講演情報
[T13-P-5]南部北上帯南西部のペルム系砕屑岩から復元する後背地の変遷
*鈴木 敬介1、瀧川 浩気2 (1. 産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門、2. 新潟大学理学部地質科学プログラム)
キーワード:
南部北上帯、ペルム紀、砕屑岩、後背地
東北日本の南部北上帯は,非変成古生界を含む日本有数の地帯である.中でも,ペルム系は厚い砕屑岩層で特徴付けられ,本地帯全域に広く分布することから,これまで層位・古生物学的および堆積岩岩石学的研究が精力的に進められてきた.これによりペルム紀の南部北上帯の後背地は,安山岩を含む未成熟な島弧から花崗岩が上昇・露出した成熟した島弧へと変化したと考えられている[1].しかし,南部北上帯の先ペルム系に安山岩はほとんど認められず,砂岩モード・主要元素組成等の伝統的なデータに基づく議論には再考の余地がある.
ここで演者らは,南部北上帯南西部に位置する陸中大原地域に着目した.本地域東部では石炭系火山砕屑岩・石灰岩からペルム系砕屑岩への岩相変化が認められ,前述の後背地変遷を先ペルム系との関連も踏まえ検証できる.本発表では,陸中大原地域東部における上部古生界の岩相層序,砂岩・礫岩の主要・微量・希土類元素,および砕屑性ジルコンU–Pb年代の組み合わせから,ペルム紀の後背地について新たな視点を提供する.
今回の検討では,陸中大原地域東部における向鞍山-不動堂周辺の石炭系火山砕屑岩・石灰岩(米里・芝層)と下~中部ペルム系砕屑岩(戸中層・大森山層)の境界付近から2点,木地山周辺と高洞谷山南方の道路沿いの中~上部ペルム系(落合層・登米層)から29点の計31試料の砂岩と礫岩を採取・記載し,全岩化学分析を行った.このうち,中~上部ペルム系からの砂岩2試料については,砕屑性ジルコンU–Pb年代測定を行った.
砂岩試料の大半は,石英・長石類を主成分とした長石質アレナイトで特徴づけられる.石英は波動消光を示し,長石類の多くはミルメカイトやパーサイトを呈する.これらの粒子は互いに入り組み,花崗岩片の様相を呈する場合がある.一部の試料は火山岩片も豊富に含む.礫岩は玄武岩質凝灰岩~火山礫凝灰岩,玄武岩質安山岩,流紋岩,閃緑岩,および花崗岩で構成され,火山岩礫は戸中層・大森山層や落合層下部で卓越する.落合層上部と登米層に含まれる礫岩は主に花崗岩礫からなる.
砂岩のSiO2は58–75 wt.%の間で変動する.Al2O3と他元素との間には相関がなく,組成変動をもたらす主な要因は砕屑粒子である.A–CN–K図では全ての試料が斜長石成分に富む組成を示し,イライト等の粘土鉱物によるK2Oの増加は認められない.これらは主に軽希土類元素の値が高く,重希土類元素が平坦なパターンを示し,Euの負の異常が認められる点で花崗岩礫や流紋岩礫のREEプロットと類似する.重希土類元素の枯渇が大きく,Euの負の異常が認めらない砂岩も一部含まれる.大半の試料は花崗岩・流紋岩礫と比べ高いCr含有量(約40–60 ppm)を有する.La–Th–Sc図およびV–Ni–Th*10図は安山岩領域との地球化学的親和性を示すが,これは花崗岩・流紋岩と玄武岩を由来とした砕屑粒子の混合物として解釈可能である.
また,砕屑性ジルコンU–Pb年代は主に320–280 Maの年代値で構成され,中~上部ペルム系は堆積年代よりも古いジルコンを豊富に含む.全岩化学組成による後背地・原岩推定と合わせて考えると,陸中大原地域東部の石炭系火山砕屑岩は,玄武岩・流紋岩由来の砕屑粒子および礫の供給源である可能性が高い.これは,南部北上帯の石炭系火山砕屑岩が玄武岩と流紋岩によるバイモーダル火山活動を記録しているという川村・川村(1989)の解釈と調和的である[2].320–280 Maの花崗岩類については阿武隈山地東縁(割山花崗岩体)や関東山地(金勝山閃緑岩)で認められ[3, 4],これらとの関連も踏まえ総合的な解釈を与えることが,ペルム紀における南部北上帯の後背地変遷を復元する上で重要となるだろう.
