講演情報
[T10-P-6]太平洋プレート海洋地殻の脱水フロントの地震学的な制約:火山フロントとの空間的一致
*宮崎 一希1、中島 淳一2 (1. 神戸大学 都市安全研究センター、2. 東京科学大学 地球惑星科学系)
キーワード:
エクロジャイト相転移、スラブ脱水、地震波不連続面、レシーバー関数解析
海洋プレートの沈み込みにより、玄武岩質海洋地殻に取り込まれた水が地球内部へ供給される。その後、海洋地殻は相転移に伴い脱水し、特にエクロジャイトへの相転移で多量の水が排出される。玄武岩質海洋地殻は周囲のマントルを構成するかんらん岩に比べて地震波速度が低速である一方で、エクロジャイトの地震波速度はかんらん岩のものとほぼ同じであることが知られている(例えば Hacker et al. 2003)。この性質を利用することで、地震波速度分布の深さ変化から海洋地殻の相転移領域を推定することができる。
これまでの研究によると、東北日本沈み込み帯におけるエクロジャイト相転移の深さは場所により異なっており、東北地方では約100–120 km (Kita et al. 2006; Kawakatsu and Watada 2007)とされる一方、関東地方では約150 km (Matsubara et al. 2005; Nakajima et al. 2009a)と推定されている。特に関東地方では南から沈み込むフィリピン海プレート下部との接触のため太平洋プレート表面温度が深部まで低温を維持していると考えられており(Iwamori 2000; Ji et al. 2017)、これにより脱水深さが局所的に深くなっていると考えられている。しかし、東北日本全域のエクロジャイト相転移位置の空間変化を網羅的に調べた例はない。そこで本研究では東北日本沈み込み帯について沈み込み方向に沿った地震波速度解析を行い、海洋地殻相転移の深さ方向及び南北方向の特徴について調べた。
地下の地震波速度不連続面の位置を空間的に推定するため、レシーバー関数イメージング法を用いた。2005年4月から2023年3月までに発生したマグニチュード5.5以上、震央距離30-90°の地震波形を使用した。機器補正(Maeda et al. 2011)後、SN比の良い波形について0.1-0.5 Hzの範囲でウォーターレベル法(water level =0.001)によりレシーバー関数を計算した。得られたレシーバー関数はIASP91一次元速度モデル(Kennett and Engdahl 1991)を用いて断面上に投影した。この際、太平洋プレートの形状(Nakajima et al. 2009b)を仮定し、プレート上面での屈折を考慮する手法を用いた。太平洋プレートの最大傾斜方向に沿って東北地方北部から関東地方南部にかけて15本の計算プロファイルを設定し、それぞれで断面イメージを計算した。
以上の結果、すべての測線で海洋地殻表面と海洋モホ面にそれぞれ対応する負と正の地震波速度不連続面が浅部から連続的にイメージされた。これらの速度不連続は東北地方全域および関東地方南部では深さ80–110 km程度で消失し、これは海洋地殻のエクロジャイト相転移に対応すると考えられる。一方で北陸地方では速度不連続が深さ200 km程度まで消失せず連続的にイメージされ、したがって太平洋プレートの海洋地殻が日本海沿岸直下までエクロジャイト相転移せず、水を輸送していることを強く示唆している。また、エクロジャイト相転移が深い領域は、フィリピン海プレートとの接触域(Nakajima et al. 2009b)とよく一致しており、二重沈み込みによる低温モデルと整合的である。さらに、エクロジャイト相転移位置の空間分布は火山フロントと非常によく一致していることも明らかになった。これは海洋地殻から放出された流体、あるいはそれによって形成されたメルトがまっすぐ上昇し、直上の大陸地殻に換入することで火山を形成するというマグマプロセスを反映している可能性がある。
[参考文献]
Hacker et al. (2003). Subduction factory 1. Theoretical mineralogy, densities, seismic wave speeds, and H2O contents. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 108(B1).
Iwamori (2000). Deep subduction of H2O and deflection of volcanic chain towards backarc near triple junction due to lower temperature. Earth and Planetary Science Letters, 181(1-2), 41-46.
Ji et al. (2017). Seismogenesis of dual subduction beneath Kanto, central Japan controlled by fluid release. Scientific Reports, 7(1), 16864.
Kawakatsu and Watada (2007). Seismic evidence for deep-water transportation in the mantle. Science, 316(5830), 1468-1471.
Kennett and Engdahl (1991). Traveltimes for global earthquake location and phase identification. Geophysical Journal International, 105(2), 429-465.
Kita et al. (2010). Anomalous deepening of a seismic belt in the upper-plane of the double seismic zone in the Pacific slab beneath the Hokkaido corner: Possible evidence for thermal shielding caused by subducted forearc crust materials. Earth and Planetary Science Letters, 290(3-4), 415-426.
Maeda et al. (2011). Interference of long‐period seismic wavefield observed by the dense Hi‐net array in Japan. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 116(B10).
