講演情報

[T10-P-1]関東山地西端部の四万十帯白亜紀付加体,「高登谷山層」の再検討

*山岡 健1、村上 大知2、青柳 朋希2、常盤 哲也2、森 宏2、志村 侑亮1、井上 梓2、淺原 良浩3、原 英俊1、鎌田 祥仁4 (1. 産業技術総合研究所、2. 信州大学、3. 名古屋大学、4. 筑波大学)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

白亜紀、四万十帯、ジルコンU–Pb年代、炭質物ラマン温度計、イグニンブライトフレアアップ

 <はじめに>
関東山地西端部には,前田(1953)によって増富層群として定義された四万十帯白亜紀付加体の狭長な分布が認められており,岩相分布,地質構造,放散虫化石年代の検討から,北から南に向かって高登谷山層,御門層,斑山層に区分されている(例えば,鎌田ほか,1991).しかし,増富層群は一般に第四紀火山の噴出物によって露出が限られ,保存状態の良い示準化石が少ないことなどから,他の地域に比べて地質構造発達史の理解は進んでいない.地質調査総合センターでは現在5万分の1地質図幅「金峰山」の整備を進めており,「高登谷山層」について新たな知見を得たので報告する.ここではまず,岩相分布,地質構造,既報の放散虫化石産出地点の空間的関係の再検討から構造層序単元を再区分した.また,付加体の熱構造を把握するために炭質物ラマン分光分析を行なった.さらに,陸源砕屑岩の堆積年代の推定と後背地との関連を明らかにするため,いくつかの砂岩サンプルに対してモード組成分析,砕屑性ジルコンU–Pb年代測定を行なった.

<構造層序単元の再区分>
「高登谷山層」を,構造的上位から下位にかけて,塊状砂岩が卓越する前川ユニット(以下,U)(Aptian–Albian),凝灰質頁岩およびチャートが卓越する高登谷沢U(Albian–Cenomanian),砂岩泥岩互層が卓越する女山U(Cenomanian–Turonian),チャート・玄武岩ブロックを多く含む混在岩が卓越する信州峠U(Coniacian–Maastrichtian),珪質凝灰岩を多く挟在する砂岩泥岩互層が卓越する黒森U(Campanian)に区分した.鎌田ほか(1991)による高登谷山層Ⅰ亜帯は前川〜信州峠Uに,Ⅱ亜帯は黒森Uに相当する.砕屑性ジルコンU–Pb年代は前川・女山・信州峠Uから採取した3試料について測定された.年代スペクトルにおいて,最若クラスター年代は前川ユニットが約105 Ma,女山Uが約95 Ma,信州峠Uが約115 Maを示す.放散虫化石は高橋ほか(1989),Takahashi & Ishii(1995),鎌田ほか(1991)の情報をまとめた.前者2試料は陸源砕屑岩から得られた放散虫化石年代とよく一致する一方,信州峠Uの年代は放散虫化石年代に比べて有意に古い.また女山Uは他2試料に比べ最若ピークを構成するジルコン粒子の割合が圧倒的に多い.全体として,構造的下位のユニットほど若くなる年代極性を示す.炭質物ラマン温度計の適用結果は,構造的上位(約230 ℃)から下位(約270 ℃)に向かう系統的な最高被熱温度の上昇傾向を示しており,黒森ユニットとその構造的下位の御門層との境界断層を挟んで約20 ℃の温度ギャップが認められる.近接する奥多摩地域の小河内層群の地層(原ほか,2010)とは,前川Uが和名倉沢U,高登谷沢Uが市ノ沢U,信州峠Uが雲取山・八百谷U,黒森Uが古礼山Uとして対比される可能性が高く,従来の「高登谷山層」は「層群」相当に位置付けるのが適当である.

<砂岩と陸上火成活動の関連>
砂岩のモード組成は前川・高登谷沢ユニットと女山・信州峠・黒森ユニットで大きく異なり,前者に比べて後者が著しく珪長質火山岩片に富む傾向にある.また,前川ユニットと女山ユニットの例も含め,四万十帯白亜紀付加体における砕屑性ジルコンのU–Pb年代スペクトルは,最大堆積年代が約95 Maより古いものではジュラ紀以前のコンポーネントが卓越するが,より若いものでは白亜紀のコンポーネントが卓越する傾向にある(例えば,志村ほか,2020; Tokiwa et al., 2021).ユーラシア大陸東縁ではカルデラ形成を伴う大規模噴火の頻発期(いわゆるイグニンブライト・フレアアップ)が女山ユニット形成と同時期に開始したことが明らかになっている(Yamaoka et al, in revision).このことから,砂岩モード組成や砕屑性ジルコンのU–Pb年代スペクトルの顕著な違いはフレアアップ開始前後の海溝充填堆積物の構成物の変化に対応していると解釈することができる.同様の傾向は四国や九州でも一貫して認められ,火成活動の消長が付加体に広域的かつ同期的に記録されていることを示す(例えば,Hara et al., 2017).

<引用文献>
原ほか(2010)5万「三峰」図幅;Hara et al. (2017)IAR 26:e12218;鎌田ほか(1991)地雑 97:157–169;前田(1953)千葉大文理紀要 1:121–126;志村ほか(2020)地雑 126:383–399;高橋ほか(1989)地雑 95:953–955;Takahashi & Ishii(1995)九大理紀要 29:49–85;Tokiwa et al. (2021)JAES 207:104657.