講演情報

[T13-P-12]紀伊半島東部領家深成岩類のジルコンU–Pb年代に基づくマイロナイト化の時期:三重県飯南地域の例

*李 琪1、竹内 誠1,2、淺原 良浩1 (1. 名古屋大学大学院環境学研究科、2. 産業技術総合研究所地質調査総合センター)
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【ハイライト講演】  紀伊半島東部の領家変成帯は,延性・脆性変形を被った火成岩と低P /T 型変成岩から構成されており,この変形履歴は,後期白亜紀ユーラシア大陸東縁の火山弧隆起の地殻変動過程を理解する鍵となる.この研究では年代測定を実施し,変形の産状区分と組み合わせることによりマイロナイト化の回数や時期について新たな制約を与えるものである. ※ハイライト講演とは...

キーワード:

マイロナイト、ジルコンU−Pb年代、白亜紀、領家深成岩類、三重県


 紀伊半島東部の領家変成帯は,延性・脆性変形を被った火成岩と低P/T型変成岩から構成されており,この変形履歴は,後期白亜紀ユーラシア大陸東縁の火山弧隆起の地殻変動過程を理解する鍵となる.
 領家変成帯の火成活動とマイロナイト化の時期を理解するために,三重県松阪市飯南地域の領家深成岩類のジルコンU−Pb年代測定を行った.この地域の領家深成岩類は,菅野トーナル岩(約102, 98 Ma),赤岩谷トーナル岩(約94 Ma),横野花崗閃緑岩(約91, 90, 88 Ma),神末トーナル岩(約88 Ma),栂坂花崗岩(約87 Ma),畑井トーナル岩(約84 Ma),黒雲母花崗岩(約80 Ma),美杉トーナル岩(約73 Ma)の8岩体に分類される.従来,畑井トーナル岩は横野花崗閃緑岩に貫入されるとされてきたが(端山ほか,1982),畑井トーナル岩が横野花崗閃緑岩に貫入する露頭を発見した.ジルコン年代は横野花崗閃緑岩より畑井トーナル岩の方が若い年代を示し,これを支持する.
 マイロナイト化した岩体と非変形あるいは異なるタイプのマイロナイト化した岩体の地質関係およびジルコンU−Pb年代で,マイロナイト化の時期を制約することによって,M1からM3の3段階のマイロナイト化が認められた.横野花崗閃緑岩をはじめとして,それより古い岩体には石英の微細構造として高温変形のGrain Boundary Migration (GBM)を伴う面構造が発達し,横野花崗閃緑岩は岩体全体的にポーフィロクラストが目立つマイロナイトとなっている.この横野花崗閃緑岩に畑井トーナル岩が岩脈として貫入し,この岩脈は83.7 ± 0.6 MaのジルコンU−Pb年代を示す.両者の変形様式は異なるので,横野花崗閃緑岩にみられる延性変形(M1)は,横野花崗閃緑岩から得られた最も若い年代88.3 ± 1.0 Ma以降,畑井トーナル岩岩脈の83.7 ± 0.6 Ma 以前に起こったと考えられる.畑井トーナル岩(83.8 ± 0.8 Ma,本研究;84.5 ± 1.6 Ma, 竹内ほか,2025)の岩体全体にみられるマイロナイト化に伴う石英の微変形構造は,中温変形のSubgrain Rotation(SGR)を示す(M2a).このマイロナイト構造に斜交する幅の狭い,低温変形のBulging(BLG)を示す延性剪断帯(M2b)が確認され,それと平行に未変形の苦鉄質〜中間質岩岩脈(約75 Ma,檜垣ほか,2025)が貫入する.これらは,M2aは約84 Ma以降75 Ma以前,M2bは約75 Maの苦鉄質〜中間質岩岩脈貫入の直前または同時に起こった可能性を示している.M2b剪断帯は狭長な分布をするが,その産状には2つのタイプが認められる.一つは,横野花崗閃緑岩と畑井トーナル岩の境界及びそれに平行に東西走向でほぼ鉛直傾斜するものと,畑井トーナル岩体内にNW−SE走向で北に中〜低角に傾斜するものである.本研究によって,畑井トーナル岩の黒雲母K−Ar年代73.5 ± 1.7 Maが得られた.この年代はM2bステージの畑井トーナル岩の隆起による冷却年代と考えられる.
 本地域の西方には,69.3 ± 0.8 MaのジルコンU–Pb年代の三峰山トーナル岩が分布し,これらもマイロナイト化を受けている(竹内ほか,2025).先行研究(例えば,Sakakibara, 1995; 島田ほか,1998)は2回のマイロナイト化を主張しているが,本研究の結果,横野花崗閃緑岩貫入後のM1,畑井トーナル岩貫入後苦鉄質〜中間質岩岩脈貫入までのM2,三峰山トーナル岩貫入後の3回のマイロナイト化が起こったことが明らかになった.

引用文献
端山ほか(1982)地質学雑誌,88, 451−466.檜垣悠斗ほか(2025)日本地質学会第132年学術大会ポスター発表. Sakakibara (1995) Jour. Sci. Hiroshima Univ., Ser. C, Earth Planet. Sci., 10, 267−332.島田ほか(1998)地質学雑誌,104, 825−844.竹内ほか(2025)高見山図幅,地質調査総合センター.