講演情報
[T10-P-12]新潟県中越鳥越断層における多重逆解法の適応
*菅 敦成1、小林 健太2 (1. 東北大学大学院理学研究科地学専攻、2. 新潟大学理学部地質科学教室)
キーワード:
多重逆解法、応力解析、傾動補正、鳥越断層、新潟県
(はじめに)
多重逆解法は,記録されている複数の応力状態を不均一な断層スリップデータから,断層を動かした応力を推定する数値解法であり,主に小断層の解析に用いられる(山路,1999).今回は,新潟県中越鳥越断層周辺において,小断層を含む断層露頭を詳細に観察し,多重逆解法を用いた応力解析を行うことで,小断層形成当時の応力と本地域の広域的な応力の関係性を議論する.
(地質概説と研究手法)
鳥越断層は,北北東-南南西走向の活断層帯である長岡平野西縁断層帯の一部を構成している逆断層である.断層帯西側の丘陵には前・中期更新世の魚沼層が分布し,下位層とともに褶曲を被っている.魚沼層の一部は逆転し,中期更新世の御山層に傾斜不整合で覆われる.鳥越断層の副断層が露出する2ルート(宮沢・気比宮)において,約200条の小断層を記載した.しかし,現在観察することができる小断層の姿勢は,形成当時の姿勢をそのまま保持しているとは限らない.特に,魚沼層は周辺の褶曲活動の影響を受けて地層が逆転しているため,傾動補正を検討する必要がある.傾動補正とは,岩体が傾動運動して初めとは異なった方向を向く地質構造を,元の状態に戻す操作のことをいう(冨田,山路, 2003).傾動補正をするためには,前述の断層スリップデータに加え,小断層が位置している地層の走向・傾斜のデータも必要となる.本研究では,新たに傾動補正を試み,詳細な応力解析を行った.具体的な手順としては,多重逆解法ソフトウェア(山路,1999)と Stereonet v.11(Allmendinger, R. W., 2012, Cardozo, N., and Allmendinger, R.W., 2013)を使用して,露頭周辺の層理面データから褶曲軸の沈下方向と沈下角を求め,地層を水平な状態に戻す.そして,その褶曲を展開し堆積時の状態を復元した後,多重逆解法を用いた応力解析を行い,当時の応力を推定した.
(結果と考察)
宮沢ルートの小断層は,1:北西傾斜の逆断層,2:北西傾斜の正断層,3:水平ないし南東傾斜の逆断層,4:水平ないし南東傾斜の正断層,の4つのグループに分類できる.グループ1は幅10cmのガウジ帯を伴う断層を含み,これは御山層の基底に1.5mの隔離を与える.また,小断層グループ間に明瞭な新旧関係は認められない.一方,気比宮ルートでは御山層内に正断層および複合面構造を確認した.今回は,宮沢ルートのグループ1,グループ2,気比宮ルートの正断層について応力解析を行った.グループ2は逆転している魚沼層の砂岩層内に発達しているため,傾動補正を検討する必要がある.その結果,補正率30%のデータを採用した.グループ1は逆転層を切っており,気比宮ルートの正断層は逆転層の上位に堆積した御山層中に分布しているため,傾動補正は不要であると判断した.応力解析の結果,グループ1からのスリップデータの多くは,σ1:西北西-東南東,σ3:ほぼ鉛直,応力比0.6(ほぼ平面歪)を示す逆断層型の応力解で説明される.これは,本地域の広域テクトニクスと調和的である.残りのデータは,応力方位はほぼ同じだが,より小さな応力比0.2(一軸短縮に類似)解を想定することで説明できる.一方,グループ2および気比宮ルートからは,σ3:西北西-東南東の解(正断層型)が得られた.新潟県中越は,水平圧縮場でありつつも,鳥越断層周辺では正断層が普遍的に形成されている様子が確認された.そのため,重力などのノンテクトニックな影響を受けて定常的に正断層が発達し,地震などのイベントが発生した際には,地下深部の応力が浅所まで反映されて逆断層が形成された.
(参考文献)
Allmendinger, R. W., Cardozo, N., and Fisher, D., 2012, Structural geology algorithms: Vectors and tensors in structural geology: Cambridge University Press (book to be published in early 2012).
Cardozo, N., and Allmendinger, R.W., 2013, Spherical projections with OSXStereonet: Computers & Geosciences, v. 51, p. 193 – 205, doi:10.1016/ j.cageo.2012.07.021.
