講演情報
[T13-P-19]アパタイト微量元素組成を用いた南東北に分布する中新世-第四紀の凝灰岩と海洋コアに挟在する凝灰岩との対比の試み
*冨樫 琴美1、髙嶋 礼詩2、折橋 裕二3、淺原 良浩4、永橋 こう輝5、北見 匠6、黒柳 あずみ2 (1. 東北大学理学研究科地学専攻、2. 東北大学学術資源研究公開センター 東北大学総合学術博物館、3. 弘前大学大学院理工学研究科、4. 名古屋大学院環境学研究科地球環境科学専攻、5. 伊藤忠エネクス株式会社、6. 日本工営株式会社)
【ハイライト講演】 奥羽脊梁地域には新生代後期の大規模陥没カルデラが多数分布しているが,それぞれのテフラ物質の識別・対比は不十分である.この研究ではアパタイトの微量分析とジルコン年代測定にもとづいて陸上のカルデラ噴出物と三陸沖の海洋コアとの対比を試みるものである.このような基礎データを蓄積することで広域テフラの指標を中新世まで押し広げることができる. ※ハイライト講演とは...
キーワード:
新第三紀、カルデラ、アパタイト、微量元素組成、ジルコンU–Pb年代
はじめに
東北日本の奥羽脊梁地域では新第三紀後期から第四紀前期にかけて多数の大規模陥没カルデラが形成されたことが知られている(吉田ほか, 2005).しかし,これらのカルデラ噴出物の多くはカルデラ充填火砕流堆積物(intracaldera pyroclastic flow deposit; Lipman, 1984)としての特徴が認識されてこなかったことや,変質もしくは溶結により火山ガラスが本来の化学組成を保持していないことにより,火砕流堆積物やテフラの識別・対比が十分になされていない.近年,火山ガラスが変質した火砕流堆積物やテフラに対しても,続成作用に強いアパタイトなどの重鉱物の化学組成に基づいて識別・対比がなされるようになってきた(Takeshita et al., 2016; Takashima et al., 2017).本研究では,山形県・福島県・新潟県に分布する新第三紀中新世~第四紀のカルデラ噴出物を対象に,アパタイト微量元素組成とジルコンのU-Pb年代を測定した.また,三陸沖海洋コアIODP Leg. 186のSite 1150,1151およびDSDP Leg. 56のSite 436,Leg. 57のSite 438,439に狭在する火山灰層に含まれるアパタイトについても微量元素組成を分析し,上記のカルデラ噴出物と対比できるか検討した.これにより,東北日本における中新世~第四紀の火砕流堆積物に関する基礎データを蓄積することで中新世~第四紀のテフラ広域対比の指標をつくり,カルデラ火成活動史の解明に寄与することを目的とした.
地質概説
南東北に分布するカルデラは,中新世後期から第四紀にかけて形成されたものが多数である.本研究では,以下の7つのカルデラより試料を採取した.
① 奥只見カルデラ(5Ma; 山口, 未公表):奥只見緑色凝灰岩層.奥只見湖の東岸に位置するカルデラで,直径約7 km.② 山王峠カルデラ(6.9Ma; NEDO, 1987):カルデラ形成期火砕堆積物(溶結凝灰岩).貝鳴山の北西約2 kmを中心に位置するカルデラで,直径約13 km.③ 木賊カルデラ(6.6Ma; K-Ar; NEDO, 1985):湯ノ花層(珪長質溶結凝灰岩).木賊温泉を中心に位置するカルデラで,直径約12 km.④ 宮沢カルデラ(5.7Ma; NEDO, 1987):カルデラ形成期火砕堆積物(軽石凝灰岩).牛首山の東方約2 kmを中心に位置するカルデラで,直径約3.5 km.⑤ 城ノ入沢カルデラ(5.6Ma; ジルコンFt; 山元, 1999):城ノ入沢層の鶴沼川火砕流堆積物(軽石凝灰岩).城入沢下流域から天栄村大平にかけて位置するカルデラで,直径約10 km.⑥ 荒沢岳カルデラ(4.3Ma; 全岩K-Ar; 茅原・小松, 1992):荒沢岳デイサイト(結晶質凝灰岩).荒沢岳の南東約1 kmを中心に位置するカルデラで,径約9×5 km.⑦ 塔のへつりカルデラ(1.4-1.2Ma; ジルコンFt; 山元, 1999; 山元ほか, 2006):塔のへつり層の芦野火砕流堆積物(結晶質凝灰岩).下郷町湯野上から西郷村甲子にかけて位置するカルデラで,径約17×15 km.
アパタイト微量元素組成の結果
アパタイト微量元素組成により,福島県・新潟県に分布する奥只見・城ノ入沢・荒沢岳・塔のへつりカルデラの4つの噴出物を識別することができた.また,三陸沖海洋コアとの対比を試みた結果,木賊カルデラおよび城ノ入沢カルデラの噴出物においてアパタイト微量元素組成が対比できる可能性が示唆された.しかし,木賊カルデラのアパタイトは東北日本の花崗岩で見られる微量元素組成を有しているため,対比の可能性にはさらなる検討が必要である.一方,山王峠カルデラおよび宮沢カルデラの噴出物には分析に十分な量のアパタイトが含まれていなかったため,今後異なる地点からのサンプリングを実施する予定である.今回調査を実施したカルデラの年代値は1980年代~1990年代に測定されたK-Ar年代やジルコンのフィッション・トラック年代であるため,より続成作用に耐性のあるジルコンのU-Pb年代と海洋コアの微化石年代の両者で検証していく必要がある.
引用文献
茅原・小松, 1992, 八海山地域の地質
Lipman, 1984, J. Geophys. Res., 89, 8801–8841
NEDO, 1985, 1987, 地熱開発促進調査報告書. 南会津,那須地域(未公表資料)
Takashima et al., 2017, Quat. Geochronology, 41, 151–162
Takeshita et al., 2016, Quat. International, 397, 27–38
山元, 1999, 田島地域の地質
山元ほか, 2006, 喜多方地域の地質
吉田ほか, 2005, 第四紀研究, 44, 195–216
