講演情報
[T13-P-24]岡山県新見市哲西町における中新統備北層群の地質と微化石
*河田 圭太1、入月 俊明1、林 広樹1、辻本 彰1、田中 裕一郎2 (1. 島根大学、2. 産業総合研究所)
キーワード:
備北層群、岡山県新見市哲西町、貝形虫、有孔虫、中期中新世最温暖期
備北層群は,岡山県西部の新見地域と広島県三次・庄原地域に分布し,前~中期中新世に形成された瀬戸内区中新統を構成する代表的な地層である(柴田・糸魚川,1980; 糸魚川・柴田,1992).入月ほか(2021)は最新の生層序学的研究を取り入れ,新たに瀬戸内区中新統の対比と海水準との関係を総括した.それによると,備北層群は中期中新世最温暖期の海水準上昇期に形成されたとされている.本研究地域が含まれる広島県庄原市東城町から岡山県新見市哲西町にかけての地域は東城地域と呼ばれ,いくつか化石に関する研究がなされている(氏家,1976; 渡辺ほか,1986など).しかしながら,岡山県新見市哲西町では,底生有孔虫化石の研究はなされているが(渡辺ほか,1986),他の石灰質微化石に関する報告は無く,地質に関しても詳細に検討されていない.
そこで,本研究の目的は,岡山県新見市哲西町において,詳細な地質調査の結果に基づき,備北層群の岩相層序を確立し,さらに,産出した微化石の分析などに基づき,年代決定と古環境の復元を行うことである.微化石分析のため,調査地域内の地点において約200〜300 gの岩石試料を合計41試料採取した.有孔虫化石と貝形虫化石に関しては,硫酸ナトリウム法と石油ナフサ法を併用し,試料を構成サイズまで細粒化させ,200メッシュ(開口径:75 μm)の篩で水洗・乾燥させた.その後,乾燥試料を80メッシュ(開口径:180 μm)の篩で選別後,粗粒堆積物を適宜分割し,双眼実体顕微鏡下で微化石の抽出・同定を行った.石灰質ナンノ化石については,スメアスライド法を用いてスライドを作成後,偏光顕微鏡下で同定を行った.
地質調査の結果,本研究地域の基盤岩類は白亜系であり,下位から硯石層群稲倉層,第1期安山岩類の安山岩質凝灰岩,および貫入岩の石英斑岩からなる.その上位に中新統備北層群が不整合で重なる.本研究地域の備北層群は全体的に上方細粒化を示し,下位より礫岩層,粗粒~細粒の砂岩層,砂質シルト岩層,およびシルト岩層からなる是松層と塊状の黒色泥岩層からなる板橋層から構成される.これらを貫いて,第四紀玄武岩が点在する.
微化石分析の結果,堆積年代に関しては,是松層と板橋層の試料から石灰質ナンノ化石の年代指標種であるSphenolithus heteromorphusとHelicosphaera ampliapertaが産出した.また,板橋層の試料から年代指標種である浮遊性有孔虫化石のPraeorbulina sicanaが産出した.これらの結果から,備北層群は石灰質ナンノ化石帯のCN3帯,浮遊性有孔虫化石帯のN8帯に相当し,他地域の備北層群の研究結果と整合的であった.
是松層から多くの底生有孔虫化石と貝形虫化石が産出した.底生有孔虫化石に関しては,下・中部の砂岩層から内部浅海帯の古環境を示唆するAmmonia tochigiensisとNonion kidoharaenseの2種が主に産出した.貝形虫化石に関しては,中部の砂質シルト岩層から主に温暖浅海性のAcanthocythereis noriyukiikeyaiやTrachyleberis mizunamiensisが産出した.上部のシルト岩層から湾域の泥底環境を示唆するPalmoconcha irizukiiが多産し,深海性種であるKrithe sp.も見られたが,砂質シルト岩層から多産した種や葉上種のPseudoaurila okumuraiなども共産した.このように,シルト岩層の層準では水深が深くなったが,周辺に基盤岩が広く分布していることから,岩石海岸などから浅海性種が運搬され,混在したと推定される.
板橋層の黒色泥岩層から多くの貝形虫化石と浮遊性・底生有孔虫化石が産出した.貝形虫化石に関しては,暖流影響下の水温が高い上部漸深海帯を示唆するCytherella sp., Argilloecia sp., Krithe sp.が優占したが,引き続き温暖浅海性のTrachyleberis mizunamiensisなども共産した.底生有孔虫化石に関しては,Heterolepa praecinctaやUvigerina spp.などの中部浅海帯~漸深海帯の種が多産した.浮遊性有孔虫化石に関しては,暖流影響下を示唆するGlobigerina angustiumbilicataや成層構造が崩壊し,湧昇流や冷水渦などの発達を示唆するGlobigerina praebulloidesが多産した.