山路敦,1999,構造地質,No.43,79–88.
冨田智・山路敦,2003,情報地質,第14巻,第2号,85–104.
多重逆解法は,記録されている複数の応力状態を不均一な断層スリップデータから,断層を動かした応力を推定する数値解法であり,主に小断層の解析に用いられる(山路,1999).今回は,新潟県中越鳥越断層周辺において,小断層を含む断層露頭を詳細に観察し,多重逆解法を用いた応力解析を行うことで,小断層形成当時の応力と本地域の広域的な応力の関係性を議論する.
(地質概説と研究手法)
鳥越断層は,北北東-南南西走向の活断層帯である長岡平野西縁断層帯の一部を構成している逆断層である.断層帯西側の丘陵には前・中期更新世の魚沼層が分布し,下位層とともに褶曲を被っている.魚沼層の一部は逆転し,中期更新世の御山層に傾斜不整合で覆われる.鳥越断層の副断層が露出する2ルート(宮沢・気比宮)において,約200条の小断層を記載した.しかし,現在観察することができる小断層の姿勢は,形成当時の姿勢をそのまま保持しているとは限らない.特に,魚沼層は周辺の褶曲活動の影響を受けて地層が逆転しているため,傾動補正を検討する必要がある.傾動補正とは,岩体が傾動運動して初めとは異なった方向を向く地質構造を,元の状態に戻す操作のことをいう(冨田,山路, 2003).傾動補正をするためには,前述の断層スリップデータに加え,小断層が位置している地層の走向・傾斜のデータも必要となる.本研究では,新たに傾動補正を試み,詳細な応力解析を行った.具体的な手順としては,多重逆解法ソフトウェア(山路,1999)と Stereonet v.11(Allmendinger, R. W., 2012, Cardozo, N., and Allmendinger, R.W., 2013)を使用して,露頭周辺の層理面データから褶曲軸の沈下方向と沈下角を求め,地層を水平な状態に戻す.そして,その褶曲を展開し堆積時の状態を復元した後,多重逆解法を用いた応力解析を行い,当時の応力を推定した.
(結果と考察)
宮沢ルートの小断層は,1:北西傾斜の逆断層,2:北西傾斜の正断層,3:水平ないし南東傾斜の逆断層,4:水平ないし南東傾斜の正断層,の4つのグループに分類できる.グループ1は幅10cmのガウジ帯を伴う断層を含み,これは御山層の基底に1.5mの隔離を与える.また,小断層グループ間に明瞭な新旧関係は認められない.一方,気比宮ルートでは御山層内に正断層および複合面構造を確認した.今回は,宮沢ルートのグループ1,グループ2,気比宮ルートの正断層について応力解析を行った.グループ2は逆転している魚沼層の砂岩層内に発達しているため,傾動補正を検討する必要がある.その結果,補正率30%のデータを採用した.グループ1は逆転層を切っており,気比宮ルートの正断層は逆転層の上位に堆積した御山層中に分布しているため,傾動補正は不要であると判断した.応力解析の結果,グループ1からのスリップデータの多くは,σ1:西北西-東南東,σ3:ほぼ鉛直,応力比0.6(ほぼ平面歪)を示す逆断層型の応力解で説明される.これは,本地域の広域テクトニクスと調和的である.残りのデータは,応力方位はほぼ同じだが,より小さな応力比0.2(一軸短縮に類似)解を想定することで説明できる.一方,グループ2および気比宮ルートからは,σ3:西北西-東南東の解(正断層型)が得られた.新潟県中越は,水平圧縮場でありつつも,鳥越断層周辺では正断層が普遍的に形成されている様子が確認された.そのため,重力などのノンテクトニックな影響を受けて定常的に正断層が発達し,地震などのイベントが発生した際には,地下深部の応力が浅所まで反映されて逆断層が形成された.
(参考文献)
Allmendinger, R. W., Cardozo, N., and Fisher, D., 2012, Structural geology algorithms: Vectors and tensors in structural geology: Cambridge University Press (book to be published in early 2012).
Cardozo, N., and Allmendinger, R.W., 2013, Spherical projections with OSXStereonet: Computers & Geosciences, v. 51, p. 193 – 205, doi:10.1016/ j.cageo.2012.07.021.
山路敦,1999,構造地質,No.43,79–88.
冨田智・山路敦,2003,情報地質,第14巻,第2号,85–104.
