講演情報

[T10-P-16]GIAモデリングによる最終間氷期の海水準変動と氷床量推定

*奥野 淳一3,1,2、石輪 健樹1,2、入江 芳矢4 (1. 国立極地研究所、2. 総合研究大学院大学、3. 情報・システム研究機構、4. 京都大学)
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キーワード:

氷河性地殻均衡調整、海水準変動、最終間氷期、真の極移動

 過去の温暖期における極域氷床の挙動は,将来の地球温暖化に伴う氷床の潜在的な応答を評価する上で,極めて重要な制約情報を提供する.とりわけ,最終間氷期(Last Interglacial: LIG,約12.5万年前)は,産業革命以前の気候状態と比較して全球平均気温が1〜2°C高く,かつ全球平均で6〜9 m高い海水準が示唆されており,将来予測のための有力な古気候アナログ期間とされる.しかし,この時代の高海水準に関しては,広域に分布する地質データを統合的に解析した推定とは言い難く,その再現には不確実性が残る.そこで本研究では,このLIG期間における氷床量変動を高精度に復元するために,近年蓄積が進んでいる広範な地域を対象とした相対的海水準(Relative Sea Level: RSL)の地形・地質学的観測データと,地球内部の時空間応答を組み込んだ高解像度GIA数値モデリングとを統合的に用いた解析を行なった.
氷床量復元における中心的課題は,氷河性地殻均衡調整(Glacial Isostatic Adjustment: GIA)に起因する固体地球の変形シグナルを,空間的に変動するRSL観測値から正確に分離・補正することである.GIAは,氷床及び海水の荷重変化に応答して発生する地殻変動であり,マントルの粘性構造やリソスフェアの力学特性と密接に関連している.本研究では,このGIAに加え,真の極移動(True Polar Wander: TPW)の影響も明示的に組み込んだ球対称地球モデルを構築し,LIGにおける地殻変動と海水準応答を統一的に再現する数値実験を行った.
得られたモデル出力は,年代精度の高い広域的なRSL指標データベースと比較検証することで,その妥当性を評価しつつ,LIGにおける氷床量変動を定量的に推定した.さらに,感度実験により,最終氷期最盛期の一つ前の氷期(Penultimate Glacial Maximum)における氷床分布の違いがTPWを通じて地殻変動および海水準に最大で4〜5 m程度の顕著な影響を与えることが明らかとなった.これらの成果は,真の極移動も考慮した氷床質量再配分に起因する地球規模の地殻変動の理解を深め,将来の全球海面上昇予測に対する理論的基盤の強化に資するものである.さらに,氷床−地殻−マントル系の相互作用に基づく固体地球変動プロセスの包括的理解は,海水準データから10万年スケールの長期地殻変動速度を推定する際の基礎情報を提供し,テクトニクス研究の高度化にも貢献する.