講演情報

[T13-P-22]京都府舞鶴市 冠島(若狭湾)の中新統火山岩の年代と岩相

*辻野 匠1 (1. 産業技術総合研究所・地質調査総合センター)
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キーワード:

中新世、K-Ar年代、丹後、北但層群、蝙蝠山、青葉山安山岩

 冠島は若狭湾西部のなかほどに位置する無人島で,海鳥オオミズナギドリの繁殖地であり,天然記念物に指定されている.当島は厳重に保護され,許可なく上陸することはできない"禁足"の地である.この中において冠島調査研究会は長年,環境省の委託を受け特別の許可を得た上でオオミズナギトリ等の生態調査を実施している.筆者は機会を得て調査隊に同行し,野外調査と試料2点を採取し,薄片作成・全岩化学分析・K-Ar年代測定を実施したので報告する.研究会・舞鶴市・環境省近畿環境事務所・文化庁・海上自衛隊舞鶴地方隊に謝意を表す.

冠島と北に随伴する沓島が火山岩からなることは巨智部(1894)の頃には知られていた.丹(1956)は冠島の稠密な生態調査・地質調査を行い,凝灰角蛮岩・凝灰質砂質泥岩に複輝石安山岩の溶岩が累重することを報告した.筆者の観察では島南部にハンモッキー斜交層理を示す凝灰岩・火山礫凝灰岩が分布し,上位に凝灰角礫岩を介して塊状暗色の溶岩が累重している.地層は北西傾斜(N39E6-17N)で島上部・北部は溶岩が分布し,一部で貫入岩が迸入する.これらには柱状・板状の節理が発達し,時に角礫化する.一部の貫入岩は上に抜けて溶岩に移化する.沓島も同様の火山岩からなる.筆者はこれが丹後半島伊根の丹後層蝙蝠岳部層に似ることを見出したが,当時の観察からも蝙蝠岳の安山岩(実際は玄武岩質安山岩)との類似性が指摘されていた(丹;石田,2010).試料は西海岸の溶岩と東海岸の貫入岩から採取した.

東海岸試料はシリカ=60.3%,総アルカリ=5.5%,K2O=2.23%で高カリウム系列の安山岩である.鉄鉱の包有物を含む斜長石と両輝石が班晶で集斑晶をなす.斜長石の内部は蜂の巣状で,石基はハイアロオフィティック組織を示す.小さい斜長石は融食される.西海岸試料はシリカ=56.9%,総アルカリ=4.5%, K2O=1.77%で,玄武岩質安山岩と安山岩の組成境界で,こちらも高カリウム系列である.薄片は東海岸のものと類似するが,ほとんどの斜長石が汚濁・蜂の巣状である.

さて,丹後半島には中新統北但層群が分布し陸成の下部と海成の上部にわかれる(⼭元・星住,1988).下部は厚い玄武岩・玄武岩質安山岩の八鹿層とそれを覆う流紋岩の豊岡層からなる.上部は網野層・丹後層で,網野層では流紋岩質,丹後層は主にデイサイトからなるが,最上部に再度苦鉄質岩(蝙蝠岳部層)が上載する.舞鶴・高浜(福井県)にかけて分布する内浦層群は堆積岩主体で上限は15 Maころである(角井,1983; 中川,2009).北但層群も15 Maころで(山元・星住, 1988),蝙蝠岳部層は石基K-Ar年代で14.01±0.80 Ma(新井漁港南330mの海崖から採取)を示す.内浦層群最上部に蝙蝠岳部層に類するものがあることが近年,亀高ほか(2010)によって明らかにされた.内浦層群に累重する新規火山と考えられていた青葉山安山岩と大山安山岩(今日的区分ではともに玄武岩質安山岩)の全岩K-Ar年代がそれぞれ13.8±0.6 Ma, 14.1±0.4 Maと報告したのである.

冠島及び青葉山・大山安山岩と丹後半島の分析結果を合せてTAS図を示す(左図).主成分では蝙蝠岳部層と青葉山・大山安山岩は玄武岩質安山岩組成の同じ狭い領域に含まれる(八鹿層とも共通する)が,冠島は異なり安山岩組成でしかも値が集らない.不適合元素のスパイダー図(右図)でも蝙蝠岳部層と青葉山・大山安山岩は似るが冠島はLILEが高く,むしろ丹後層デイサイトに近い.北但層群では八鹿層の苦鉄質火山活動から豊岡層・網野層の珪長質活動にジャンプし,丹後層でデイサイト質に遷移するが最上部(蝙蝠岳部層)で再び苦鉄質に戻るという変遷が認められている(左図).この変遷とあわせると冠島火山岩は蝙蝠岳部層に対比できない.近いものは丹後層の立岩(京丹後市)である.これは東西1.4km幅の岩床であるが,デイサイトから安山岩組成まで多様である.蝙蝠岳部層の前には中間的な火山活動があったのかもしれない.しかし,年代値は丹後層としては矛盾する結果だった.東海岸試料の石基のK-Ar年代は 11.75±0.28 Ma (蝙蝠岳部層ともに蒜山地質年代学研究所)を示し,蝙蝠岳部層を含めて北但層群と有意に異なる.

石田志朗 2010 表層地質図「網野・冠島」
亀高正男ほか 2010 福井市自然史博物館研報
巨智部忠承 1894 20万分の1地質図幅「宮津」
中川登美雄 2009 瑞浪市化⽯博物館研報
⾓井朝昭 1983 ⼤阪微化⽯研究会誌,10,22−28
丹信實 1956 京都府冠島の生物,平安学園教育研究会研究論集I 113p
 (刷本を「オオミズナギドリと冠島」天声社(亀岡)として製本,1977)
⼭元孝広・星住英夫 1988 地質雑