講演情報

[T3-P-6]山形県高畠町の日向洞窟西地区の礫の岩石種

*大友 幸子1、鈴木 大輔2 (1. 山形大学、2. 高畠町教育委員会)
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キーワード:

日向洞窟遺跡、高畠町、礫、岩石種

 1.はじめに
日向洞窟は米沢盆地北東縁に位置する(図1A,B).文化遺産オンライン[URL1]によると,その周辺には洞窟遺跡群が密集して分布し,日向洞窟は通称「立岩」(標高230m)の麓の南側に開口する.「立岩」は塊状の凝灰岩からなり,日向洞窟は塩類風化で形成された比較的大きなタフォニであり,図1Cのように日向洞窟の上には縦の風化溝(フルート)が顕著に見られる(遠藤,2010). 高畠町教育委員会(2025)によると,日向洞窟遺跡西地区には多くの剥片、礫が残されており,基本層序は第I〜VII層に区分されている.VI層から出土した礫石器及び自然礫は355点で,そのうち有溝砥石,砥石等の礫石器が97点(31%),礫258点(69%)である. VI層は出土遺物の特徴から縄文草創期に比定されている.今回,これらの礫を観察して岩石種の鑑定を行った.縄文草創期の日向洞窟の住人達はどのような範囲から礫を集めてきたのだろうか?
2. VI層から出土した礫石器及び自然礫の岩石種
高畠町教育委員会(2025)によると,礫石器及び自然礫の岩石種は以下のようにまとめられている.有溝砥石はすべて凝灰岩,砥石は泥岩が主体で凝灰岩,砂岩を伴う.敲岩は,砂岩,デイサイトを主体とし,流紋岩,安山岩,花崗岩,閃緑岩を伴う.凹岩は砂岩,デイサイト,安山岩を主体とし,凝灰岩,泥岩,流紋岩,花崗岩を伴う.磨石はデイサイト,花崗岩,泥岩 安山岩.石皿は,凝灰岩と砂岩.以上の礫石器は点数が少ないながらもいろいろな岩種が使われている.最も多い自然礫は,泥岩,流紋岩,デイサイト,安山岩を主体とし,砂岩,凝灰岩,片麻岩,閃緑岩,メノウ,スコリアなどを伴う.高畠町教育委員会(2025)では,近隣の河川から搬入したと推定されている.
3. 奥羽山脈の地質と礫石器及び自然礫の由来
日向洞窟遺跡から2〜3kmには奥羽山地から屋代川が流下しているが,現在の扇状地や沖積地には河床礫はあまり見られない.一方屋代川上流やその支流には,奥羽山脈を構成する岩石が露出し,河床礫も豊富である.山形応用地質研究会(2016)による屋代川上流部の地質は下位から以下のように重なる.白亜紀花崗岩類は,主に弱片状の花崗閃緑岩で,一部閃緑岩相や包有岩として片麻岩を含む.中新世前期の稲子峠層の主部は安山岩溶岩と火砕岩からなり,礫岩,砂岩をはさみ,上部に泥岩を伴う,中新世中期の大沢層は,下位より砂岩・泥岩互層,軽石質凝灰角礫岩部層,火山礫凝灰岩部層,凝灰質砂岩部層からなり,随所に砂岩泥岩,流紋岩・デイサイトを挟む.中新世後期の赤湯層下部相は塊状の凝灰岩からなり,下位の地層を構成する岩石を火砕流の異質捕獲岩として含んでいる. 日向洞窟の住人達は屋代川上流部まで,石器の材料の採取に行っただけでなく,いろいろな岩石を持ち帰ってきたようである.また洞窟の周辺には赤湯層下部層が広く分布しており,上流の河床礫だけでなく,赤湯層の凝灰岩中の異質捕獲岩の採集も可能であったと推定される,
文献
遠藤真哉(2010)4-2 高畠・赤湯 赤湯層(凝灰角礫岩)の風化(C地点,D地点).山形県地学のガイド,コロナ社,219-223.
高畠町教委員会(2025)日向洞窟遺跡西地区発掘調査報告書. 第1分冊本編,高畠町,227p+31図版.
山形応用地質研究会(2016)山形県地質図(10万分の1)説明書.山形大学出版会, 61p.
[URL1]文化庁,文化遺産オンライン,日向洞窟,https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/204773