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[T1-P-28]変成温度解析と炭素量分析に基づく,接触変成作用に伴う泥質岩中炭質物の減少プロセスの検討:赤石山地北部・三波川帯の例

*中澤 明子1、堀場 汐莉1,2、松林 直亮1、森 宏1、延原 香穂1、三村 耕一3、土肥 陽菜3、山岡 健4、常盤 哲也1 (1. 信州大学、2. 日本工営株式会社、3. 名古屋大学、4. 産業技術総合研究所,地質情報研究部門)
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キーワード:

接触変成作用、泥質岩、炭質物、全炭素量、石英チタン温度計、黒雲母チタン温度計

 貫入マグマの熱影響によって形成される接触変成岩は,マグマ活動に伴う温度構造改変や熱水循環を経験しており,地下深部で発生する火成活動・流体活動の手掛かりとなる.また,炭質物を豊富に含む泥質岩分布域での接触変成作用は,炭質物と熱水との反応によるガス発生源ともなり,地下深部における炭素循環や気候変動に関与する可能性がある(e.g., Pattison, 2006; Svensen et al., 2007; Svensen and Jamtveit, 2010; Agirrezabala et al., 2014).
本研究対象である赤石山地北部・三波川帯には,中新世に貫入した木舟深成岩体に伴って,明瞭な接触変成域が形成されている(e.g., Mori et al., 2025).この地域の泥質岩では,貫入境界近傍で顕著な炭質物の減少が確認されるとともに,炭質物ラマン分光分析による温度推定値が同一試料内で大きな不均質性を有すことから,炭質物減少に熱水活動に起因するガス化反応が関与した可能性が指摘されている(森ほか,2025).ただし,炭質物の定量的な含有量評価や接触変成域における温度構造の詳細は不明である.そこで本研究では,接触変成域に分布する泥質岩(原岩:泥質片岩)を対象に,炭素量分析とともに,接触変成作用時の温度条件をより正確に反映していると考えられる石英チタン温度計(Osborne et al., 2022)および黒雲母チタン温度計(Henry et al., 2005; Wu and Chen., 2015)による変成温度推定を実施し,ガス化プロセスの妥当性を検討した.
試料は,黒雲母が出現する接触変成域内(貫入境界から約3.5 km以内)の9地点,非接触変成域(貫入境界から約7 km)の1地点から採取した.接触変成域の主要構成鉱物は,黒雲母,石英,斜長石で,一部に菫青石,紅柱石,アルカリ長石,粗粒白雲母を含む.また,石英脈やリューコゾームの発達も認められる.片理は不明瞭であり,炭質物もほとんど認められない.一方,非接触変成域の主要構成鉱物は,石英,斜長石,白雲母,緑泥石,炭質物であり,黒雲母は認められない.また,片理の発達が顕著である.
分析により得られた全炭素量は,接触変成域が約0.01〜0.03 wt%,非接触変成域が約0.34 wt%であり,接触変成域と非接触変成域で明瞭な差が認められる.また,接触変成域内の全炭素量の空間変化は,貫入境界に近づくにつれて緩やかに減少する.接触変成域の温度解析では,石英チタン温度計では約480〜540 ℃,黒雲母チタン温度計では約500〜610 ℃であり,いずれの温度構造も,大局的には,貫入境界に近づくにつれて,緩やかな上昇を示す.
非接触変成域試料において炭質物ラマン温度計により推定された約310 ℃の変成温度(Mori et al., 2025)を考慮すると,貫入境界に近づくにつれての温度上昇が認められ,全炭素量の減少傾向と明瞭な逆相関を示す.また,石英チタン温度計では,流体・メルト起源のリューコゾームや鉱物脈を構成する石英についても,約500 ℃以上の温度条件が得られており,貫入境界近傍で高温流体が生じていたことが示唆される.これらは,貫入境界近傍での炭質物の著しい減少が,高温流体に伴うガス化反応に起因した可能性を支持するものであり,熱水循環を伴う泥質岩の接触変成域が,有力なガス発生源となり得ることを示す.