引用文献: [1] Yoshida and Machiyama (2004). Sediment. Geol., 166, 185–207. [2] 川村・川村 (1989). 地球科学, 43, 157–167. [3] Tsuchiya et al. (2015). Jour. Geol. Soc. Japan, 120, 37–51. [4] Ogasawara et al. (2016). Isl. Arc, 25, 28–42.
ここで演者らは,南部北上帯南西部に位置する陸中大原地域に着目した.本地域東部では石炭系火山砕屑岩・石灰岩からペルム系砕屑岩への岩相変化が認められ,前述の後背地変遷を先ペルム系との関連も踏まえ検証できる.本発表では,陸中大原地域東部における上部古生界の岩相層序,砂岩・礫岩の主要・微量・希土類元素,および砕屑性ジルコンU–Pb年代の組み合わせから,ペルム紀の後背地について新たな視点を提供する.
今回の検討では,陸中大原地域東部における向鞍山-不動堂周辺の石炭系火山砕屑岩・石灰岩(米里・芝層)と下~中部ペルム系砕屑岩(戸中層・大森山層)の境界付近から2点,木地山周辺と高洞谷山南方の道路沿いの中~上部ペルム系(落合層・登米層)から29点の計31試料の砂岩と礫岩を採取・記載し,全岩化学分析を行った.このうち,中~上部ペルム系からの砂岩2試料については,砕屑性ジルコンU–Pb年代測定を行った.
砂岩試料の大半は,石英・長石類を主成分とした長石質アレナイトで特徴づけられる.石英は波動消光を示し,長石類の多くはミルメカイトやパーサイトを呈する.これらの粒子は互いに入り組み,花崗岩片の様相を呈する場合がある.一部の試料は火山岩片も豊富に含む.礫岩は玄武岩質凝灰岩~火山礫凝灰岩,玄武岩質安山岩,流紋岩,閃緑岩,および花崗岩で構成され,火山岩礫は戸中層・大森山層や落合層下部で卓越する.落合層上部と登米層に含まれる礫岩は主に花崗岩礫からなる.
砂岩のSiO2は58–75 wt.%の間で変動する.Al2O3と他元素との間には相関がなく,組成変動をもたらす主な要因は砕屑粒子である.A–CN–K図では全ての試料が斜長石成分に富む組成を示し,イライト等の粘土鉱物によるK2Oの増加は認められない.これらは主に軽希土類元素の値が高く,重希土類元素が平坦なパターンを示し,Euの負の異常が認められる点で花崗岩礫や流紋岩礫のREEプロットと類似する.重希土類元素の枯渇が大きく,Euの負の異常が認めらない砂岩も一部含まれる.大半の試料は花崗岩・流紋岩礫と比べ高いCr含有量(約40–60 ppm)を有する.La–Th–Sc図およびV–Ni–Th*10図は安山岩領域との地球化学的親和性を示すが,これは花崗岩・流紋岩と玄武岩を由来とした砕屑粒子の混合物として解釈可能である.
また,砕屑性ジルコンU–Pb年代は主に320–280 Maの年代値で構成され,中~上部ペルム系は堆積年代よりも古いジルコンを豊富に含む.全岩化学組成による後背地・原岩推定と合わせて考えると,陸中大原地域東部の石炭系火山砕屑岩は,玄武岩・流紋岩由来の砕屑粒子および礫の供給源である可能性が高い.これは,南部北上帯の石炭系火山砕屑岩が玄武岩と流紋岩によるバイモーダル火山活動を記録しているという川村・川村(1989)の解釈と調和的である[2].320–280 Maの花崗岩類については阿武隈山地東縁(割山花崗岩体)や関東山地(金勝山閃緑岩)で認められ[3, 4],これらとの関連も踏まえ総合的な解釈を与えることが,ペルム紀における南部北上帯の後背地変遷を復元する上で重要となるだろう.
引用文献: [1] Yoshida and Machiyama (2004). Sediment. Geol., 166, 185–207. [2] 川村・川村 (1989). 地球科学, 43, 157–167. [3] Tsuchiya et al. (2015). Jour. Geol. Soc. Japan, 120, 37–51. [4] Ogasawara et al. (2016). Isl. Arc, 25, 28–42.
