講演情報
[T13-P-14]北九州市門司区黒川地域,白亜系高津尾層(脇野亜層群)から見出された石灰岩礫の岩相と地質学的意義
*星木 勇作1,2、星木 美恵1,2 (1. 株式会社Geostack、2. 北九州市立自然史・歴史博物館自然史友の会)
キーワード:
高津尾層、脇野亜層群、石灰岩礫、岩相、マイクロコディウム、鳥の眼構造、ウーイド
福岡県北九州市門司区の北西部には,主に非海成堆積物からなる白亜系脇野亜層群が広く分布しており,本層は下位の秋吉帯古生界と断層または不整合で接する(中江ほか,1998).市内の脇野亜層群からは,秋吉帯の海山型石灰岩を原岩とする石灰岩礫から多数のフズリナやサンゴ化石が図示されてきたが(例えば,曾塚,1975),岩相に関する地質学的データの蓄積は十分とは言えない.今回筆者らは,門司区黒川地域に分布する高津尾層(脇野亜層群下部層)中の礫岩を検討する中で,いくつかの特徴的な岩相を示す石灰岩礫を見出した.本講演では,それらの岩相上の特徴と地質学的意義について報告を行う.
今回筆者らが検討を行ったのは,市立東郷中学校から約1km北方で採取された礫岩の転石試料である.本試料は灰色〜暗灰色を呈する細礫~中礫サイズの石灰岩礫を主体とし,これに玄武岩,砂岩およびチャート礫などが伴われる.各礫の円磨・淘汰度は一般に低く,基質は主に淡緑色を呈する中~粗粒砂岩からなる.本研究では調査地域から採取した20以上の試料から300枚以上の岩石薄片を作製し,観察を行った.その結果,検討試料中の石灰岩礫は比較的保存状態が良く,多様な岩相を示すことが明らかとなった.以下,本研究で観察された石灰岩礫の岩相のうち,特徴的な3岩相,すなわち(1)マイクロコディウム石灰岩,(2)鳥の眼構造の発達する泥質石灰岩,(3)ウーイド石灰岩について記載と推定される形成環境などについて記す.
(1)マイクロコディウム石灰岩:本石灰岩は黒色~暗灰色を呈する数mm~1.5cm程度の石灰岩礫として観察される.鏡下においてマイクロコディウム(microcodium)はトウモロコシの穂軸または花弁状の形態を示す褐色~黒褐色の方解石結晶として認められる.近年の研究で,マイクロコディウムは植物根の石灰化(Košir, 2004)あるいは腐生菌による鉱物化(Kabanov et al., 2008)によって形成されたことが示されており,石灰岩の陸上露出を示唆する組織として知られている.(2)鳥の眼構造の発達する泥質石灰岩:本石灰岩は主に生砕物をほとんど含まないlime-mudstoneからなる.この泥質な堆積物中に発達する鳥の眼構造(birds-eye structure)は,不規則な形態を示し,内部を透明方解石で充填された空隙として観察される.このような特徴を有する石灰岩は,潮間帯~潮上帯環境において特徴的に認められ(Flügel, 2004),これは干潟の堆積物であると考えられる.(3)ウーイド石灰岩:本石灰岩は灰色~明灰色を呈する2~3センチ程度の石灰岩礫として観察される.主にウーイド粒子を主体とし,石灰泥基質をほとんど含まないooid grainstoneからなる.その他の構成粒子としては石灰藻やウミユリ片などが観察され,いずれの粒子も比較的よく円磨されている.このような岩相を示す石灰岩は潮間帯~潮下帯の波や潮流の影響を大きく受ける高エネルギー環境下で形成され(Flügel, 2004),これはサンドバーや砂州の堆積物であると推定される.
北九州市内には平尾石灰岩に代表される比較的規模の大きな石灰岩ブロックが点在しているが,いずれのブロックも花崗岩類の貫入を受け再結晶化が進んでおり,初生的な情報が失われている場合が多い.一方で,古生代の石灰岩を原岩とする脇野亜層群中の石灰岩礫は,上述のとおり保存状態が比較的良好であり多様な岩相を示すことから,再結晶化により大部分が失われてしまった市内の古生代石灰岩の堆積学的情報をうかがい知ることのできる重要な情報源となりえる.今回報告を行った石灰岩の各岩相は,現在のところ,九州島内の秋吉帯において他に知られておらず,今回が初めての報告となる.また,本研究で扱った礫岩試料からはその他にも様々な岩相を示す石灰岩礫が観察され,保存の良い有孔虫化石も多数認められることから,今後の追加的な検討でより多くの情報が蓄積可能である.以上のことから,黒川地域の石灰岩礫は古生物学・堆積学の両面で意義深い研究対象といえる.
