講演情報

[T13-P-20]下北半島北東部に露出する中新統・蒲野沢層からの熊野カルデラ由来のテフラの発見.

*辻本 大暉1、髙嶋 礼詩2、星 博幸3、新正 裕尚4、黒柳 あずみ2 (1. 東北大学大学院理学研究科地学専攻、2. 東北大学学術資源研究公開センター東北大学総合学術博物館、3. 愛知教育大学、4. 東京経済大学)
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キーワード:

中期中新世、テフラ、下北半島、熊野カルデラ、アパタイト微量元素分析

 日本列島において中新世の広域テフラは鮮新世・第四紀のものと比較して報告例が少なく,中新世のテフロクロノロジーに関する研究は鮮新世・第四紀のものと比較して遅れている.しかし近年,房総半島の木ノ根層Kn-1凝灰岩の基底部を除く大部分と新潟堆積盆の七谷層Kbi テフラは,中期中新世に活動した熊野カルデラが給源であることが明らかになった (檀原ほか,2007; 工藤ほか,2011; 髙嶋ほか,2018). この火山灰は中期中新世の堆積盆間の広域対比を行う上で,非常に有効な指標となる可能性が期待されている.
本研究では青森県下北半島北東部に分布する蒲野沢層下部に挟まる細粒凝灰岩について詳細な検討を行ったところ,熊野カルデラを給源とする可能性が高いことが明らかとなったので,ここに報告する.
蒲野沢層は下北半島の北東部に分布する.岩相は泥岩を主体とし,一部層準で礫岩,砂岩および火山砕屑岩を伴う.今回見つかったテフラは,青森県東通村南西部の青平川上流部において,蒲野沢層下部の泥岩中に挟在する.このテフラは層厚が最大で20 cmであり,灰白色を呈する.細粒砂サイズの粒子を主体とし,肉眼でも黒雲母を多く含む.青平川の珪藻化石分析 (秋葉・平松,1988; 芳賀・山口,1990) に基づくと,このテフラは珪藻化石帯区分 (Akiba, 1986; Yanagisawa and Akiba, 1998) のNPD4A帯に含まれる.また,芳賀・山口 (1990) によると,C. nicobaricaの初産出 (14.8 Ma) が今回見つかったテフラの直下にあり,中期中新世当時のこの地域の堆積速度が1万年あたり厚さ7 mであることから (工藤ほか,2020),このテフラは14.8 Maに堆積したと考えられる.これは熊野カルデラにおけるジルコンのU-Pb年代である15.11± 0.69 Ma (Shinjoe et al., 2019),熊野カルデラにおける火砕流堆積物と火砕岩脈のジルコンFT年代はそれぞれ15.1± 0.2 Ma ,14.6± 0.2 Ma (岩野ほか,2007) でありいずれの値とも矛盾しない.
このテフラについて,重鉱物組成分析,アパタイトの微量元素組成分析,火山ガラスの主成分・微量元素組成分析,黒雲母の主成分元素組成分析をおこなった.本テフラは重鉱物のうち,黒雲母,チタン鉄鉱,磁鉄鉱,ジルコン,アパタイトが含まれており,熊野カルデラ由来の遠方テフラである木ノ根層Kn-1凝灰岩と七谷層Kbiテフラと記載岩石学的特徴が類似する.蒲野沢層中の細粒凝灰岩のアパタイト微量元素を分析した結果,熊野カルデラの火砕流堆積物である尾鷲白浜火砕岩類と木ノ根層Kn-1凝灰岩に含まれるアパタイトの微量元素と一致した.また,黒雲母主成分元素を分析した結果,熊野カルデラ由来の遠方テフラと推定されている木ノ根層Kn-1凝灰岩と一致した.以上より下北半島の蒲野沢層下部で見つかったテフラは熊野カルデラ由来である可能性が高いと考えられる. 
今回の熊野カルデラ由来のテフラの発見は,房総半島のKn-1凝灰岩,新潟堆積盆の七谷層Kbiテフラに続き (檀原ほか,2007; 工藤ほか,2011; 髙嶋ほか,2018),3例目である.本地域はKbiテフラが見つかった新潟県加茂市駒出川よりもさらに遠く,給源から約1000 kmも離れている.これは熊野カルデラの火山灰が東北地方北部にまで分布していることを示唆している.

引用文献
Akiba, F., 1986, Initial Reports of the Deep Sea Drilling Project, U. S. Government Printing Office, Washington D. C., 87, 393 480.
秋葉文雄・平松力,1988,第三紀珪質岩の総合研究,昭和62年度科学研究費補助金(総合研究A)研究成果報告書,35–51.
檀原徹ほか,2007,地質学雑誌,113,384-389.
芳賀・山口,1990,国立科学博物館報告,16,55–78.
岩野英樹ほか,2007,地質学雑誌,113,326-339.
工藤崇ほか,2011,地質学雑誌,117,277–288.
工藤崇ほか,2020,地質調査研究報告,71,439-462.
Shinjoe, H. et al., 2019, Geological Magazine, 158, 47-71.
髙嶋礼詩ほか,2018,日本地質学会第125年学術大会講演要旨.
Yanagisawa, Y. and Akiba, F., 1998, Journal of Geological Society of Japan, 104, 395–414.