講演情報

[T1-P-26]北海道むかわ町穂別福山地域に分布する神居古潭変成岩の岩石記載と温度圧力条件の推定

*皆川 泰輝1、北野 一平2 (1. 北海道大学大学院理学院自然史科学専攻、2. 北海道大学総合博物館)
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キーワード:

変成岩、神居古潭変成帯、穂別福山地域

 神居古潭変成帯は北海道中央部に位置する高圧変成帯であり、白亜紀における海洋地殻の沈み込みと付加体成長によって形成された(例えばSakakibara and Ota, 1994)。Sakakibara and Ota (1994) によれば、神居古潭変成帯は変成岩の岩相・構造・変成相・産状の違いに基づいて6つのユニット (幌加内、ススナイ、美瑛、春志内、班渓幌内、静内) に区分され、温度圧力条件が圧力の高い順にHP1 (幌加内、静内)、HP2 (美瑛、春志内)、HI (班渓幌内、ススナイ) の3タイプに分類される。また、白雲母K–Ar年代およびAr–Ar年代の適用によって、変成年代はHP1が145–108 Ma、HP2は107–91 Ma、HIが84–50 Maと推定されている。つまり、各ユニットは異なる時代の海洋プレートの沈み込みにより形成されたことを示唆しており(例えば Sakakibara and Ota, 1994; Takeshita et al., 2023)、神居古潭変成帯の形成史を解読するうえでユニット区分は基盤的な指標となりうる。しかしながら、神居古潭変成帯は広域的にユニット区分されているものの、未だ詳細な岩石学的研究の報告例のない空白域がみとめられ、神居古潭変成帯の形成史全貌解明の障害の一つとなっている。 そこで本研究では、未だ詳しい解析がなされていない、むかわ町穂別福山地域に分布する神居古潭変成岩について岩石記載および温度圧力条件の推定・制約を行い、神居古潭変成帯でのユニット区分上の位置づけを考察することを目的とした。 研究地域では、先行研究によりほぼ南北に流れる鵡川を挟んで西側と東側で変成度の異なる変成岩が分布していることが報告されている(高橋・鈴木、1985;高橋ほか、2002) 。西側では、チャート、石灰岩を含む粘板岩、千枚岩、黒色片岩、緑色準片岩そして青色片岩など、一部高圧下で安定な変成岩が分布している。東側では、変砂岩、石灰岩をはさむ千枚岩質粘板岩、黒色片岩や千枚岩質粘板岩変砂岩をはさむ変砂岩など、原岩構造が保存されているような弱変成岩が分布している。これらの変成岩は、断層を介して蛇紋岩や礫岩、砂岩、泥岩および石炭からなる堆積岩類(蝦夷層群)と接している。本研究では西側と東側に分けて調査し、計30個の岩石のサンプリングおよび岩石記載を行った。選定した緑色片岩について、ラマン分光装置や走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて鉱物組み合わせを決定し、砂泥質片岩には炭質物ラマン温度計を適用し変成温度を見積もった。 SEM分析により西側の緑色片岩では、トレモライト+緑泥石+アルバイト+石英、東側の緑色片岩では、緑泥石+アルバイト+石英+アラゴナイトの鉱物組み合わせが確認された。これらの鉱物組み合わせと岩石成因論的グリッドを参照すると、西側の緑色片岩と東側の緑色片岩では圧力条件がそれぞれ約0.8 GPa以下と約0.55–0.85 GPa以下に制約される。そして、西側の泥質片岩と東側の砂質片岩に含まれる炭質物について顕微ラマン分光分析を行った。Kouketsu et al. (2014) のフローチャートに従って、得られたスペクトルデータからおおよその温度を推定し、Kaneki and Kouketsu (2022) のフィッティング手法に則り、温度を計算したところ、最高変成温度が西側の泥質片岩では258±28 ℃、東側の砂質片岩では271±34 ℃と求まった。以上の結果から西側と東側で温度条件に有意な差はなく、圧力条件は東側の方が高い傾向にあると考えられ、先行研究 (高橋・鈴木、1985;高橋ほか、2002) で報告されている傾向と異なる。これは、岩相や鉱物組合せだけでなく定量的に変成度の地域性を検討する重要性を意味すると考えられる。また、穂別福山地域の温度圧力条件を他のユニット (榊原ほか、2007) と比較すると、西側は春志内・美瑛ユニットと、東側は幌加内ユニットと一部重複する。一方で鉱物組み合わせを比較すると、穂別福山地域の緑色片岩には主に緑泥石とアルバイト、アクチノライトなどが含まれ、幌加内ユニットや美瑛・春志内ユニットの苦鉄質変成岩に含まれるローソン石やひすい輝石、アルカリ角閃石、パンペリー石といった高圧指標変成鉱物(Sakakibara and Ota, 1994) がみとめられない。以上から、推定された穂別福山地域西側と東側の温度圧力条件はそれぞれ上記のユニットよりもやや低圧条件で形成された可能性が示唆される。

参考文献
・Kaneki and Kouketsu (2022) Island Arc
・Kouketsu et al. (2014) Island Arc
・Sakakibara and Ota (1994) JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH
・Takeshita et al. (2023) Journal of METAMORPHIC GEOLOGY
・榊原ほか (2007) 地質学雑誌
・高橋・鈴木 (1985) 「5万分の1地質図幅 日高」産総研地質調査総合センター
・高橋ほか (2002) 「5万分の1地質図幅 紅葉山」産総研地質調査総合センター