引用文献:Flügel, E., 2004, Microfacies of Carbonate Rocks. Springer, Berlin, 976p;Kabanov, P. et al., 2008, Sediment. Geol., 205, 79-99;Košir, A., 2004, Jour. Sediment. Res., 74, 845-857;中江 訓ほか,1998,地域地質研究報告(5 万分の1 地質図幅),地質調査所,126p;曾塚 孝,1975,秋吉台科学博物館報告,11,13-24.
今回筆者らが検討を行ったのは,市立東郷中学校から約1km北方で採取された礫岩の転石試料である.本試料は灰色〜暗灰色を呈する細礫~中礫サイズの石灰岩礫を主体とし,これに玄武岩,砂岩およびチャート礫などが伴われる.各礫の円磨・淘汰度は一般に低く,基質は主に淡緑色を呈する中~粗粒砂岩からなる.本研究では調査地域から採取した20以上の試料から300枚以上の岩石薄片を作製し,観察を行った.その結果,検討試料中の石灰岩礫は比較的保存状態が良く,多様な岩相を示すことが明らかとなった.以下,本研究で観察された石灰岩礫の岩相のうち,特徴的な3岩相,すなわち(1)マイクロコディウム石灰岩,(2)鳥の眼構造の発達する泥質石灰岩,(3)ウーイド石灰岩について記載と推定される形成環境などについて記す.
(1)マイクロコディウム石灰岩:本石灰岩は黒色~暗灰色を呈する数mm~1.5cm程度の石灰岩礫として観察される.鏡下においてマイクロコディウム(microcodium)はトウモロコシの穂軸または花弁状の形態を示す褐色~黒褐色の方解石結晶として認められる.近年の研究で,マイクロコディウムは植物根の石灰化(Košir, 2004)あるいは腐生菌による鉱物化(Kabanov et al., 2008)によって形成されたことが示されており,石灰岩の陸上露出を示唆する組織として知られている.(2)鳥の眼構造の発達する泥質石灰岩:本石灰岩は主に生砕物をほとんど含まないlime-mudstoneからなる.この泥質な堆積物中に発達する鳥の眼構造(birds-eye structure)は,不規則な形態を示し,内部を透明方解石で充填された空隙として観察される.このような特徴を有する石灰岩は,潮間帯~潮上帯環境において特徴的に認められ(Flügel, 2004),これは干潟の堆積物であると考えられる.(3)ウーイド石灰岩:本石灰岩は灰色~明灰色を呈する2~3センチ程度の石灰岩礫として観察される.主にウーイド粒子を主体とし,石灰泥基質をほとんど含まないooid grainstoneからなる.その他の構成粒子としては石灰藻やウミユリ片などが観察され,いずれの粒子も比較的よく円磨されている.このような岩相を示す石灰岩は潮間帯~潮下帯の波や潮流の影響を大きく受ける高エネルギー環境下で形成され(Flügel, 2004),これはサンドバーや砂州の堆積物であると推定される.
北九州市内には平尾石灰岩に代表される比較的規模の大きな石灰岩ブロックが点在しているが,いずれのブロックも花崗岩類の貫入を受け再結晶化が進んでおり,初生的な情報が失われている場合が多い.一方で,古生代の石灰岩を原岩とする脇野亜層群中の石灰岩礫は,上述のとおり保存状態が比較的良好であり多様な岩相を示すことから,再結晶化により大部分が失われてしまった市内の古生代石灰岩の堆積学的情報をうかがい知ることのできる重要な情報源となりえる.今回報告を行った石灰岩の各岩相は,現在のところ,九州島内の秋吉帯において他に知られておらず,今回が初めての報告となる.また,本研究で扱った礫岩試料からはその他にも様々な岩相を示す石灰岩礫が観察され,保存の良い有孔虫化石も多数認められることから,今後の追加的な検討でより多くの情報が蓄積可能である.以上のことから,黒川地域の石灰岩礫は古生物学・堆積学の両面で意義深い研究対象といえる.
引用文献:Flügel, E., 2004, Microfacies of Carbonate Rocks. Springer, Berlin, 976p;Kabanov, P. et al., 2008, Sediment. Geol., 205, 79-99;Košir, A., 2004, Jour. Sediment. Res., 74, 845-857;中江 訓ほか,1998,地域地質研究報告(5 万分の1 地質図幅),地質調査所,126p;曾塚 孝,1975,秋吉台科学博物館報告,11,13-24.
