講演情報

[T1-P-31]岩石中で著しく粗大化した単結晶の形成メカニズムとシミュレーション:高島マントルゼノリスを例に

*古川 旦1、辻森 樹1 (1. 東北大学 理学研究科 地学専攻)
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【ハイライト講演】 岩石組織は多くの場合非平衡であり、平衡状態に向かう途中であるためその岩石が保持された状態の継続時間を見積もれる可能性がある。本研究はピン止め効果のような粒成長を阻止する現象があっても時間情報を抽出可能である異常粒成長に着目している。このような組織を含んでいる佐賀県高島産のダナイトゼノリスを例にとり、組織観察とモンテカルロシミュレーションを組み合わせて異常粒成長発生の妥当性を検証し、時間情報抽出の可能性を探っている。※ハイライト講演とは...

キーワード:

異常粒成長、マントルゼノリス、ピン止め効果、モンテカルロシミュレーション


 岩石の多くは本質的に非平衡組織であるため、その組織自体から系が平衡に向かって緩和した時間スケールや経過時間を読み取れる可能性がある。たとえば結晶粒径は時間とともに大きくなるため、粒成長速度を実験的なアニーリングデータと比較すれば、岩石が経験したアニーリング時間を推定できる。しかし天然試料では、ほとんどの場合、不純物や副次相が存在するうえにアニーリング期間が極めて長いため、結晶粒界は不純物によってピン止めされ、粒成長が停止してしまう。本研究では、そのような系においても時間情報を抽出できる可能性のある現象として、異常粒成長(abnormal grain growth:AGG)に着目し、その発生機構を検討する。AGG とは、多結晶体の中で特定の結晶が周囲をのみ込むように巨大化する現象である。この現象は金属やセラミックスなどの無機材料研究でよく知られており、多結晶体の強度低下を招く有害事象として制御研究が進められてきた。提案されている駆動機構には、不純物濃度、粒界エネルギーの異方性、ひずみエネルギー密度の不均一性、初期粒径の優位性、粒界移動能の空間的不均質などがある。岩石では副次相によるピン止めが一般的であるため、本研究ではピン止め効果の支配が比較的単純な系を選び、AGG の発生要因を解析した。本来なら静的なピン止め粒子によって安定化されているはずの多結晶体で AGG が生じるのは不可解であり、副次相の溶融・熱摂動・弱い変形などによってピン止めが一時的に解除されることが発端になると考えられる(Holm et al., 2015)。
ケーススタディとして、佐賀県高島産ダナイトゼノリスに含まれるかんらん石巨晶を取り上げる。ダナイトゼノリスは、かんらん石結晶中にクロムスピネルが均一に分布する二相系で、かんらん石三重点にクロムスピネルが配置する典型的なピン止め組織をもつ。ところが高島産ゼノリスにはしばしば 1 cm 以上のかんらん石単結晶が含まれており、これはクロムスピネルによるピン止めが部分的に失われ、特定の粒子が急速に成長した結果と解釈できる。この発生は確率的で、アニーリング時間が長いほど頻度が増す可能性がある。地球科学分野では AGG を対象とした研究例が少なく、どの組織パラメータが系を特徴づけ、どのような時間情報を得られるのかは明確でない。一方、材料科学ではゼナー・パラメータと平均粒径の関係などから AGG 発生条件を評価する研究が数多く報告されている(例:Humphreys, 1997)。本研究ではその枠組みを岩石組織に適用し,組織観察とモンテカルロシミュレーションを組み合わせて AGG 発生の妥当性を検証し、時間情報抽出の可能性を探る。


引用文献
Holm, E. A., Hoffmann, T. D., Rollett, A. D., & Roberts, C. G. (2015, July). Particle-assisted abnormal grain growth. In IOP Conference Series: Materials Science and Engineering (Vol. 89, No. 1, p. 012005). IOP Publishing.
Humphreys, F. J. (1997). A unified theory of recovery, recrystallization and grain growth, based on the stability and growth of cellular microstructures—I. The basic model. Acta materialia, 45(10), 4231-4240.