講演情報
[T3-P-4]中四国-近畿の弥生時代の遺跡に分布する青色片岩製磨製石器(片刃石斧)の原産地推定:地質学的なアプローチ(経過報告)
*青矢 睦月1、中村 豊2、遠藤 俊祐3、端野 晋平4、山岡 邦章5 (1. 徳島大学大学院社会産業理工学研究部、2. 立命館大学文学部、3. 島根大学地球科学科、4. 徳島大学埋蔵文化財調査室、5. 岸和田市教育委員会)
キーワード:
青色片岩製磨製石器、原産地推定、三波川帯、高越・眉山地域、ガーネット、Na角閃石
青色片岩製磨製石器(主に柱状片刃石斧)は弥生時代中期(紀元前200〜1年頃)の中四国東部から近畿にかけての遺跡に出土する。その分布範囲,地域別の産出頻度といった考古学的な状況証拠から,原産地として徳島県東部三波川帯の高越・眉山地域が有力視されているが(中村2019),自然科学的な証拠はほとんど得られていない。青色片岩,すなわちNa角閃石を多く含む概ね苦鉄質の岩石は低温高圧型変成作用を特徴付ける岩石であり,その西南日本における産出地は中国地方では蓮華帯や周防帯,また四国-近畿地方では三波川帯(愛媛・高知・徳島から和歌山県へと広域分布)に求められるだろう。一方,考古学者の側には,仮に三波川帯産が確定しても,岩石学の観点でその広大な帯状分布の中から青色片岩製石器の原産地をスポット的に絞り込むのは困難だろうという懸念があった.しかし近年,三波川帯の中でも高越(Matsumoto et al., 2003など)と眉山(Kabir & Takasu, 2016)には青色片岩が突出して多産することが注目され,日本地質学会は2016年に「徳島県の石(岩石)」として青色片岩を指定した.
本研究では,野外調査と多数の薄片観察に基づき,三波川帯の内部において青色片岩の産出が緑色片岩や緑れん石角閃岩に比して稀であり,高越や眉山(苦鉄質岩の50%以上が青色片岩)は帯内部での青色片岩の局在地域とみなせることを地質図と共に示す.同時に,両地域がガーネットの安定なエクロジャイト相での変成作用を経験したエクロジャイトユニット(EU;青矢・遠藤2017)を擁する点に注目する.他地域と異なり,高越や眉山の青色片岩はしばしばガーネットを含む.特に高越では苦鉄質岩320試料の53%にあたる171試料にガーネットが含まれる.眉山ではこのガーネット含有率は13%程度とやや低い.これを踏まえ,主に徳島市眉山の遺跡(庄・蔵本,南庄,三谷)から出土した約100点の青色片岩製磨製石斧の資料(未製品と原石も含む)に対して携帯型マイクロスコープによる非破壊表面観察を行った結果,約40%の石器に細粒ガーネット(径50〜400μm)が認められた.目視とは言え,この高確率は石器の大部分が高越エクロジャイトユニット産であることを示唆する.
原産地推定のためのより定量的な指標を探すため,p-XRFによる全岩化学組成分析,及びEPMA(EDS,WDS)による鉱物化学組成分析を進めている.特にEPMA分析のため今回,青色片岩製石斧と共に出土する加工前の原石資料6点(徳島市産5点,大阪府岸和田市産1点)の小部分を切り出し,岩石薄片を作成した.EPMA分析では,三波川帯の低圧部(緑泥石帯〜ガーネット帯)と高越・眉山EUの間で,ピーク変成圧力に6 kbar以上の大きな差があることから,青色片岩中のNa角閃石の組成には三波川帯内部でも差が出るものと予想し,高越・眉山に加え,愛媛県,高知県,和歌山県から採取した複数試料についても分析を行った(図).その結果,地域を問わず,緑泥石帯のNa角閃石は6配位Alに乏しいマグネシオリーベック閃石よりの組成範囲を示し,高越・眉山と比較的明瞭に区別できたが,ガーネット帯の一部の試料は高越・眉山とよく似た藍閃石よりの組成を持つことがわかった.ただし,Fe-Mg比も併せて考慮すると,狭いながらも高越青色片岩に固有の組成範囲が存在する(図).そして,石器原石のうち大阪産のHT103を含めた2資料のNa角閃石がこの組成範囲にプロットされた.これらの試料は細粒ガーネットも含むことから,高越産であることが強く支持される.つまり,弥生時代中期に高越産の青色片岩,少なくとも1資料が海を越えて大阪へと流通していたことが岩石学的データからも支持された.
