講演情報
[T3-P-2]地中に埋没したテクノ化石に記録されている続成過程と周囲環境への影響:ポリ塩化ビニル製玩具を例に
*谷川 亘1,3、多田井 修2、山本 哲也1、野口 拓郎3、中島 亮太1、山口 飛鳥4、松崎 琢也3 (1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構、2. マリン・ワーク・ジャパン、3. 高知大学、4. 東京大学)
キーワード:
テクノ化石、人新世、プラスチック、ポリ塩化ビニル、可塑剤
現代人の消費活動を象徴するプラスチック製品は、百年以上の耐久性を持つことから堆積年代の推定につながるテクノ化石として期待が持たれている。一方、堆積物中への長期間の埋没にともない、物理化学的な特性が変化することが考えられる。その変化過程を評価することで、プラスチック製品の原型を推定することはもちろんのこと、土壌中に埋没していた期間や土壌の特性、さらにプラスチックが周囲環境へ及ぼす影響を評価することができる。そこで本研究では考古学的な近世遺構(桧原宿跡、福島県耶麻郡北塩原村)の陸上発掘調査の過程で出土したポリ塩化ビニル製(PVC)のプラスチック製品を対象に調査を実施した(谷川ほか,2024)。
出土した遺物は形状の特徴からポリ塩化ビニル樹脂製の「キンケシ」と呼ばれるカプセルトイと判断した。しかし、原型と比較して大きさが20%ほど小さく、密度が大きく、弾性波速度が速く、弾力性が失われていた。また、非破壊による蛍光X線分析(XRF)の結果、原型に対してカルシウム濃度が大きく、塩素、鉛、クロム、ケイ素濃度が低いことが確認できた。原型のカプセルトイは、ポリ塩化ビニル(基材)、フタル酸エステル(DEHP、可塑剤)および炭酸カルシウム(充填剤)から構成されていることから、密度の減少はフタル酸エステル、もしくは炭酸カルシウムの蒸発・溶脱が考えられる。そこで、60度から120度までの加熱実験、および室温下での有機溶剤(パラフィン)を用いた含浸実験を実施した。その結果、いずれの実験も遺物と同じ程度まで質量低下と密度増加が再現できた。さらに、硝酸鉛への含浸実験を実施した結果、溶媒中の鉛濃度がわずかに減少し、イオン交換反応によるものと考えられる。
発掘された遺物は60度以上の高温環境や有機溶剤に長期間さらされた可能性が低い。そのため、可塑剤の溶脱と炭酸カルシウムの分解は主に土壌中の間隙流体や微生物との反応によるものだと考えられる。また、発掘現場は鉱山開発跡地から比較的近い距離にあることから、土壌中の鉛とクロムが遺物中のカルシウムイオンと交換反応により、鉛とクロムが遺物中に取り込まれたことが考えられる。現在内分泌かく乱物質として疑われているDEHPは、使用が規制される2000年前後までプラスチック製品の主要は材料として日常的に利用されてきた(Nagorka et al., 2022; Mariana, et al., 2023)。それが地中で分解して地下水などを通して拡散していくことによる環境への影響を懸念する必要があることを、本研究結果は示唆している。さらに、PVCに含まれる炭酸カルシウムが重金属を吸着・分離し、土壌を浄化しうる(投棄されたゴミが役に立つ)という皮肉な状況も伝えている。
図1.(左)発掘調査で出土した遺物(右)遺物と類似した形状のポリ塩化ビニル製玩具
【文献】
谷川ほか(2024)Isotope News, 793
Nagorka et al. (2022) Environmental Science Europe, 34
Mariana et al. (2023) Journal of Hazardous Materials, 457
出土した遺物は形状の特徴からポリ塩化ビニル樹脂製の「キンケシ」と呼ばれるカプセルトイと判断した。しかし、原型と比較して大きさが20%ほど小さく、密度が大きく、弾性波速度が速く、弾力性が失われていた。また、非破壊による蛍光X線分析(XRF)の結果、原型に対してカルシウム濃度が大きく、塩素、鉛、クロム、ケイ素濃度が低いことが確認できた。原型のカプセルトイは、ポリ塩化ビニル(基材)、フタル酸エステル(DEHP、可塑剤)および炭酸カルシウム(充填剤)から構成されていることから、密度の減少はフタル酸エステル、もしくは炭酸カルシウムの蒸発・溶脱が考えられる。そこで、60度から120度までの加熱実験、および室温下での有機溶剤(パラフィン)を用いた含浸実験を実施した。その結果、いずれの実験も遺物と同じ程度まで質量低下と密度増加が再現できた。さらに、硝酸鉛への含浸実験を実施した結果、溶媒中の鉛濃度がわずかに減少し、イオン交換反応によるものと考えられる。
発掘された遺物は60度以上の高温環境や有機溶剤に長期間さらされた可能性が低い。そのため、可塑剤の溶脱と炭酸カルシウムの分解は主に土壌中の間隙流体や微生物との反応によるものだと考えられる。また、発掘現場は鉱山開発跡地から比較的近い距離にあることから、土壌中の鉛とクロムが遺物中のカルシウムイオンと交換反応により、鉛とクロムが遺物中に取り込まれたことが考えられる。現在内分泌かく乱物質として疑われているDEHPは、使用が規制される2000年前後までプラスチック製品の主要は材料として日常的に利用されてきた(Nagorka et al., 2022; Mariana, et al., 2023)。それが地中で分解して地下水などを通して拡散していくことによる環境への影響を懸念する必要があることを、本研究結果は示唆している。さらに、PVCに含まれる炭酸カルシウムが重金属を吸着・分離し、土壌を浄化しうる(投棄されたゴミが役に立つ)という皮肉な状況も伝えている。
図1.(左)発掘調査で出土した遺物(右)遺物と類似した形状のポリ塩化ビニル製玩具
【文献】
谷川ほか(2024)Isotope News, 793
Nagorka et al. (2022) Environmental Science Europe, 34
Mariana et al. (2023) Journal of Hazardous Materials, 457