以上のことから,本研究地域に分布する是松層は,周囲に岩石海岸や島などが点在する温暖な内湾沿岸環境から古水深が徐々に増加し,板橋層堆積時には暖流の影響を強く受け,まだ浅海からの影響を受けるが,開放的な上部漸深海帯に変化したと推定される.
引用文献 糸魚川・柴田 (1992) 瑞浪市化石博研報, 19, 1–12. 入月ほか (2021) 地質雑, 127, 415–429. 氏家 (1976) 地質雑, 82, 51-67. 柴田・糸魚川 (1980) 瑞浪市化石博研報, 7, 1–49. 渡辺・石垣 (1986) 瑞浪市化石研報, no. 13, 15–25.
そこで,本研究の目的は,岡山県新見市哲西町において,詳細な地質調査の結果に基づき,備北層群の岩相層序を確立し,さらに,産出した微化石の分析などに基づき,年代決定と古環境の復元を行うことである.微化石分析のため,調査地域内の地点において約200〜300 gの岩石試料を合計41試料採取した.有孔虫化石と貝形虫化石に関しては,硫酸ナトリウム法と石油ナフサ法を併用し,試料を構成サイズまで細粒化させ,200メッシュ(開口径:75 μm)の篩で水洗・乾燥させた.その後,乾燥試料を80メッシュ(開口径:180 μm)の篩で選別後,粗粒堆積物を適宜分割し,双眼実体顕微鏡下で微化石の抽出・同定を行った.石灰質ナンノ化石については,スメアスライド法を用いてスライドを作成後,偏光顕微鏡下で同定を行った.
地質調査の結果,本研究地域の基盤岩類は白亜系であり,下位から硯石層群稲倉層,第1期安山岩類の安山岩質凝灰岩,および貫入岩の石英斑岩からなる.その上位に中新統備北層群が不整合で重なる.本研究地域の備北層群は全体的に上方細粒化を示し,下位より礫岩層,粗粒~細粒の砂岩層,砂質シルト岩層,およびシルト岩層からなる是松層と塊状の黒色泥岩層からなる板橋層から構成される.これらを貫いて,第四紀玄武岩が点在する.
微化石分析の結果,堆積年代に関しては,是松層と板橋層の試料から石灰質ナンノ化石の年代指標種であるSphenolithus heteromorphusとHelicosphaera ampliapertaが産出した.また,板橋層の試料から年代指標種である浮遊性有孔虫化石のPraeorbulina sicanaが産出した.これらの結果から,備北層群は石灰質ナンノ化石帯のCN3帯,浮遊性有孔虫化石帯のN8帯に相当し,他地域の備北層群の研究結果と整合的であった.
是松層から多くの底生有孔虫化石と貝形虫化石が産出した.底生有孔虫化石に関しては,下・中部の砂岩層から内部浅海帯の古環境を示唆するAmmonia tochigiensisとNonion kidoharaenseの2種が主に産出した.貝形虫化石に関しては,中部の砂質シルト岩層から主に温暖浅海性のAcanthocythereis noriyukiikeyaiやTrachyleberis mizunamiensisが産出した.上部のシルト岩層から湾域の泥底環境を示唆するPalmoconcha irizukiiが多産し,深海性種であるKrithe sp.も見られたが,砂質シルト岩層から多産した種や葉上種のPseudoaurila okumuraiなども共産した.このように,シルト岩層の層準では水深が深くなったが,周辺に基盤岩が広く分布していることから,岩石海岸などから浅海性種が運搬され,混在したと推定される.
板橋層の黒色泥岩層から多くの貝形虫化石と浮遊性・底生有孔虫化石が産出した.貝形虫化石に関しては,暖流影響下の水温が高い上部漸深海帯を示唆するCytherella sp., Argilloecia sp., Krithe sp.が優占したが,引き続き温暖浅海性のTrachyleberis mizunamiensisなども共産した.底生有孔虫化石に関しては,Heterolepa praecinctaやUvigerina spp.などの中部浅海帯~漸深海帯の種が多産した.浮遊性有孔虫化石に関しては,暖流影響下を示唆するGlobigerina angustiumbilicataや成層構造が崩壊し,湧昇流や冷水渦などの発達を示唆するGlobigerina praebulloidesが多産した.
以上のことから,本研究地域に分布する是松層は,周囲に岩石海岸や島などが点在する温暖な内湾沿岸環境から古水深が徐々に増加し,板橋層堆積時には暖流の影響を強く受け,まだ浅海からの影響を受けるが,開放的な上部漸深海帯に変化したと推定される.
引用文献 糸魚川・柴田 (1992) 瑞浪市化石博研報, 19, 1–12. 入月ほか (2021) 地質雑, 127, 415–429. 氏家 (1976) 地質雑, 82, 51-67. 柴田・糸魚川 (1980) 瑞浪市化石博研報, 7, 1–49. 渡辺・石垣 (1986) 瑞浪市化石研報, no. 13, 15–25.
