講演情報
[T13-P-17]鹿児島県種子島中部に分布する熊毛層群の赤色泥岩及びゲーサイトコンクリーションから産出した放散虫化石と地質年代
*菊川 照英1,2、古川 登3、相田 吉昭4 (1. 千葉県立中央博物館、2. 名古屋大学、3. 千葉大学、4. 宇都宮大学)
キーワード:
放散虫、付加複合体、始新世、漸新世、地質図
鹿児島県種子島には熊毛層群(半沢,1934)と呼ばれる海成古第三系が分布する。本層群は西南日本外帯の四万十帯南帯を構成する付加体とその被覆層として九州本土の日向・日南層群に対比されてきた(例えば,斎藤,2022).種子島に分布する熊毛層群は始新世から漸新世の地層群で構成され,下位から立石層,門倉岬層,西之表層と区分・命名されている(岡田ほか,1982).
最近,菊川ほか(2018; 2024)は種子島北部に分布する西之表層と門倉岬層の層序・地質構造・年代に関する詳細な検討を行い,本島北部において門倉岬層が分布するとされてきた一部地域において,実際には西之表層が分布することを明らかにした.従い,熊毛層群の分布域や地質構造は従来言及されてきたよりも遥かに複雑であり,本層群の地質を明らかにするためには,本島中部や南部においても詳細な地質調査と微化石年代による地質の再検討が不可欠である.
これらの背景から筆者らは,種子島中部に分布する熊毛層群の地質調査を行い,泥岩及びコンクリーション試料から抽出した放散虫化石を用いて地質年代を検討し,本島北部の熊毛層群との層位的関係を明らかにするための検討を行なってきた.本研究では,種子島中部から採取した計184層準184個の灰色及び赤色泥岩とコンクリーション試料を検討した結果について報告する.さらに,微化石が産出したコンクリーション試料の鉱物組成についても報告する.
検討の結果,内陸部の2地点から採取した赤色泥岩(それぞれ3試料、1試料)から比較的保存良好な放散虫化石が産出した.前者の赤色泥岩3試料(隣接するほぼ同層準)からはCalocyclas turris, Cryptocarpium azyx, Dictyoprora mongolfieri, Podocyrtis acalles, P. ampla, P. phyxisといった種が,後者の赤色泥岩1試料からはC. cf. turris, C. cf. azyx, D. mongolfieriといった種が産出した.
コンクリーション試料のうち、西海岸部で採取した1試料からはArtophormis cf. gracilis, Theocyrtis setanios, Spirocyrtis cf. proboscis, Theocorys bianulus, Lophocyrtis, inaequalis, Lithocyclia angustaといった種が産出した.XRD分析によりコンクリーションの鉱物組成を求めた結果,本コンクリーションの外殻は主にゲーサイト(FeOOH)で,中心部は母岩と同様な石英や斜長石といった砕屑性堆積物で構成されていた.上述した放散虫化石はコンクリーション中心部から産出した.
赤色泥岩から産出したC. turrisやC. azyxといった種の生存期間(Kamikuri et al., 2012)を考慮すると,その地質年代は後期始新世(放散虫化石帯RP17帯からRP19帯下部)にあたると考えられる.一方で,ゲーサイトコクリーションから産出したT. setaniosやL. angustaといった種の生存期間(Kamikuri et al., 2012)を考慮するとその地質年代は前期漸新世の後期(放散虫化石帯RP20c帯からRP21a帯下部)にあたると考えられる.前者は門倉岬層の年代と,後者は西之表層の年代と矛盾しない(菊川ほか, 2018; 2024).
種子島北部に広く分布する西之表層からもT. setaniosやL. angustaといった種を含む放散虫化石群集が産出している(菊川ほか, 2018).さらに本研究で検討したコンクリーションを採取した地層付近では,西之表層上部に特徴的な厚層砂岩層が観察される.以上の点から,本試料を採取した西海岸部には西之表層が分布していると考えらえる.一方,種子島北部に分布する門倉岬層の赤色泥岩から産出した放散虫化石に基づく地質年代は中期始新世の後期(放散虫化石帯RP16帯;菊川ほか, 2024)と,本研究で明らかとなった赤色泥岩の年代の方が若干若い.そのため,本研究で検討した地域には本島北部の赤色泥岩の上位層準及びほぼ同時代の層準が分布していると考えられる.
