃岩から分離したジルコンからは(1)オシラトリー累帯構造,高いTh/U比を持つドメインが示す約120 Ma,(2)既存粒子を置換し,高いU濃度をもつドメインが示す95–66 Ma,(3)既存粒子を置換し,低いU,Th含有量をもつドメインが示す約68 Maという年代が得られた.これらはそれぞれ,(1)原岩形成,(2)グラニュライト相変成作用,(3)角閃岩相後退変成作用の時期であると考えられる.一方泥質片麻岩から分離したジルコンからは(1)オシラトリー累帯構造,高いTh/U比を持つドメインが示す約66 Ma,(2)(1)を取り囲み,低いTh/U比を持つドメインが示す約63 Maという年代が得られた.これらはそれぞれ,(1)砕屑粒子を供給した火成岩の形成(原岩となった泥質岩の堆積年代の上限),(2)変成作用の時期であると考えられる.
以上のことから,吉見丘陵では,変成履歴の異なる塩基性変成岩類と泥質片麻岩が接する地域であることが分かる.塩基性変成岩類は,西南日本の領家変成岩の高温部の変成条件(Okudaira et al., 2024,Elements)の,泥質変成岩は,関東山地および西南日本の三波川変成帯(別子ユニット)の変成条件(宮下,1998,地雑;Wallis and Okudaira, 2016,GSL)のそれぞれ高温延長部分に当たる条件に相当する.また両者の変成年代も西南日本に分布する領家変成岩(90–70Ma, Kawakami et al., 2022, Island Arc)および関東山地に分布する三波川変成岩(Miyashita and Itaya, 2002, Gondwana Res.)から報告されている年代とおおむね一致することを考えると,塩基性変成岩類は領家帯に,泥質変成岩は三波川帯に対比することができると解釈できる.もしこの対比が正しければ,吉見丘陵には沈み込み帯の上盤と下盤に相当する岩体の両方が含まれていることになり,中央構造線の東方延長が吉見丘陵を通過していることを示唆する(Adachi and Iwasaki, 2025, Island Arc).
吉見変成岩は,ザクロ石角閃岩を主要な岩相とし,その中にレンズ状,ブロック状のザクロ石単斜輝石岩,両輝石グラニュライトなどを含む.これら塩基性変成岩類には,ザクロ石や直方輝石中に多量の離溶ルチルが含まれている.このほかに塩基性変成岩類と断層で接する泥質片麻岩(ザクロ石-黒雲母-白雲母片麻岩)が存在する.このうち,塩基性変成岩類には(1)グラニュライト相の変成作用とそれに重複する(2)角閃岩相,(3)緑色片岩相の後退変成作用の痕跡が共通して認められる.これら塩基性変成岩類について各種地質温度圧力計を用いると (1)約800℃のピーク変成作用,(2) 約600 ℃,0.6―0.8 GPaの角閃岩相での加水後退変成作用の条件が見積もられる.一方,泥質片麻岩には複数の変成条件を示す組織は認められず,約600―700 ℃,0.7―1.5 GPaのピーク変成作用のみが検出される.
次にザクロ石角閃岩と泥質片麻岩から分離したジルコンのU―Pb SHRIMP年代を測定した.ザクロ石角閃岩から分離したジルコンからは(1)オシラトリー累帯構造,高いTh/U比を持つドメインが示す約120 Ma,(2)既存粒子を置換し,高いU濃度をもつドメインが示す95–66 Ma,(3)既存粒子を置換し,低いU,Th含有量をもつドメインが示す約68 Maという年代が得られた.これらはそれぞれ,(1)原岩形成,(2)グラニュライト相変成作用,(3)角閃岩相後退変成作用の時期であると考えられる.一方泥質片麻岩から分離したジルコンからは(1)オシラトリー累帯構造,高いTh/U比を持つドメインが示す約66 Ma,(2)(1)を取り囲み,低いTh/U比を持つドメインが示す約63 Maという年代が得られた.これらはそれぞれ,(1)砕屑粒子を供給した火成岩の形成(原岩となった泥質岩の堆積年代の上限),(2)変成作用の時期であると考えられる.
以上のことから,吉見丘陵では,変成履歴の異なる塩基性変成岩類と泥質片麻岩が接する地域であることが分かる.塩基性変成岩類は,西南日本の領家変成岩の高温部の変成条件(Okudaira et al., 2024,Elements)の,泥質変成岩は,関東山地および西南日本の三波川変成帯(別子ユニット)の変成条件(宮下,1998,地雑;Wallis and Okudaira, 2016,GSL)のそれぞれ高温延長部分に当たる条件に相当する.また両者の変成年代も西南日本に分布する領家変成岩(90–70Ma, Kawakami et al., 2022, Island Arc)および関東山地に分布する三波川変成岩(Miyashita and Itaya, 2002, Gondwana Res.)から報告されている年代とおおむね一致することを考えると,塩基性変成岩類は領家帯に,泥質変成岩は三波川帯に対比することができると解釈できる.もしこの対比が正しければ,吉見丘陵には沈み込み帯の上盤と下盤に相当する岩体の両方が含まれていることになり,中央構造線の東方延長が吉見丘陵を通過していることを示唆する(Adachi and Iwasaki, 2025, Island Arc).
