講演情報

[T13-P-16]牟婁層群・熊野層群の層序に基づく「サラシ首層」の成因と層序学的帰属の検討

*川並 仁美1、藤野 滋弘1、原田 駿介1 (1. 筑波大学)
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【ハイライト講演】  サラシ首層は紀伊半島南部に分布する奇妙な地層である.径数メートルの巨礫を含む特異な含角礫泥岩層で帰属や成因についてこれまで多様な意見が提出され議論されてきた.この研究では現地の緻密な産状観察と堆積相解析によりこの問題を解決しようとするものである. ※ハイライト講演とは...

キーワード:

含角礫泥岩層、泥火山、熊野層群、牟婁層群、中新世


 紀伊半島南端に分布する「サラシ首層」は径数メートルの巨礫を含む特異な含角礫泥岩層である.「サラシ首層」の層序学的帰属については未だ議論が続いており,付加体である牟婁層群の最上位層であるとする見解(鈴木ほか, 2012)と付加体を覆う前弧海盆堆積物の熊野層群に属するという見解(甲藤ほか, 1976)が存在する.また,「サラシ首層」の成因についても泥火山活動に伴ってできた層であるという説や(Lewis and Byrne, 1996; 潮崎・宮田, 2012),オリストストロームまたは海底地すべり堆積物であるという説(久富ほか, 1980; 別所ほか2024)が提唱されている.本研究では「サラシ首層」の成因と層序学的帰属を明らかにするため,「サラシ首層」が露出する田子地域と,牟婁層群と熊野層群の間の不整合が露出する田ノ崎地域において地質野外調査を実施した.
田子地域における含角礫泥岩層(サラシ首層)では細礫~巨礫の角礫が泥基質中に散在し,層厚約300 mで礫の長径は最大で約5 mであった.また,泥火山活動に関連して形成された (Lewis and Byrne, 1996) とされる,複数の礫が集合して一つの礫を作っているような「分解型」(久富ほか, 1980)の砂岩礫がみられた.田子地域の含角礫泥岩層は上位で砂岩層と互層しながら礫岩砂岩互層に漸移し,砂岩層にはハンモック状斜交層理やMacaronichnus segregatis sp., Ophiomorpha sp.などの生痕化石がみられた.堆積構造と生痕化石からこれらの砂岩層は水深数十mまでの浅海底で堆積したことが示唆される(Cheel and Leckie, 1992).「サラシ首層」の含角礫泥岩層が上位の浅海底堆積物に漸移していることから,「サラシ首層」の少なくとも最上部は浅海底で堆積したと考えられる.したがって,「サラシ首層」が陸棚縁の崩壊によって深海底に堆積した大規模海底地すべりの堆積物と考えるよりも,陸棚や前弧海盆上に噴出した泥火山活動によって形成されたと考える方がこの層序関係をよく説明できる.また,「サラシ首層」の含角礫泥岩層は付加体の牟婁層群ではなく前弧海盆堆積体の熊野層群に属すると考えるのが妥当である.田ノ崎地域では牟婁層群田並川層(鈴木ほか, 2012)の上位に不整合で熊野層群下里層(久富, 1981)が重なる.田ノ崎における牟婁層群田並川層は高角に傾斜した砂岩泥岩互層で,一部で褶曲し破砕されていた.不整合上位の熊野層群下里層は北東走向南傾斜の砂岩泥岩互層で,平行葉理と生痕化石が発達していた.不整合面から層厚にして約25 m上位の層準には層厚約2 mで細礫~中礫の角礫が泥基質中に散在する含角礫泥岩層がみられた.また,この含角礫泥岩層には「分解型」の砂岩礫がみられた.田ノ崎地域の含角礫泥岩層と田子地域の「サラシ首層」は層厚などが異なるため,両者を同一の堆積物として対比することは難しい.しかしながら,田ノ崎地域において下位の牟婁層群には含角礫泥岩層が見られなかった一方上位の熊野層群には「分解型」の礫を含む含角礫泥岩層が見られたという事実は,「サラシ首層」を堆積させたような現象が熊野層群堆積時に発生していたことを示唆する.紀伊半島に分布する中新統の田辺層群や熊野層群には含角礫泥岩層が複数あることが知られている(e.g. 中屋・浜田, 2009; 鈴木・紀州四万十団体研究グループ, 2007).田子地域の「サラシ首層」も田ノ崎に分布する含角礫泥岩層も,中新世に前弧海盆域で泥火山が活発に活動していたことを示す地質記録であると考えられる.
引用文献
別所ほか, 2024, 地質学雑誌, 130, no.1, 35–54.
Cheel and Leckie, 1992, Journal of Sedimentary Research, 62, no.6, 933–945.
久富ほか, 1980, 地球科学, 34, no. 2, 73–91.
久富, 1981, 地質学雑誌, 87, no.3, 157–174.
甲藤ほか, 1976, 高知大学学術研究報告, 24, no.15, 133–142.
Lewis and Byrne, 1996, Geology, 24, no. 4, 303–306.
中屋・浜田, 2009, 地学雑誌, 118, no.3, 472–491
潮崎・宮田, 2012, 日本地質学会第119年学術大会講演要旨.
鈴木・紀州四万十団体研究グループ, 2007, 日本地質学会第114年学術大会講演要旨
鈴木ほか, 2012, 地学団体研究会専報, 59, 71–86.