Matsubara et al. (2005). Low‐velocity oceanic crust at the top of the Philippine Sea and Pacific plates beneath the Kanto region, central Japan, imaged by seismic tomography. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 110(B12).
Nakajima et al. (2009a). Seismic evidence for thermally‐controlled dehydration reaction in subducting oceanic crust. Geophysical Research Letters, 36(3).
Nakajima et al. (2009b). Seismotectonics beneath the Tokyo metropolitan area, Japan: Effect of slab‐slab contact and overlap on seismicity. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 114(B8).
これまでの研究によると、東北日本沈み込み帯におけるエクロジャイト相転移の深さは場所により異なっており、東北地方では約100–120 km (Kita et al. 2006; Kawakatsu and Watada 2007)とされる一方、関東地方では約150 km (Matsubara et al. 2005; Nakajima et al. 2009a)と推定されている。特に関東地方では南から沈み込むフィリピン海プレート下部との接触のため太平洋プレート表面温度が深部まで低温を維持していると考えられており(Iwamori 2000; Ji et al. 2017)、これにより脱水深さが局所的に深くなっていると考えられている。しかし、東北日本全域のエクロジャイト相転移位置の空間変化を網羅的に調べた例はない。そこで本研究では東北日本沈み込み帯について沈み込み方向に沿った地震波速度解析を行い、海洋地殻相転移の深さ方向及び南北方向の特徴について調べた。
地下の地震波速度不連続面の位置を空間的に推定するため、レシーバー関数イメージング法を用いた。2005年4月から2023年3月までに発生したマグニチュード5.5以上、震央距離30-90°の地震波形を使用した。機器補正(Maeda et al. 2011)後、SN比の良い波形について0.1-0.5 Hzの範囲でウォーターレベル法(water level =0.001)によりレシーバー関数を計算した。得られたレシーバー関数はIASP91一次元速度モデル(Kennett and Engdahl 1991)を用いて断面上に投影した。この際、太平洋プレートの形状(Nakajima et al. 2009b)を仮定し、プレート上面での屈折を考慮する手法を用いた。太平洋プレートの最大傾斜方向に沿って東北地方北部から関東地方南部にかけて15本の計算プロファイルを設定し、それぞれで断面イメージを計算した。
以上の結果、すべての測線で海洋地殻表面と海洋モホ面にそれぞれ対応する負と正の地震波速度不連続面が浅部から連続的にイメージされた。これらの速度不連続は東北地方全域および関東地方南部では深さ80–110 km程度で消失し、これは海洋地殻のエクロジャイト相転移に対応すると考えられる。一方で北陸地方では速度不連続が深さ200 km程度まで消失せず連続的にイメージされ、したがって太平洋プレートの海洋地殻が日本海沿岸直下までエクロジャイト相転移せず、水を輸送していることを強く示唆している。また、エクロジャイト相転移が深い領域は、フィリピン海プレートとの接触域(Nakajima et al. 2009b)とよく一致しており、二重沈み込みによる低温モデルと整合的である。さらに、エクロジャイト相転移位置の空間分布は火山フロントと非常によく一致していることも明らかになった。これは海洋地殻から放出された流体、あるいはそれによって形成されたメルトがまっすぐ上昇し、直上の大陸地殻に換入することで火山を形成するというマグマプロセスを反映している可能性がある。
[参考文献]
Hacker et al. (2003). Subduction factory 1. Theoretical mineralogy, densities, seismic wave speeds, and H2O contents. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 108(B1).
Iwamori (2000). Deep subduction of H2O and deflection of volcanic chain towards backarc near triple junction due to lower temperature. Earth and Planetary Science Letters, 181(1-2), 41-46.
Ji et al. (2017). Seismogenesis of dual subduction beneath Kanto, central Japan controlled by fluid release. Scientific Reports, 7(1), 16864.
Kawakatsu and Watada (2007). Seismic evidence for deep-water transportation in the mantle. Science, 316(5830), 1468-1471.
Kennett and Engdahl (1991). Traveltimes for global earthquake location and phase identification. Geophysical Journal International, 105(2), 429-465.
Kita et al. (2010). Anomalous deepening of a seismic belt in the upper-plane of the double seismic zone in the Pacific slab beneath the Hokkaido corner: Possible evidence for thermal shielding caused by subducted forearc crust materials. Earth and Planetary Science Letters, 290(3-4), 415-426.
Maeda et al. (2011). Interference of long‐period seismic wavefield observed by the dense Hi‐net array in Japan. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 116(B10).
Matsubara et al. (2005). Low‐velocity oceanic crust at the top of the Philippine Sea and Pacific plates beneath the Kanto region, central Japan, imaged by seismic tomography. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 110(B12).
Nakajima et al. (2009a). Seismic evidence for thermally‐controlled dehydration reaction in subducting oceanic crust. Geophysical Research Letters, 36(3).
Nakajima et al. (2009b). Seismotectonics beneath the Tokyo metropolitan area, Japan: Effect of slab‐slab contact and overlap on seismicity. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 114(B8).
