講演情報
[T10-P-13]綿向山断層近傍の古琵琶湖層群を切る小断層群が示す第四紀のNW-SE圧縮応力
*豊留 一輝1、佐藤 活志1 (1. 京都大学大学院理学研究科)
キーワード:
応力逆解析、小断層、活断層、古琵琶湖層群、第四紀
綿向山断層は活断層帯である鈴鹿西縁断層帯を構成し(地震調査委員会,2004),全体として南北方向に約9 kmにわたって連続する東側隆起の逆断層である(原山ほか,1989).現在の近畿地方の活断層群は,総じて東西圧縮応力のもとで活動していると考えられている(例えば,Tsutsumi et al., 2012)が,個別の活断層を駆動した応力の検討例は少ない.そこで本研究は,綿向山断層近傍の小断層群を用いて,綿向山断層を駆動した応力を調べた.
綿向山断層の西方の日野丘陵には,更新世前期に堆積した古琵琶湖層群蒲生層が分布する(原山ほか,1989).蒲生層はその東端において,鈴鹿山脈を構成する基盤岩と綿向山断層によって接している.蒲生層の地層面は日野丘陵ではおおむね水平だが,綿向山断層の近傍では逆転し南東に傾斜している.本研究では,概ね水平な蒲生層を切る小断層を7条,逆転した蒲生層を切る小断層を79条計測した.また,取得した小断層データを用いて応力逆解析を行なった.応力逆解析には不完全データも含めて解析することができるHough 変換法(Yamaji et al., 2006; Sato, 2006)を使用した.
応力逆解析の結果, 概ね水平な蒲生層を切る7条の小断層からは応力比が0.3程度,WNW-ESE圧縮の逆断層型応力が検出された.また,逆転した蒲生層を切る小断層群からは,σ1軸の方向が311/56 (trend/plunge)であるような一軸圧縮応力が得られた.逆転した蒲生層を切る小断層群は,綿向山断層の近傍に密集して発達しているので,綿向山断層を駆動した応力を記録していると期待される.しかし,小断層は形成後に地層と共に回転している可能性がある.そこで,本研究では逆転層に発達する小断層群から検出された応力を,地層面が水平になるように段階的に回転し,綿向山断層の運動を最もよく説明する段階を特定した.このとき,綿向山断層の滑りやすさの指標として,fault instability(Vavryčuk et al., 2013)を用いた.回転補正では,逆転した地層面の走向を回転軸とし,回転率0 %を堆積時の水平な状態,100 %を現在の逆転した状態として,回転率を0から100 %まで10 %ごとに変化させて得た11個の応力について綿向山断層のfault instabilityを評価した.その結果,回転率0, 10 %,40, 50, 60 %時の応力でfault instabilityが大きいという結果になった.しかし回転率0, 10 %時の応力は綿向山断層の逆断層運動と整合的で無いことから,回転率40, 50, 60 %時の応力が綿向山断層を駆動した応力であると推定した.その結果,応力比が0.1程度,NW-SE圧縮の横ずれ断層型応力が得られた.
これらの結果から,日野丘陵から綿向山断層近傍にかけてはの地域では蒲生層堆積後の約2.6 Ma以降,応力比は低めのWNW-ESEからNW-SE方向にσ1軸を持つ圧縮応力を経験したと考えられる.Tsutsumi et al. (2012)で得られた現在の広域応力であるWNW-ESE圧縮の逆断層型応力と比較すると,この応力は現在の広域応力に比べてσ1軸の方向が時計回りに10°から30°ほど回転している.この違いが応力の時間変化を表すのか,空間変化を表すのかを特定するのが次の課題だが,そのためには他の断層を駆動した応力との比較が必要である.
引用文献
原山ほか,1989, 御在所山の地質,5万分の1地質図幅,地質調査所.
地震調査委員会,2004,鈴鹿西縁断層の長期評価,地震調査研究推進本部.
Sato, K., 2006, Tectonophysics, 421, 319–330.
Tsutsumi, H. et al., 2012, Geophys. Res. Lett., 39, L23303.
Vavrycuk, V. et al, 2013, Tectonophysics, 590, 189-195.
Yamaji, A. et al., 2006, J. Struct. Geol., 28, 980–990.
綿向山断層の西方の日野丘陵には,更新世前期に堆積した古琵琶湖層群蒲生層が分布する(原山ほか,1989).蒲生層はその東端において,鈴鹿山脈を構成する基盤岩と綿向山断層によって接している.蒲生層の地層面は日野丘陵ではおおむね水平だが,綿向山断層の近傍では逆転し南東に傾斜している.本研究では,概ね水平な蒲生層を切る小断層を7条,逆転した蒲生層を切る小断層を79条計測した.また,取得した小断層データを用いて応力逆解析を行なった.応力逆解析には不完全データも含めて解析することができるHough 変換法(Yamaji et al., 2006; Sato, 2006)を使用した.
応力逆解析の結果, 概ね水平な蒲生層を切る7条の小断層からは応力比が0.3程度,WNW-ESE圧縮の逆断層型応力が検出された.また,逆転した蒲生層を切る小断層群からは,σ1軸の方向が311/56 (trend/plunge)であるような一軸圧縮応力が得られた.逆転した蒲生層を切る小断層群は,綿向山断層の近傍に密集して発達しているので,綿向山断層を駆動した応力を記録していると期待される.しかし,小断層は形成後に地層と共に回転している可能性がある.そこで,本研究では逆転層に発達する小断層群から検出された応力を,地層面が水平になるように段階的に回転し,綿向山断層の運動を最もよく説明する段階を特定した.このとき,綿向山断層の滑りやすさの指標として,fault instability(Vavryčuk et al., 2013)を用いた.回転補正では,逆転した地層面の走向を回転軸とし,回転率0 %を堆積時の水平な状態,100 %を現在の逆転した状態として,回転率を0から100 %まで10 %ごとに変化させて得た11個の応力について綿向山断層のfault instabilityを評価した.その結果,回転率0, 10 %,40, 50, 60 %時の応力でfault instabilityが大きいという結果になった.しかし回転率0, 10 %時の応力は綿向山断層の逆断層運動と整合的で無いことから,回転率40, 50, 60 %時の応力が綿向山断層を駆動した応力であると推定した.その結果,応力比が0.1程度,NW-SE圧縮の横ずれ断層型応力が得られた.
これらの結果から,日野丘陵から綿向山断層近傍にかけてはの地域では蒲生層堆積後の約2.6 Ma以降,応力比は低めのWNW-ESEからNW-SE方向にσ1軸を持つ圧縮応力を経験したと考えられる.Tsutsumi et al. (2012)で得られた現在の広域応力であるWNW-ESE圧縮の逆断層型応力と比較すると,この応力は現在の広域応力に比べてσ1軸の方向が時計回りに10°から30°ほど回転している.この違いが応力の時間変化を表すのか,空間変化を表すのかを特定するのが次の課題だが,そのためには他の断層を駆動した応力との比較が必要である.
引用文献
原山ほか,1989, 御在所山の地質,5万分の1地質図幅,地質調査所.
地震調査委員会,2004,鈴鹿西縁断層の長期評価,地震調査研究推進本部.
Sato, K., 2006, Tectonophysics, 421, 319–330.
Tsutsumi, H. et al., 2012, Geophys. Res. Lett., 39, L23303.
Vavrycuk, V. et al, 2013, Tectonophysics, 590, 189-195.
Yamaji, A. et al., 2006, J. Struct. Geol., 28, 980–990.