【参考文献】
半沢,1934,地質雑,41,408-410.
Kamikuri et al., 2012, Stratigraphy, 9, 77-108.
菊川ほか,2018,地質雑,124,313-329.
菊川ほか,2024,地質雑,130,313-328.
岡田ほか,1982,大阪微化石研究会誌特別号,5,409-413.
斎藤,2022,日本列島地質総覧:地史・地質環境・資源・災害,337-349.
最近,菊川ほか(2018; 2024)は種子島北部に分布する西之表層と門倉岬層の層序・地質構造・年代に関する詳細な検討を行い,本島北部において門倉岬層が分布するとされてきた一部地域において,実際には西之表層が分布することを明らかにした.従い,熊毛層群の分布域や地質構造は従来言及されてきたよりも遥かに複雑であり,本層群の地質を明らかにするためには,本島中部や南部においても詳細な地質調査と微化石年代による地質の再検討が不可欠である.
これらの背景から筆者らは,種子島中部に分布する熊毛層群の地質調査を行い,泥岩及びコンクリーション試料から抽出した放散虫化石を用いて地質年代を検討し,本島北部の熊毛層群との層位的関係を明らかにするための検討を行なってきた.本研究では,種子島中部から採取した計184層準184個の灰色及び赤色泥岩とコンクリーション試料を検討した結果について報告する.さらに,微化石が産出したコンクリーション試料の鉱物組成についても報告する.
検討の結果,内陸部の2地点から採取した赤色泥岩(それぞれ3試料、1試料)から比較的保存良好な放散虫化石が産出した.前者の赤色泥岩3試料(隣接するほぼ同層準)からはCalocyclas turris, Cryptocarpium azyx, Dictyoprora mongolfieri, Podocyrtis acalles, P. ampla, P. phyxisといった種が,後者の赤色泥岩1試料からはC. cf. turris, C. cf. azyx, D. mongolfieriといった種が産出した.
コンクリーション試料のうち、西海岸部で採取した1試料からはArtophormis cf. gracilis, Theocyrtis setanios, Spirocyrtis cf. proboscis, Theocorys bianulus, Lophocyrtis, inaequalis, Lithocyclia angustaといった種が産出した.XRD分析によりコンクリーションの鉱物組成を求めた結果,本コンクリーションの外殻は主にゲーサイト(FeOOH)で,中心部は母岩と同様な石英や斜長石といった砕屑性堆積物で構成されていた.上述した放散虫化石はコンクリーション中心部から産出した.
赤色泥岩から産出したC. turrisやC. azyxといった種の生存期間(Kamikuri et al., 2012)を考慮すると,その地質年代は後期始新世(放散虫化石帯RP17帯からRP19帯下部)にあたると考えられる.一方で,ゲーサイトコクリーションから産出したT. setaniosやL. angustaといった種の生存期間(Kamikuri et al., 2012)を考慮するとその地質年代は前期漸新世の後期(放散虫化石帯RP20c帯からRP21a帯下部)にあたると考えられる.前者は門倉岬層の年代と,後者は西之表層の年代と矛盾しない(菊川ほか, 2018; 2024).
種子島北部に広く分布する西之表層からもT. setaniosやL. angustaといった種を含む放散虫化石群集が産出している(菊川ほか, 2018).さらに本研究で検討したコンクリーションを採取した地層付近では,西之表層上部に特徴的な厚層砂岩層が観察される.以上の点から,本試料を採取した西海岸部には西之表層が分布していると考えらえる.一方,種子島北部に分布する門倉岬層の赤色泥岩から産出した放散虫化石に基づく地質年代は中期始新世の後期(放散虫化石帯RP16帯;菊川ほか, 2024)と,本研究で明らかとなった赤色泥岩の年代の方が若干若い.そのため,本研究で検討した地域には本島北部の赤色泥岩の上位層準及びほぼ同時代の層準が分布していると考えられる.
【参考文献】
半沢,1934,地質雑,41,408-410.
Kamikuri et al., 2012, Stratigraphy, 9, 77-108.
菊川ほか,2018,地質雑,124,313-329.
菊川ほか,2024,地質雑,130,313-328.
岡田ほか,1982,大阪微化石研究会誌特別号,5,409-413.
斎藤,2022,日本列島地質総覧:地史・地質環境・資源・災害,337-349.