謝辞:高越の薄片の大部分は牟田清文氏と松本昌俊氏の修士論文を通じて作成されたものであり,指導教員(現所有者)である東京大学のSimon Wallis教授に貸与して頂いた.徳島大学の安間了教授には同大学設置のSEM-EDSの使用をご快諾頂いた.以上の方々に厚くお礼申し上げる.
<引用文献>
青矢睦月・遠藤俊祐(2017)地質学雑誌123,677-698.
Kabir M. F. & Takasu, A. (2016) Journal of Metamorphic Geology 34, 893-916.
Matsumoto M. , Wallis S. et al. (2003) Journal of Metamorphic Geology 21, 363-376.
中村 豊(2019)徳島大学総合科学部紀要(人間社会文化研究)27, 1-22.
本研究では,野外調査と多数の薄片観察に基づき,三波川帯の内部において青色片岩の産出が緑色片岩や緑れん石角閃岩に比して稀であり,高越や眉山(苦鉄質岩の50%以上が青色片岩)は帯内部での青色片岩の局在地域とみなせることを地質図と共に示す.同時に,両地域がガーネットの安定なエクロジャイト相での変成作用を経験したエクロジャイトユニット(EU;青矢・遠藤2017)を擁する点に注目する.他地域と異なり,高越や眉山の青色片岩はしばしばガーネットを含む.特に高越では苦鉄質岩320試料の53%にあたる171試料にガーネットが含まれる.眉山ではこのガーネット含有率は13%程度とやや低い.これを踏まえ,主に徳島市眉山の遺跡(庄・蔵本,南庄,三谷)から出土した約100点の青色片岩製磨製石斧の資料(未製品と原石も含む)に対して携帯型マイクロスコープによる非破壊表面観察を行った結果,約40%の石器に細粒ガーネット(径50〜400μm)が認められた.目視とは言え,この高確率は石器の大部分が高越エクロジャイトユニット産であることを示唆する.
原産地推定のためのより定量的な指標を探すため,p-XRFによる全岩化学組成分析,及びEPMA(EDS,WDS)による鉱物化学組成分析を進めている.特にEPMA分析のため今回,青色片岩製石斧と共に出土する加工前の原石資料6点(徳島市産5点,大阪府岸和田市産1点)の小部分を切り出し,岩石薄片を作成した.EPMA分析では,三波川帯の低圧部(緑泥石帯〜ガーネット帯)と高越・眉山EUの間で,ピーク変成圧力に6 kbar以上の大きな差があることから,青色片岩中のNa角閃石の組成には三波川帯内部でも差が出るものと予想し,高越・眉山に加え,愛媛県,高知県,和歌山県から採取した複数試料についても分析を行った(図).その結果,地域を問わず,緑泥石帯のNa角閃石は6配位Alに乏しいマグネシオリーベック閃石よりの組成範囲を示し,高越・眉山と比較的明瞭に区別できたが,ガーネット帯の一部の試料は高越・眉山とよく似た藍閃石よりの組成を持つことがわかった.ただし,Fe-Mg比も併せて考慮すると,狭いながらも高越青色片岩に固有の組成範囲が存在する(図).そして,石器原石のうち大阪産のHT103を含めた2資料のNa角閃石がこの組成範囲にプロットされた.これらの試料は細粒ガーネットも含むことから,高越産であることが強く支持される.つまり,弥生時代中期に高越産の青色片岩,少なくとも1資料が海を越えて大阪へと流通していたことが岩石学的データからも支持された.
謝辞:高越の薄片の大部分は牟田清文氏と松本昌俊氏の修士論文を通じて作成されたものであり,指導教員(現所有者)である東京大学のSimon Wallis教授に貸与して頂いた.徳島大学の安間了教授には同大学設置のSEM-EDSの使用をご快諾頂いた.以上の方々に厚くお礼申し上げる.
<引用文献>
青矢睦月・遠藤俊祐(2017)地質学雑誌123,677-698.
Kabir M. F. & Takasu, A. (2016) Journal of Metamorphic Geology 34, 893-916.
Matsumoto M. , Wallis S. et al. (2003) Journal of Metamorphic Geology 21, 363-376.
中村 豊(2019)徳島大学総合科学部紀要(人間社会文化研究)27, 1-22.

