講演情報

[T10-P-9]四国西部における中央構造線周辺のNNW-SSE方向の変形構造

*窪田 安打1、竹下 徹2 (1. 応用地質株式会社、2. パシフィックコンサルタンツ株式会社)
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キーワード:

中央構造線、運動史、古第三紀、新第三紀

 1. 研究経緯 
 中央構造線(Median Tectonic Line; MTL)の古第三紀の運動像について、市之川フェーズ(59 Ma)はMTLが大規模な正断層運動を行う運動時相であること、その後の先砥部フェーズ(47-46 Ma)は、MTLに平行~雁行配列する内帯の断層群が左横ずれ逆断層運動により形成された運動時相であることが示されている(Kubota and Takeshita 2008; Kubota et al. 2020)。更に筆者らは、MTLの破砕帯において先砥部フェーズの変形構造にtop-to-the-SEのカタクレーサイトが重複することを確認し、これが砥部フェーズ(16-15 Ma)の右ずれ逆断層により形成された構造であることを報告した(窪田・竹下, 2024)。本論では、四国西部のMTL周辺にNNW-SSE方向の変形構造を新たに確認したことから、この構造の記載とテクトニクスの考察を報告する。
2. NNW-SSE方向の変形構造の記載 
 東温市則之内、井内川沿い(A地区)井内川及び周辺の露頭において、下部白亜系和泉層群の砂岩泥岩互層にNNW-SSE方向に軸を持つ褶曲構造が幅約500mに渡って分布する。この褶曲帯は井内川沿いに少なくとも約750mに渡って確認できる。褶曲は波長10m程度で軸面はほぼ鉛直であり、軸面に平行な小断層を複数伴う。これらの構造に対して、ENE-WSW方向に幅2m以下の酸性岩脈が高角度傾斜で貫入する。貫入岩には明瞭な破砕は認められない。また、和泉層群の東西方向の褶曲帯に対する前後関係は不明瞭である。更に、井内川沿いの上流に分布する下部中新統久万層群の三波川帯起源の砂礫層からなる古岩屋層(越智ほか,2014)において、砂礫層の層理面がN61°E86°Sの直立する露頭を確認するなど、周辺の層理面の走向傾斜の極をステレオ解析した結果、EWE-WSW方向の軸をもち北傾斜する軸面をもつ転倒向斜構造が認められた。 東温市樋口、日吉谷沿い(B地区)日吉谷沿いの露頭において、和泉層群の砂岩泥岩互層の層理面がN60°E、南傾斜からなる地層構造に対して、幅約700m程度の範囲にN10-20°E、東傾斜~直立の層理面からなる領域が分布する。この領域はNNW-SSE方向に延びており、東西方向の褶曲構造を曲げる構造として認められる。この変形領域の両端の境界は層理面の走向が急変する箇所と、次第に変化する箇所の両者が認められるが、明瞭なせん断面は確認できていない。久万高原町露峰、久万川沿い(C地区)久万川沿いの露頭において、三波川結晶片岩類にNNW-SSE走向の低角度の逆断層とENE-WSW走向の高~中角度の正断層が分布する。屈曲した河川に沿うように、この2系統の断層が分布する。両断層ともに幅1~0.5m程度のカタクレーサイトと周辺に亀裂帯を伴う程度であり、複数の小断層からなるとみられる。両断層が交差する露頭では前者を後者が切る関係を確認することができる。 
3. 考察 
 A地区の上流で確認した久万層群古岩屋層にみられる褶曲構造は、竹下(1993, 2010)が報告したENE-WSW方向で水平な軸を持つ転倒褶曲の東方延長と推察される。これらは中央構造線に平行に分布しており、砥部フェーズの短縮変形に伴い形成されたと考えられる(竹下,1993,2010)。A・B地区の和泉層群にみられるNNW-SSE方向の軸を持つ褶曲帯は、先砥部フェーズ(47-46Ma)の東西方向の褶曲構造に対して横断するように連続している。同構造はENE-WSW方向に短縮する応力場が想定される。形成時期については、石鎚層群の岩脈の貫入を受けていることや、A地区上流の久万層群古岩屋層に同方向の圧縮変形が認められないことから、この褶曲帯は久万層群堆積期(18~15Ma)(新正・折橋, 2021など)前の変形であると考えられる。また、C地区にみられるENE-WSW走向の正断層とNNW-SSE走向の逆断層のうち前後関係から後期に形成された前者は、楠橋・山路(2001)によるENE-WSW走向の正断層群に調和する構造である。一方後者について、久万層群にENE-WSW方向に短縮する応力場は認められていない(楠橋・山路,2001)。また久万層群が埋没した直線的な旧谷地形(木原,1985)の方向に対応することから、久万層群堆積期よりも前に形成された構造でありこれを弱線として形成した谷を久万層群が埋積した可能性がある。以上のNNW-SSE方向の構造は、ENE-WSW方向の圧縮応力場で形成されたものと推定される。A・B地区とC地区が同時期に形成された構造であれば、中央構造線を跨いで内帯・外帯に連続する46~18Maの変形構造と整理される。これらは既往の研究では報告されていない地質構造であり、西南日本のテクトニクスにおいて新たな知見となる可能性があるため、今後、更なる構造解析を進める計画である。
(引用文献) 木原, 1985, “スランプ相”の形成とテクトニクス, 133-144.; Kubota & Takeshita, 2008, Isl. Arc, 17, 129-151.; Kubota et al., 2020, Tectonics, 39, e2018TC005372.; 窪田・竹下, 2024 日本地質学会学術大会講演要旨.;楠橋・山路, 2001, 地雑, 107, 26-40.; 越智ほか, 2014, 地雑, 120, 165-179.; 新正・折橋, 2021, 地雑, 127, 595-603.; 竹下, 1993, 地論, 42, 225-244.; 竹下, 2010, 地学雑誌, 119, 347-361.