講演情報
[T3-P-3]アプリ「ポケット学芸員」を用いた龍河洞の新しい解説書
*公文 富士夫1 (1. 高知大学海洋コア国際研究所)
キーワード:
龍河洞、鍾乳洞、ポケット学芸員、石灰岩、鍾乳石
龍河洞は高知県香美市にある鍾乳洞で,三畳紀の石灰岩の中に形成されている.多様性が高くて規模の大きいことから,日本三大鍾乳洞の一つに数えられたこともある.1934年に国の天然記念物に指定されて以降長い時間がたつものの,鍾乳洞の学術的な調査や研究は十分とは言えない.日本の多くの鍾乳洞でも同様にその成因に関わる学術的研究は乏しいようである.信州大学を定年退職後,郷里に帰って地元にある龍河洞の調査を始めたところ,いろいろな「新しい発見」があった.学術的な解説の必要性を痛感し,龍河洞の指定管理者「(株)龍河洞みらい」と協力して,アプリ「ポケット学芸員」を利用した学術的解説書を作成した.英語版と簡体中文版もできている.
「ポケット学芸員」は,博物館などでの展示物に付した解説文をスマートフォンで見ることができる無料のアプリである.全国の多くの博物館や美術館で導入されているが,龍河洞のような観光施設での利用は初めてである.スマホで検索し,このアプリをダウンロードすると全国の施設の展示品の解説を見る(聴く)ことができる.龍河洞は中国・四国のグループで,スクロール画面の最後の行に龍河洞がある.龍河洞の資料をダウンロードしておけば,Wi-Fi環境がなくても閲覧できる.なお,閲覧データは24時間後に自動的に消去される.
「ポケット学芸員」をもちいた解説書は鍾乳洞という照明環境が悪い(ほとんどない)中でも閲覧できることが大きな利点である.また,日本語の音声ガイドもついているので,鍾乳石を見ながら解説を聞くこともできる.龍河洞のガイドは2025年4月1日より公開しており,スマホを見ながらじっくりと見学する観光客の姿が多くなっている.アンケートの回答に基づくと,龍河洞の学術的な理解の一助になっていることが確認される.
今回の学会発表では,鍾乳洞の形成過程についても学術的知見として報告する.ガイド番号 102番から106番の解説に対応している.
鍾乳洞の形成過程:
龍河洞や近隣の鍾乳洞を調査したところ,以下のような共通の特徴が認められた.
・ 鍾乳洞の多くはほぼ水平に伸びており,龍河洞ではそれが数段重なっている.
・ 地底の峡谷となった深い鍾乳洞にはポットホールなどの侵食地形が発達する.
・茶褐色の礫質堆積物(の痕跡)がほぼ水平に残されていることがある.
・形成された鍾乳石は標高ごとに異なる特徴があり,時代とともに地下水環境が大きく変化してきたことを示唆する.
これらの特徴は次のような形成過程を想定すると妥当な説明ができる.
1)最初の洞窟は帯水層の上面(平均的地下水面)の近傍で,地下水面と平行に形成される.洞窟は微小な割れ目から始まり,徐々に太くなり,かつ連結してネットワークをつくる.
2) 長期間安定していた地下水面が低下すると,洞窟は空隙帯に位置することになる.空隙帯の洞窟では洞窟の床に地下水が集まり,下刻が起きる.下刻が進行すると地底の峡谷になる.
3) 空隙帯の空気に満たされた洞窟内では,滴下水やゆっくり流れる地下水から炭酸カルシウムが沈殿して,各種の鍾乳石が形成される.
4) 地殻変動や長期的気候変動によって地下水面が大きく変化する結果,上記のようなプロセスが繰り返され,数段の水平な洞窟が重なる複雑な鍾乳洞が形成される.
上記の説明は鍾乳洞形成過程の骨格を示したもので,実際にはもっと多様なプロセスが介在すると考えられる.「鍾乳洞は石灰岩の地層に雨水が浸透し,石灰岩を溶かすことで形成される洞窟である.長い時間をかけて鍾乳石や石筍などの特有の堆積物が造られる.」といったこれまでの説明(例えばhttps://spaceshipearth.jp/limestone-cave/)では,地史的視点が欠けていて不十分である.なお,年代測定によって経時的変遷の裏付けを試みているが,まだ適切な測定に成功していない.
「ポケット学芸員」は,博物館などでの展示物に付した解説文をスマートフォンで見ることができる無料のアプリである.全国の多くの博物館や美術館で導入されているが,龍河洞のような観光施設での利用は初めてである.スマホで検索し,このアプリをダウンロードすると全国の施設の展示品の解説を見る(聴く)ことができる.龍河洞は中国・四国のグループで,スクロール画面の最後の行に龍河洞がある.龍河洞の資料をダウンロードしておけば,Wi-Fi環境がなくても閲覧できる.なお,閲覧データは24時間後に自動的に消去される.
「ポケット学芸員」をもちいた解説書は鍾乳洞という照明環境が悪い(ほとんどない)中でも閲覧できることが大きな利点である.また,日本語の音声ガイドもついているので,鍾乳石を見ながら解説を聞くこともできる.龍河洞のガイドは2025年4月1日より公開しており,スマホを見ながらじっくりと見学する観光客の姿が多くなっている.アンケートの回答に基づくと,龍河洞の学術的な理解の一助になっていることが確認される.
今回の学会発表では,鍾乳洞の形成過程についても学術的知見として報告する.ガイド番号 102番から106番の解説に対応している.
鍾乳洞の形成過程:
龍河洞や近隣の鍾乳洞を調査したところ,以下のような共通の特徴が認められた.
・ 鍾乳洞の多くはほぼ水平に伸びており,龍河洞ではそれが数段重なっている.
・ 地底の峡谷となった深い鍾乳洞にはポットホールなどの侵食地形が発達する.
・茶褐色の礫質堆積物(の痕跡)がほぼ水平に残されていることがある.
・形成された鍾乳石は標高ごとに異なる特徴があり,時代とともに地下水環境が大きく変化してきたことを示唆する.
これらの特徴は次のような形成過程を想定すると妥当な説明ができる.
1)最初の洞窟は帯水層の上面(平均的地下水面)の近傍で,地下水面と平行に形成される.洞窟は微小な割れ目から始まり,徐々に太くなり,かつ連結してネットワークをつくる.
2) 長期間安定していた地下水面が低下すると,洞窟は空隙帯に位置することになる.空隙帯の洞窟では洞窟の床に地下水が集まり,下刻が起きる.下刻が進行すると地底の峡谷になる.
3) 空隙帯の空気に満たされた洞窟内では,滴下水やゆっくり流れる地下水から炭酸カルシウムが沈殿して,各種の鍾乳石が形成される.
4) 地殻変動や長期的気候変動によって地下水面が大きく変化する結果,上記のようなプロセスが繰り返され,数段の水平な洞窟が重なる複雑な鍾乳洞が形成される.
上記の説明は鍾乳洞形成過程の骨格を示したもので,実際にはもっと多様なプロセスが介在すると考えられる.「鍾乳洞は石灰岩の地層に雨水が浸透し,石灰岩を溶かすことで形成される洞窟である.長い時間をかけて鍾乳石や石筍などの特有の堆積物が造られる.」といったこれまでの説明(例えばhttps://spaceshipearth.jp/limestone-cave/)では,地史的視点が欠けていて不十分である.なお,年代測定によって経時的変遷の裏付けを試みているが,まだ適切な測定に成功していない.
