講演情報

[T10-P-5]太古代クラトン上に発生した2014年M5.5地震発生場の応力の空間分布:南アフリカ地下約3kmの掘削コアのカルサイト脈解析

*濱垣 貴也1、橋本 善孝1、細川 貴弘1、小笠原 宏2、藤田 蕉3,2、吉田 俊輔4,2 (1. 高知大学、2. 立命館大学、3. 総合研究大学院大学、4. 造幣局)
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キーワード:

応力解析、カルサイト脈、地震発生場、ICDP DSeis計画、間隙水圧

 はじめに
 太古代の安定地塊(クラトン)で発生する内陸地震は、応力集中や緩和の時空間発展や、その地質・岩石レオロジーとの関係を探る上で、地質学的に重要な情報を提供する。本研究の対象は、南アフリカのカープバルクラトンの上の変成堆積層である、ウィットワータースランド盆地(以下Wits超層群)である。Wits超層群は29~28億年前に堆積し、主に上部と下部に分かれている。大陸前縁の海成砂・泥質堆積層を下部、陸成砂・礫質堆積層が重なってできたものが上部である。厚さは数kmであり、世界有数の堆積成金鉱床はWits超層群の上部約2kmの範囲にある。カルサイト脈が貫入しうる火成活動には以下が挙げられる:巨大火成岩岩石区(LIP;27億年前);20億年前のLIP的巨大シル貫入;3億年前~1.8億年前のカルーのLIPなど。本研究に関係する地震は、M5.5オークニー地震と呼ばれ、2014年にカープバルクラトンの中央に位置するモアプ・コツォン金鉱山の直下で発生した。この金鉱山では、Wits超層群の下部(世界有数の堆積成金鉱床はWits超層群上部)が、現在で地下3~7kmになっており、そのほとんど全部の深さ範囲が、オークニー地震で破壊された。本研究では、地下2.9kmからこの地震の余震発生帯に向かって掘削された817m孔のカルサイト脈の走向・傾斜から、古応力場を復元し議論する。 掘削・回収コアの詳細
 この817m孔(以下Hole A)はICDP DSeis計画(Drilling into Seismogenic zone of M2.0-M5.5earthquakes in Deep South African Gold Mines)によって掘削された(Ogasawara et al. 2019)。Wits超層群下部に、掘削リグが設置され、Hole Aは、①頁岩・珪岩からなる変成堆積岩、②クラウン層の変成玄武岩質安山岩、③閃緑岩シルやよりマフィックなダイクと交差した。堆積岩の層理面のdipとdip方位は平均で20~30度, N130~140度Eである。余震面はほぼ鉛直でNNW-SSE走向であり、Hole Aは約100mまで近づいたが交差させることができなかった。しかしHole Aの最深部は余震発生域の上端部よりも約100m深い地点まで到達している。カルサイト脈は、Hole Aの孔口から、102mから796mの距離にわたって108条が観察された:珪岩の層に少なく泥岩やシルの層では多いという、明瞭な違いが見られた;厚さは15mmから25mmのものが多く、最大では125mm程度のものがあった。

手法結果
 今回Yamaji and Sato(2011)とYamaji(2016)のツール(GArcmB)を用いて、伸張クラックの極の混合ビンガム分布を検出することで、複数の古応力を復元した。本研究では、クラスター1から4まで設定し、各10回計算を行った。その結果、クラスター数が2のときに、尤度Lが最大でBICが最も小さい値を示した。すなわち、二つの古応力場が混合していると言える。応力1の最大・中間・最小の主応力軸の方位,傾斜(度)はそれぞれ、(174,18)・(77,21)・(301, 62)で、応力2の最大・中間・最小の主応力軸は、(359, 72)・(223, 13)・(130, 12)である。また、応力比(Φ =(σ2‒σ3 )/(σ1‒σ3 ))はそれぞれ応力1が0.63で、応力2が0.20であった。応力1が54条、応力2が54条だった。

議論
 応力1は南北方向に低角な最大主応力を持ち、逆断層応力場と言える。一方、応力2は南北に高角な最大主応力を持ち、正断層応力場である。また重要な特徴として、応力1の最小主応力と応力2の最大主応力はほぼ鉛直であり、かつ応力1の最大主応力と応力2の最小主応力はおよそ南北~北西南東方向にほぼ水平であることを挙げられる。この様なことは、間隙水圧が場所によって異なる場合に起こりえる。応力解析と掘削の結果を比較すると、層序と応力1・2の非常によい対応が見えた。カルサイト脈の密度は、珪岩層で低く、泥岩やシルの層で高い。また最も高密度なのは、シル層の中間であった。珪岩層に応力1が集中し、泥岩・シルの層に応力2が集中している。珪岩層に着目すると、深くなるにつれて密度が高まる傾向を持つ。これらの解釈については地質学会までに解析を進め、より詳細を報告する。

引用
・Yamaji and Sato,2011 Journal of Structural Geology, 33(7), 1148-1157.
・Yamaji,2016, Island Arc 25: 72-83.
・Ogasawara et al. (2019). Proceedings of Deep Mining 2019, pp. 375-384.