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[T13-P-7]京都府北部舞鶴地域の舞鶴帯南帯市野瀬層群の再検討

*菅森 義晃1、栁沢 真悠花1 (1. 鳥取大学)
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キーワード:

夜久野オフィオライト、背弧海盆、ペルム紀、放散虫、下見谷層

 はじめに
西南日本内帯の舞鶴帯はペルム紀の島弧―背弧海盆系―大陸地殻で形成された地質体およびそれらを不整合に覆う三畳系からなる.京都府北部舞鶴地域の舞鶴帯は北東-南西方向に帯状分布し,北帯,中帯および南帯に区分される(加納ほか,1959).北帯は主に大陸地殻,中帯はペルム系舞鶴層群,三畳系砕屑岩から構成される.南帯は主に夜久野オフィオライトと呼ばれる火成岩類からなり(石渡,1978),市野瀬層群(猪木ほか,1961)と呼ばれる苦鉄質岩や砕屑岩からなる地層を伴うことが知られている.この市野瀬層群の造構的位置付けについては未だ確定されていない状況にある.そこで,筆者らは市野瀬層群の実態を明らかにすべく,京都府舞鶴市南東部の市野瀬層群を対象に研究を行った.
[地質概説]
研究地域には北からペルム系ロピンギアン統舞鶴層群,三畳系上部統Carnianの難波江層群,ペルム系市野瀬層群および変斑レイ岩類が分布している.舞鶴層群は砂岩および泥岩を主体とし,石灰岩を伴っている.難波江層群は主に砂岩および泥岩から構成される.両層群は全体として北北西方向に中角度で傾斜する層理面を持つ.市野瀬層群は,主に苦鉄質岩からなり,砕屑岩,チャートなどを伴う.難波江層群とは高角の断層で接すると判断した.南側の変斑レイ岩類とは断層で接することが示されていた(猪木ほか,1961)が,玄武岩と変斑レイ岩が密着接触する露頭を見出している.市野瀬層群は南東~南南東に急傾斜する層理面や葉状構造をもつものが多い.
[市野瀬層群の岩相,年代について]
市野瀬層群は苦鉄質岩を主体とし,礫岩,砂岩,泥岩,珪長質凝灰岩,赤色珪質泥岩,チャートおよび中間質~苦鉄質の深成岩を伴う.みかけの層厚は約1,000 mである.苦鉄質岩は玄武岩質の溶岩とハイアロクラスタイトからなる.赤色珪質泥岩およびチャートは苦鉄質岩に伴われることが多く,整合的に累重する場合も認められる.赤色チャートは放散虫化石をよく含む.多数のチャートに対してフッ酸および水酸化ナトリウムを用いた化学処理を行ったが,現時点では個体抽出にほぼ成功していない.砕屑岩は破断ないし分断しており,泥岩に砂岩や珪長質凝灰岩の岩塊が伴っている.周囲の苦鉄質岩とは断層ないし軽微なすべり面で接している.研究地域の市野瀬層群の赤色泥岩からペルム紀グアダルピアン世に特徴的な放散虫化石の産出報告があるが,化石写真は示されていない(Caridroit et al., 1985).今回,新たに珪長質凝灰岩からPseudotormentus kamigoriensis Caridroit and De Wever,Quadriremis cf. scale (Caridroit and De Wever),泥岩からP. kamigoriensisQuadriremis sp.等のペルム紀シスラリアン世後期~ロピンギアン世を示す放散虫化石を得た.
[考察]
本稿の市野瀬層群の帰属について考察する.これまで,研究地域付近の舞鶴帯で放散虫チャートを含む地質体は知られておらず,本研究で初めてその存在が明らかになった.舞鶴層群は一般的にチャートを含んでいないので,研究地域の市野瀬層群を舞鶴層群に帰属させることには著者らは消極的である.また,研究地域近傍において,放散虫チャートを含み,グアダルピアン世の泥岩を含む地質体としては超丹波帯のUT3ユニットを構成する地層がある(亀高ほか,2019;Sugamori and Ikeda, 2024)が,今回見出した舞鶴帯南帯の変斑レイ岩との地質学的関係を考慮すると,超丹波帯に帰属することも考えにくい.そのため,研究地域の市野瀬層群は舞鶴帯南帯を構成する地質体であると筆者らは今のところ考えている.ただし,研究地域外の市野瀬層群にはチャートが含有するか確認ができていないため,研究地域の市野瀬層群が市野瀬層群から独立した層序単元である可能性もある.ところで,舞鶴帯北帯の北側ないしその構造的下位には砕屑岩,珪長質凝灰岩,チャート(赤色珪長質凝灰岩)および苦鉄質岩からなる下見谷層があり(Ishiga and Suzuki,1984, 1988),研究地域の市野瀬層群と類似した岩相構成である.このことは,研究地域の市野瀬層群が舞鶴層群よりはむしろ下見谷層に近縁な地質体であることを示しているかもしれない.
【文献】
Caridroit et al. 1985,Earth Sci.(Chikyukagaku), 39, 36–45.; 猪木ほか,1961,5万分の1地質図幅「舞鶴」.; Ishiga and Suzuki,1984, Earth Sci.(Chikyukagaku), 38, 197–206.; Ishiga and Suzuki,1988, J. Geological Society Japan, 94, 493–499.; 石渡,1978,地球科学,32301–310.; 亀高ほか,2019,地質雑,125,793–820.; 加納ほか,1959,地質雑,65,267–271.; Sugamori and Ikeda, 2024, Revue de micropaléontologie, 85, 100806.