講演情報

[T1-P-30]糸魚川市山之坊地域における角閃石岩類の起源とコスモクロア輝石との成因関係

*岡田 花1、西澤 ひなた1、植田 勇人1 (1. 新潟大学)
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【ハイライト講演】  コスモクロア輝石はCrを主成分に含む希少な輝石である。2019年に新潟県山之坊露頭での産出が新たに記載されたが、コスモクロア輝石とその周囲をとりまく角閃石岩の成因関係が理解されていない。本研究では野外調査・岩石組織観察・鉱物化学分析を行い、曹長石、ヒスイ輝石、角閃石、クロム鉄鉱、蛇紋石が複数のステージによって反応し、最終的にクロム鉄鉱と拡散してきたNa2O成分が反応することでコスモクロア輝石が生成したことを明らかにした。※ハイライト講演とは...

キーワード:

角閃石、コスモクロア輝石、蛇紋岩、曹長岩


 コスモクロア輝石はメキシコのToluca隕鉄で初めて同定され,以降地球で形成されたものが発見されており,日本では蓮華変成帯の大佐山超苦鉄質岩体から発見されている.糸魚川市内では転石として存在が確認されていたが,近年,青海-蓮華帯の蛇紋岩メランジ内に位置する新潟県糸魚川市山之坊の露頭でコスモクロア輝石が発見された(鈴木・大木 2019).山之坊露頭では,曹長岩塊と蛇紋岩に隣接して角閃石を主体とする岩石(角閃石岩と呼ぶ)がみられる.コスモクロア輝石はこの角閃石岩中に散在し,しばしばクロム鉄鉱を核として放射状に成長している.Takasu et al. (2022)によればコスモクロア輝石を含有するNa角閃石は主にエケルマン閃石とされる.しかし,コスモクロア輝石と周囲をとりまく角閃石岩の成因関係は十分理解されていない.本研究では,山之坊露頭および周辺地域に産する角閃石岩類とコスモクロア輝石の形成過程を明らかにすることを研究目的とし,野外調査,SEM-EDSによる鉱物組織の観察と組成分析を行った.
 山之坊露頭の角閃石岩は,曹長岩と蛇紋岩の境界部に生じ、他の岩塊においても,角閃石岩は曹長岩やひすい輝石岩の周縁を皮のように覆ったり,脈として産する.角閃石岩中には,粗粒なCa角閃石(type1:透角閃石~パーガス閃石)のポーフィロクラストと,細粒なNa角閃石(type2:藍閃石~エケルマン閃石)からなるネオブラストがあり,type1角閃石の周縁部はtype2と同様のNa角閃石に組成改変されている様子が観察できる.山之坊露頭の角閃石岩中では,type1角閃石中にクロム鉄鉱が包有されており,type1の角閃石中のクロム鉄鉱の周辺にコスモクロア輝石が生じている場合は,包有するtype1の角閃石との接触部がtype2の組成に改変され,type2の角閃石中にコスモクロア輝石が生じている場合は,両者は直に接する.以上の観察結果から,次の形成ステージに区分される.
ステージ1: 曹長岩やヒスイ輝石の周縁に,type 1のCa角閃石が形成される.Ca角閃石は一部でクロム鉄鉱を含有する.
ステージ2: type 1のCa角閃石を置換してtype 2角閃石が生じる.この際に,クロム鉄鉱を核としてコスモクロア輝石が成長する. 
 ステージ1では,曹長岩から蛇紋岩側へ拡散するCaOとSiO2と蛇紋岩から曹長岩側へ拡散する蛇紋石成分が出会う境界部にCa角閃石が生じた. 
 CaO +SiO2 + 蛇紋石 → 透角閃石+H2O
ステージ2では,曹長岩から蛇紋岩側へ拡散する曹長石成分と蛇紋岩から曹長岩側へ拡散する蛇紋石成分の会合部にNa角閃石が生じた. 
 曹長石 + 蛇紋石 → 藍閃石 + H2O
この際,クロム鉄鉱と拡散してきたNa2Oが反応してコスモクロア輝石を生じたと考えられる. 

引用文献
・鈴木保光・大木良弥,2019,地学研究
・Takasu Akira,Suzuki Yasumitsu,Ohki Yoshiya,Ogawara Takahiko and Seto(Sakamoto) Shizue,2022,Earth Science